Special
» 2020年03月23日 10時00分 公開

DX推進で成果が出る組織だけが持つ特徴は:DXが全然進まない「PoC貧乏」はなぜ生まれる? 「抵抗勢力」を味方につける、冴えたアプローチ

「私たちはPoC貧乏」――。DXの推進状況を調査したら、何年もPoCばかりを続けるPoC停滞企業が大量にあぶり出された。PoCの“沼”を脱出するにはどうしたらよいか。DX実践企業を支援する人物に聞く、PoC貧乏突破の冴えた手法とは。

[PR/ITmedia]
PR

 現在多くの業界で注目されるデジタルトランスフォーメーション(DX)だが、その進捗(しんちょく)はさまざまだ。Dell Technologies(デル)インフラストラクチャ・ソリューションズ統括本部データセンターコンピューティング部門が実施した従業員1000人以上の企業を対象にした大規模DX動向調査(注1)では、5年前にDXのプロジェクトをスタートした企業の44.1%がまだPoC(概念検証)フェーズにいることが分かった。

 この調査では、PoCから次のステップに進めない企業から「PoC貧乏に陥っている」とのコメントが寄せられた。「PoC貧乏」という言葉はこの数年、企業のAI活用の文脈でよく聞くようになった言葉だ。本来のPoC貧乏は、大手企業がAIや新しいテクノロジーを用いたDXの実験的プロジェクトを推進し、良い結果が出たとしても次のフェーズに進まない状況や、それに関連して企業のPoC支援に参画する先進的なベンチャー企業がなかなか発注を受けられず、協力したベンダーが困惑する現象を表すものだった。本来の意味でのPoC貧乏も大きな課題だが、今回は大手企業のDX動向調査の中で、DXのPoC貧乏に当てはまるとした回答者がいた。

 こうした企業は、事業部門を巻き込むことに失敗し、時間ばかりが過ぎ、徐々に予算確保が難しくなる傾向にある。やっとのことで獲得した予算も、年度内にポジティブな投資対効果を説明しにくく、悪循環を繰り返してしまっているようだ。「無間地獄のようだ」というコメントも寄せられた。

 部門を横断して対話しながらプロジェクトを進めるアジャイルの手法の一つである「スクラム」(Scrum)は、注目のスタートアップなどが採用することからも、ここ数年で一般にも広がっている。だが今回デルが実施した「DX動向調査」が対象とした大手企業では、アジャイルやスクラムを一部では使っていると思われるが、組織全体での本格採用は少数派だった。

 本稿では、日本国内におけるスクラムの普及、アジャイル企画開発の発展に貢献してきた平鍋健児氏(永和システムマネジメント)に、筆者(デル 執行役員戦略担当 清水博)

が調査結果を報告し、DXのこと、PoCのことを聞いた。

(写真左:平鍋健児氏、右:筆者)

注1:「DX動向調査」(調査期間:2019年12月1〜31日、調査対象:従業員数1000人以上の企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:479件)。




「PoC滞留企業」の視点を変える〜PoCの成功率は30%もあってはならない

清水: 今回、私たちが実施した「DX動向調査」ではDXの対象範囲が企業によってさまざまな状況でした。また「DXの目的」を聞いてみると、「現実的改善」を挙げる声が「破壊的変革」とする意見を上回っていました。

平鍋: DXの捉え方は確かにいろいろあると思いますが、「デジタルトランスフォーメーション」といったときに、僕はやっぱり「イノベーションサイド」のことを考えます。

 「基幹系で今動いている業務システムをよりデジタル化しよう」あるいは「より消費者視点で業務プロセスを変えよう」といった既存の枠組みの改善を目指すものではなくて、「そもそも今のビジネスモデルだけで良いのか?」「突然、ディスラプターが市場に入ってきたときにこの稼ぎ方をいつまで続けられるか?」と問いかけたときにどうするか、という問題です。

 こう考えたとき、自分たちが得意とする領域を全く離れたところで新しいビジネスモデルを構築するのは現実的ではありません。周辺領域でまだビジネスになるかどうかが分からないけれども何らかのイノベーションを起こしてみる。DXはこうした領域にデジタルやソフトウェアの力を使うものだと思っています。

清水: 調査では、5年以上前にDXの取り組みをスタートした企業のうち、PoC段階から脱することができない企業が44.1%を占めていることが明らかになりました。ここの段階にとどまる企業の特徴として、新しい開発手法や組織の変化をあまり望んでおらず、しかもPoC期間が長くなることで人材確保や予算確保などがどんどん難しくなり、苦しんでいる様子がうかがえました。

平鍋: 僕は「PoCはそんなもんだろう」と思っています。まずビジネスとして当たるか当たらないかが分からないし、ビジネスモデルが確立できるかも分からない。「システム」とその「ビジネスモデル」、それから「対象顧客」の全体を小さな卵から始めて少しずつ大きく育てていく活動だがPoCだと僕は思っているんです。

 もしうまくいくのであれば、あるいはその流れでちゃんとコストと利益のバランスが取れるモデルを描けたときには本開発に進むことがあるかもしれません。でも僕はそもそもPoCの成功率が30%もあったらおかしいと思っています。

 新しいビジネスモデルですから、正解はたぶん(私たちの頭の中ではなく)市場が持っているはずです。だから市場との接合点――システムでも何でもいいのですが、ソフトウェアだったりIoTだったりという「今のもの」を使って、「いかに市場にフィットするものを、現在のメインビジネス周辺で作れるか」を軸に仮説を立て、それを検証していく活動がPoCです。こうしたことを考えると、恐らく成功率は5%程度がせいぜいでしょう。

 20個のPoCからたまたま1個の新しいビジネスモデルの核となるものが生まれればいいんです。「インキュベーション」(Incubation=ふ化から転じて、事業創出などを表す)とはそうした意味ですから。(企業が実践するPoCプロジェクトをスタートアップに例えるなら)要するに投資家が一定の資本を、幾つかのプロジェクトに出資して、四半期ごとに進捗を見ていき「これはいけそう」「これいけそうじゃない」と判断をしていく。投資の流量を変えながら、より確度の高いものに資本を投下して、既存のビジネスとつなぐという活動だと思います。

清水: そう考えると、今回の調査で見えてきた、5年間PoCを続ける企業が「PoC貧乏」を悲観することはなさそうですね。むしろ新しいアイデアで市場との接点を取りつつ、ビジネスの可能性を探り続け、「卵」をあたため続ける状況と見ることができそうです。PoCから進まないことに課題を感じるよりは、卵のふ化が起こったときにどう備えるかに関心を振り向けるマインドが必要そうです。

アジャイル・スクラムを重視する企業(出典:デル「DX動向調査」)

事業部門の抵抗をアジャイルでつなぐきっかけはどこにあるか

清水: DXの成熟度指標(注2)において「PoC評価企業」に分類された企業の中には、事業部門の抵抗で進捗が悪いと感じるとする回答が33.9%もありました。よりDXが進んだ段階にある「デジタル推進企業」で同じ項目を見ると、事業部門の抵抗を感じるとした回答は1割ほどです。

 この「事業部門の抵抗」はPoCフェーズにいる企業の一番大きな特徴だと感じられます。この点で、事業部門の理解や協力を得やすいアジャイルの手法はDXの推進に貢献するのではないでしょうか。

平鍋: 特に複雑な業務があるところは、こまごまとしたシステムが複数かかわっていることが多いので、現状から変化させることは困難を伴いますし、現場の抵抗もあるでしょう。しかしベテランが退職する年齢になれば、従来のシステムを理解できる人はどんどん減っていきます。既存システムの運用は人手不足に陥り、残業がどんどん増える状況が予測できます。そこで働く人たちの働き方改革もしなくてはいけませんから、そもそも今ある業務のやり方変えなければ到底まわりません。事業部門の悩みごとを持ち寄ってもらい、「その場で解決策を作っちゃう」という活動からアジャイルの取り組みが始まること多いのです。ただし「その場で解決策を作っちゃう」という行動を実践するには双方がシステムのことを分からないといけません。

 ですからPoCを進める側も現場の声を「抵抗」とするのではなく、改善のための意見として耳を傾けることも必要です。当然、意見を聞いたらアクションで応答します。例えば現場で話を聞いて「こんなのでどうですか?」と大枠のデザインを共有したら1週間くらいでプロトタイプを作って、また「こんなのどうですか?」というところから意見を求める。この積み重ねを経て、合意形成を図るわけです。そして、双方が「あ〜それいいですね! 使ってみましょう」という話になれば良いわけです。そういう意味では、僕らがアジャイルの中で実践する活動はPoCとは呼びませんけれども、プロジェクト推進の施行としては生かせることが多いのではないでしょうか。

注2:DXの成熟度指標:指標は複数あるがデルは5段階で評価している。詳しくは「日本企業は「組織全体」としてDXをどう見ているか、調査属性から探る」を参照。


組織改革の兵器としてのスクラム

清水: 今回の調査ではアジャイルを「DXを実現する鍵の一つ」と指摘する企業は全体の43%にのぼりました。アジャイル型のプロジェクト推進が日本企業の中に徐々に浸透しつつあると考えられます。現にこの回答グループは、DXの進捗度合いでも全体平均を上回っており、「自社で成熟したデジタルプラン、投資、イノベーションを確立している企業」である「デジタル導入企業」(Digital Adopters)とする企業が9.6%と全体平均よりも3.5ポイントも高くなったのです。この結果からもアジャイル型のプロジェクト推進や組織運営の手法は、DXを加速する要素があるといえるのではないでしょうか。

 一方で「スクラムがDXの鍵だ」と表明する企業は全体の13.3%とまだ少数派ですが、DX進捗では大きな進展があることが明らかになっています。このグループは「デジタル導入企業」が25.0%と、全体平均よりも18.9ポイントも高いのです。スクラムに関心を持つ組織がDX推進において圧倒的な成果を出していることが分かります。

全体平均とアジャイルを重視する企業グループ、スクラムを重視する企業グループをプロットする

スクラムの手法は組織を変える「兵器」になる

清水: 平鍋さんは日本国内におけるスクラムの普及、アジャイル企画開発の発展に貢献してきましたが、2019年からはScrum Inc. Japanの取締役にも就任されましたね。スクラムに関心がある企業の方々と関わる機会が多いと思いますが、いかがでしょうか。

平鍋: Scrum Inc. Japanは国内でアジャイル開発手法であるスクラムを広める目的で立ち上げた組織「Scrum Inc.」の日本法人です。ここに集う企業の皆さんはスクラムを“兵器”に使って組織改革を実践したいと希望する方ばかりです。ソフトウェア開発はむしろあまり扱いません。

清水: スクラムというとソフトウェア開発の部門で採用されるイメージが強いので、企業全体の組織改革を目指す方が多いのは意外です。

平鍋: 会社を概念的に考えると「組織」と「事業」とみることができます。「事業」の中にはソフトウェアももちろん含まれます。この「事業」の領域でスクラムを組むというのが、今までのパターンです。ところが今では全ての事業にソフトウェアが入るようになってきたので「組織」にも関係するものとして捉える方が自然です。そこで組織全体を全部スクラムで運営しよう、というアプローチが注目されるようになりました。ところが、そうなると組織全体に関わる意思決定をどの部署の誰がどう実行するのか、という問題が出てきます。こうした背景から、スクラムが今まで対象と考えたことがなかったマーケティング部門や人事部門などの領域でスクラムを運用してみようという話が多いのです。

 「チーム」という単位が一番効率良く機能するということが、企業の皆さんもだんだんと分かってきたんですね。チームとはおよそ5〜7人で編成します。組織を解体してどうチームに分割していくかを考えるのです。チーム単位で意思決定ができれば、強いはずですよ。スクラムが組織改革の兵器になるというのは、この強さです。

清水: お話を聞くと、日本の企業がDXをもう一段進めるには、まずDXやPoCの本質的な意味を考え、原点に立ち戻って考え直す必要があると感じます。また小さなPoCプロジェクトで市場とのかかわりを検討し続けることでDX推進の希望をふ化させられるのだと理解できました。この意味で、スクラムを軸にDXを推進するために永和システムマネジメント本社にオープンした「Agile Studio Fukui」は興味深い施設ですね。

Agile Studio Fukui

平鍋: Agile Studio Fukuiは、PoCから商用サービス、社内業務システムの開発まで、さまざまな技術領域に対応した開発支援や、資格を持った有識者によるコーチングを含めたアジャイル開発の導入支援まで幅広いサービスを展開しています。今お話しした通り、スクラムの手法を正しく理解して実践し、組織改革につなげていただくための施設です。

清水: DXにはアジリティの高い組織は欠かせないでしょう。DX推進のカギを握るスクラムを理解し、PoCをより良い形で進め、DX導入企業へのステップを進んでいただきたいですね。Agile Studio FukuiやScrum Inc. Japanはそうした企業の改革のドライバーとして期待されているのでしょうね。

平鍋: 多くの皆さんにスクラムの手法を伝え、よりよい組織づくりを実践する企業に増えていただきたいと思います。

清水: ありがとうございました。




対談を終えて:DX推進のドライバーとしてのスクラム導入とその熱量を伝える

 DXを実践している企業こそ「DX」という看板を掲げないというが、平鍋氏も「DX」という言葉では語らない。だが平鍋氏の言葉からは、企業を変える大きなパッション、熱量を感じた。DXに必要なのはこの熱量なのではないかと考えた。

 今後デルは、平鍋氏を招へいし、企業のDX担当者やIT部門担当者を対象として、DXを推進するために必要なリカレント教育の講座としてセミナーやワークショップを開催していく。受講希望の方は下記のアンケートに回答することで申し込める。

アンケートはこちら

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:Dell Technologies
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2020年4月30日