緊急テレワークを体験して日本企業のIT戦略はどう変わったか。デルが実施した緊急アンケートによると約6割の企業が2020年度のIT投資分野を変更。新たな投資先への予算投入を計画している。IT戦略見直しの状況を知り、潮目を読む。
2020年春の緊急事態宣言をきっかけとした外出自粛要請は想像以上に企業のITに影響を与えている。IT業界でも、ユーザーとベンダーの打ち合わせは非対面なスタイルに変わったが、中身はより濃厚になりお互いのロードマップをシェアするなど、より綿密なプランニングを討議するケースも増えたという。またIT投資計画を根本から見直す企業もあると聞く。
通常は前の会計年度のうちに次年度のIT予算は詳細まで決める。しかし、2020年度は、多くの会社が新年度のスタートを迎える4月1日には既に東京都で自粛要請が出ており、感染症被害の影響が計り知れなく大きくなったことから、前年度に決めておいてIT予算を組み替えて緊急対応しなければならなかったことだろう。
毎年報告されるITの投資動向の調査も同様だ。前年の年末に調査をし、その後に分析して春先に発表されるというのが常だ。しかしながら、年末を思い起こしてみても、少し将来不安な要素もあるものの、周囲にはまだ好景気を感じていた。事実、2019年12月には、生産、雇用などさまざまな経済活動の動きや、重要かつ景気に敏感に反応する指標の動きを統合した経済指標である内閣府発表の「景気先行指数」が、前月と比較して0.8ポイント上昇し、8カ月ぶりの上昇となった。しかし現在では各種経済指標も、自身の肌感覚も全く別次元のものになってしまっている。
Dell Technologies(以降、デル)で「PowerEdge」を担当するインフラストラクチャ・ソリューションズ統括本部 データセンターコンピューティング部門は、連休明けの2020年5月7〜14日、緊急の投資動向調査を実施した。従業員数1000人以上の大手企業4383社を対象にしたもので、全体の7.4%に当たる327社から回答を得た。
その結果、ユーザー企業のほぼ6割に当たる企業で当初のIT予算計画を変更するという結果が出た。きっちり吟味して決めた計画を変更するということは、日本の大手企業ではあまり聞かないだけに、現在置かれる状況が極めて特殊であることが判明した。
計画変更後の投資先としては、やはり在宅勤務のためのテレワーク環境構築が多い。だがここで注意したいのが、今回の調査が大手企業に絞っているということだ。いわゆる「働き方改革関連法」への対応などもあり、今回のパンデミックをきっかけに初めてテレワークを導入するに至った中小企業とは状況が異なる。初めてのものを緊急で短期間に導入できるほどITのプロジェクトは簡単ではない。
大手企業の場合、総務省や厚生労働省などが主導して2017年から始まった「多様なワークスタイルの浸透と働き方改革の推進を目指す取り組み」である「テレワーク・デイズ」にも参加しているかもしれない。
特に2019年は、4年に一度の世界的なスポーツイベントを1年後に控え、7月22日から9月6日までの約1カ月の中で5日以上のテレワーク実施を推奨した。この期間は東京都内の混雑も約10%ダウンしたとされる。相当数の参加者がいたことから、シミュレーションとしては大規模なものが実施できていたはずだ。少なくとも大手企業は部分的にでもテレワークを導入していることを考慮すると、今回の投資変更はテレワークの「拡張」に向けられているケースが高いものと考えられる。
44.1%の企業がDXのPoCフェーズ、日本企業は「DX夜明け前」なのか?
デジタルトランスフォーメーション(DX)の言葉が世に出てから6年ほどたちます。共通な認識を持つことが難しいこの言葉ですが、実際に従業員1000人以上の企業について実態を調査したところ、予想以上に変化の兆しが見えてきました。
「備えあれば憂いなし」という言葉通り、2019年度の段階でテレワークの予行演習に正面から対応し、ノートPCを積極的に導入し、職種によるリモートワーカーの可否の確認をしっかり実践した企業にとっては、今回の自粛要請もおおむね対応できたのではないだろうか。
しかし注意しなければいけないのは、テレワーク・デイズの時のリモートワークは数カ月も前から計画したものであるということだ。テレワーク・デイズのアンケート(注)を見ると資料作成や企画立案など、スタンドアロン的な仕事がはかどったというコメントが多く、会社で通常に動いているビジネスプロセスをリモートワークで実験するケースは多くなかった。「少しオフラインで仕事をする」といった意味合いが強いものであって、現在のようにオンラインミーティングなども頻繁に実施する想定ではなかった。そのため、今回のテレワーク体験では社内のITのあちこちにストレスが発生し、増強や見直しの検討が求められた。
大きなところではVPNが挙げられるだろう。調査ではテレワーク・デイズ参加企業でも実際の会社と同じ業務を在宅で実施するとVPNのユーザー数の想定を超えてしまったり、パフォーマンスが悪かったりして業務に対応し切れないとのコメントも寄せられた。
この他にもネットワークの容量不足によってテレワークに障害が出たことも報告されている。
喫緊の課題を問う設問では「テレワーク環境の構築」の44.9%を上回る46.5%の回答者が「ネットワーク/セキュリティの再設計・構築」を挙げる結果となった。次いで「統合、集約化など、サーバやストレージ環境の見直し」が37.0%となっており、ITインフラの強靭化を指向している状況が読み取れる。
外出自粛要請を受けた際、私たちが大規模なテレワーク環境を展開して在宅勤務を始められたのは、IT部門の懸命な努力と献身的な行動による支えがあったからこそだ。中には必要に応じて会社やデータセンターに出勤し、夜遅くまでギリギリのスケジュールで作業をこなして乗り切ったケースもあると聞く。
社内ITの管理は、そもそもなるべく手間がかからないように設計してあるはずだが、会社に在席して対応することを前提としているので、オンサイトの作業を減らすために極限まで自動化したり、全てをリモート環境で対応する環境を整備したりすることは想定していなかっただろう。
管理対象のシステムでサーバ台数が多くて業務が煩雑になったり、導入から時間がたちメンテナンスが難しいサーバが多少含まれていたりしても、稼働していれば平時であれば大きな問題になることはない。こうしたことから新規サーバを調達したり、仮想化統合などを進めたりして古いサーバ類を移行したいといったIT部門の要望はあるが、予算や人員不足の理由に、塩漬けになることが多いのが現状だ。
災害対策にしても、過去の災害を想定してITのBCP化にも着手しているとはいえ、なかなか投資対効果が見いだしにくい領域であることから、全てのシステムで十分な対策を施せるわけではない。
あの時どうすればよかったのか? 今こそ振り返る20年前の「IT革命」
「IT革命」というコトバを同時代として知っている方は、ほろ苦い記憶があるではないでしょうか? しかし、もう一度振り返ることで、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みに変化が出るかもしれません。連載名「IT革命2.0」のタイトルに込めた思いをお伝えします。
ところが今回の自粛要請で、IT部員もオフィスに通うことが難しい現状を目の当たりにすると、状況は大きく変わった。
今回の調査結果では、回答者の多くが、全てリモート環境でサーバを管理でき、管理を容易にするために、徹底したシステム構成のシンプル化を進め、BCP(事業継続計画)にも耐え得るITの強靭化が必要であると感じていることがよく分かる結果となった。今まで経験してきたように感染症の抑え込みに成功して事態が沈静化すれば、このデータが示す「実感」も忘れ去られるかもしれないが、これだけ多くの企業で同時期にBCPや老朽化したシステムのリプレースであるモダナイゼーションの予算を増額するタイミングはいまだかつてなかったことではないだろうか。
今回の調査で明らかになった大きなトレンドの1つが、ITによるBCP対策だ。
調査では31.5%の企業が予算を増やしてITを活用したBCP対策を実施することが判明した。BCPとは、本来、想定外の事態が発生した場合、企業の中核事業を止めることなく実施できる方法や手順をあらかじめ記載された経営計画や経営戦略であるが、近年ビジネスオペレーションを止めないということは、ほぼITを止めないことと同義といえる。
今回、多くの企業がBCPを見直しているのは、過去経験した自然災害のように極地的な問題で代替施設でオペレーションを継続できるものと異なり、極めて広域であり日本全国や、アジアの生産地域、全世界の拠点に及ぶため、今までのBCPの考えでは不十分な企業が多いと感じているからだ。パンデミックに対応するBCP策定の準備に入った状況といえる。
もう一つのトレンドの変化は、レガシー化したシステムのマイグレーションへの考え方である。レガシー化とは、現状のシステムが老朽化してしまい、管理維持コストが減少することなく続き、アーキテクチャが古いために最新テクノロジーのメリットを享受できない状況を指す。さらにシステムそのものが孤立化していることも多く、サポートする人材の養成も難しい状況が挙げられる。
レガシーから脱却することがモダナイゼーションだ。今回の緊急調査では、39.8%の企業が、モダナイゼーションを強化するとしている。今まで、本当に必要に迫られた時の対応であったと思われるが、今後は積極的に移行が進む可能性がある。
今回の調査で何よりも驚いたのは、モダナイゼーション対象のサーバがまだ多く残されていたという事実だ。昨今の他の調査では、モダナイゼーションは大まかに終了しているとする企業が多かったが、今回の結果見ると、さらに見直しが進んだか、すぐれた管理の容易性を求めてモダナイゼーションのレベルをもう一段引き上げた可能性がある。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を考える上で、まずはモダナイゼーションを実行していくことが重要だとする意見もある。レガシーのように孤立化することなく、社内のさまざまなシステムと有機的にリンクし、デジタルデータを集約、解析してビジネスにフィードバックできるようになるからだ。
過去、DXの推進で苦労する企業も散見されてきたが、今回のITにおけるBCP対策やモダナイゼーションの推進をきっかけに、企業のITインフラ強化が進み、予期せずDXを推進しやすい風土を実現する副次効果もありそうだ。
Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏は、2020年3月期の事業状況を振り返る際「2年分に相当するDXが2カ月で起こるのを見た」とコメントした。テレワークは今始まったものではなく、PCが個人でも手に入りやすくなった90年代から提唱されてきたが、限定的な利用にとどまっていたといえる。しかし今回、社内外を問わずテレワークによる在宅勤務が実施されたことで、最新テクノロジーを生かしたオンラインミーティングが実用レベルにあることが広く認知された。また、一気に利用が広がったことで、さまざまな可能性も感じられた。従来実践してきた働き方改革についても、大規模な実運用の中で改めて本質について見つめなおすことにもなった。
ここ数年、従業員数1000人を超える大手企業では、働き方改革が進展してきたが、今回の調査では6割を超える企業がさらなる働き方改革が進むとしている。
今回の感染症の影響の出口が見えづらいこともあり、より本格的な展開として、週休3日制の導入や、より広範囲なフレックスタイム制などを検討している企業も多くなってきた。会社内部を見ても、大勢が集まる定例ミーティングや、従業員同士で打ち合わせなどは基本オンラインでのビデオ会議に代替され、急速に、紙と印鑑によるプロセスが残る契約書や各種申請書なども一気にデジタル化が進むと予想される。
そして、その働き方改革を支えることが、デジタル化である。デジタルトランスフォーメーションの難しさは、2019年12月にデルが実施した「DX動向調査」を基にした記事「国内大企業の44%がいまだPoC段階……大規模調査で判明したDX推進の「本当の障壁」とは?」や「DXが全然進まない「PoC貧乏」はなぜ生まれる? 「抵抗勢力」を味方につける、冴えたアプローチ」で報告している。しかし、今回の調査では約4割の企業がデジタル化を加速すると表明していることが判明した。
今回の調査結果を受けて、デルのデータセンターコンピューティング部門は、新型コロナウイルス感染症の対策をきっかけに「企業のテレワーク環境は劇的に進んだが、それを支えるITインフラの強靭化の必要性を感じたことから、予算の使途の変更を検討している」と状況を分析する。
この調査結果からは、ITインフラだけの刷新だけではなく、高次元の働き方改革を目指す方向に企業が動き出していることが分かった。現在の取り組みは、今後のDXを大きく推進する可能性があるので、このタイミングをどのように捉えるかで、企業の未来の姿が決定づけられる可能性がある。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2020年8月31日