“子会社情シス”はこれからどうなるか 投資調査で見えた「パラドクス」と「次の選択肢」VUCAの時代の管理と自由、スピードと効率化

Dell Technologiesが日本企業を対象に「グループ企業子会社のIT投資実態調査」を実施した。調査結果からは親会社やグループ全体のガバナンスなどの関係から、IT投資の意思決定にさまざまな課題を抱える状況が明らかになった。中でも今後、顕在化しそうなのが子会社ならではのパラドクスだ。

» 2020年07月30日 10時00分 公開
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グループ子会社の情報システム部門はどのくらいコロナ禍に翻弄されたか

 2020年初めごろから、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、情報システム部門が緊急で対応しなければいけないことが一気に増えました。大々的なテレワーク環境の整備が求められたことから、今まで社内での集中管理を前提としてきたITリソースに、社外からリモートでアクセスできるような手配を急ぐ必要がありました。IT部門の日常は一変し、環境の構築を続けながら雨後のたけのこのように次々と沸き起こるトラブルや問い合わせへの対応を続けた方も少なくないでしょう。社員のテレワーク環境を整備するために、IT部門のメンバーは出社して夜遅くまで作業していたとも聞きます。多くの企業が全社的な緊急テレワークを実現できた背景には、敬意を払うべきIT部門や情報システム部門の献身的な活躍があったはずです。

 IT投資に関して、自社で全ての意思決定をできる企業の場合は、トップマネジメントが通常よりも早い判断をしたことでIT機器やネットワーク増強などの調達をスムーズに実現し、いち早く環境を構築ができた企業もあったことでしょう。一方で、グループ企業の子会社の一部では、IT機器の緊急購入やIT運用に関するポリシーの変更などを独自で決定できず、自社で工夫できることは最大限対応し、親会社と交渉を重ねて対応したケースも遭ったようです。

グループ企業子会社のIT投資の実態調査を実施

 Dell Technologies(以降、デル)での主力サーバ製品「PowerEdge」を担当するインフラストラクチャ・ソリューションズ統括本部 データセンターコンピューティング部門は、2020年3〜5月にかけて「グループ企業子会社のIT投資実態調査」を実施しました。従業員数1000人以上の企業4383社を対象に調査し、188社から回答を得ています。本稿はこの調査結果を基に、IT予算の意思決定権限の度合いが異なるグループ企業子会社の情報システムにおいて、コロナ禍の緊急対応でどのような投資判断が下されたかを見ていきます。

グループ子会社IT投資実態調査概要 グループ子会社IT投資実態調査概要

 一般に、日本の大手企業にはとても多くのグループ子会社が存在します。2018年の東洋経済新報社の調査によると(注1)、ランキング1位はソニーで1292社の子会社が存在し、2位に野村ホールディングスの1285社、3位にNTTの944社、4位に日立製作所の864社と続きます。このデータは連結子会社を対象としているので、資本比率が50%以上の子会社のみです。資本比率が50%未満のグループ子会社も含むとさらに多くなります。日本の伝統的な大手企業が構成するコングロマリットの規模に改めて驚きます。

注1:https://toyokeizai.net/articles/-/204910。社数は2018年当時のものです。


 日本に30社以上の子会社を持つ企業は467社存在し、その子会社の総数は5万0274社にのぼります。その中の子会社が株式市場に上場することも珍しくありません。日本の企業では子会社が上場するケースが米国と比べて12.2倍も多く、他の先進国と大きく異なります。子会社を多く抱える企業グループ経営は、現代では日本特有の経営スタイルの一つと言えます。一方で、国内外の子会社での不祥事や組織的な問題行為が発覚したことなどをきっかけに、企業グループのガバナンス強化も進みつつあります。今回の調査ではグループ子会社のIT投資に絞り、企業グループでのITガバナンス強化がITの運用にどのような影響を与えているのかを見ていきます。

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子会社のIT予算を管理するのは誰か

 子会社のITを運用する際に最も影響力が大きいのは「予算の決定と執行の可否」です。そこで調査では、ITに関する意思決定するのが親会社と子会社のどちらにあるのかを尋ねました。

 その結果は「親会社のアドバイスを参考にして子会社で独自に決定する」が38.4%、「子会社で独自に決定する」企業が30.8%、「親会社の管理」が24.5%と、各選択肢が3割前後の割合で均衡するものでした。この3つのパターンについて、企業規模や業種で傾向があるかどうかをも探りましたが、ほぼ同じ規模、業種であっても、親会社が管理する企業もあれば、子会社で独自に決定するという企業もあり、企業グループごとにIT方針が全く変わる実態が判明しました。企業グループに固有のIT活用の歴史や子会社の誕生の経緯などによって、全く異なる意思決定のスタイルになるようです。

グループ子会社ITの管理 グループ子会社ITの管理

 この「親会社の管理」「親会社のアドバイスを参考にして子会社で独自に決定する」「子会社で独自に決定する」企業の3パターンを図式化したのが次の図です。

 「親会社の管理」と「子会社で独自に決定する」は管理の主体が明確ですが、中間型である「親会社のアドバイスを参考にして子会社で独自に決定する」は、企業によりさまざまな管理や統制が要求されます。「口は出すが予算は出さない」といった方針もあり得ますが、企業ガバナンス強化の方針に連動して、中間型における管理や統制はさらに進むと思われます。

グループ子会社ITのガバナンスタイプ グループ子会社ITのガバナンスタイプ

子会社の3分の1が、IT予算を減額する見通しを表明

 今後の景気動向が不透明な現在ですが、グループ子会社のIT予算が今後どのように見込められるかの質問を設定しました。テレワーク環境構築のため、急いで予算を増額した企業もあったと思われますが「増加する」と答えた企業は19.4%にとどまりました。「変わらない」と答えた企業は全体のほぼ3分の1に相当する35.6%でした。「減少する」「大幅に減少する」を合わせると、35.6%に達しました。

 過去を振り返ってみると、経済的に大きなダメージがあった「リーマンショック」や東日本大震災の後もやはり多くの企業がIT予算を大幅に削減しました。ここ数年、IT予算は増加の傾向が続いていましたが、今後は過去と同様に、IT予算が削減される可能性を示唆する結果となりました。

グループ子会社 IT予算の変化 グループ子会社 IT予算の変化

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リスク回避の予算削減、IT予算を独自に決定できる企業ほど早く決断

 予算の増減について、意思決定の権限の在り処が異なる企業のそれぞれを比較してみました。予算が「変わらない」とした企業は、全てのタイプで40%ほどあり、それぞれに違いはありませんでした。しかし「大幅に減少する」と答えた企業が最も多かったのは、IT予算が「親会社の管理」の企業でした。親会社の迅速なコスト抑制判断の影響を子会社が受けている姿が判明しました。子会社が望まない突然な予算削減などで苦慮するケースは珍しくありませんが、いわゆる「コロナ禍」の影響が短期間で現れた結果と言えるでしょう。

 興味深いのは、IT予算について「減少する」と答えた企業の多くを占めたのが、IT予算を「独自に決定」している企業だった点です。これは自立して独自に意思決定ができる企業は、早めに可能な範囲でIT予算の削減に着手していたことを意味します。IT予算を自由に活用できる半面、自己責任での管理を求められる姿がうかがえます。また「親会社のアドバイスを参考にして独自に決定」する企業のIT予算は、現時点ではむしろ「増加する」方向にあることも明らかになりました。

グループ子会社 IT予算/意思決定 グループ子会社 IT予算/意思決定

半数は親会社と共通のIT基盤を「一部利用」する状況

 「現在運用している子会社のIT基盤」に関する質問では、「親会社との共通基盤を利用する」が31.8%と、全体の約3分の1の会社が該当しました。この数字は「子会社のIT予算を親会社が管理している」とする企業とほぼ同じ割合でした。IT予算や基盤をグループで共通化し、オペレーションも親会社と一体化するように「近い存在」と考えられます。

グループ子会社のIT基盤 グループ子会社のIT基盤

 予想外だったのは「部分的に親会社と共通基盤を利用」とした企業が約半数にのぼったことです。一般に、企業グループがIT基盤の共通化を目指す際、最初に着手するのは財務や会計のシステムです。企業買収やグローバル化による海外子会社設立などをきっかけにグループ企業が増加した企業の場合、拠点ごとに個別のシステムを導入するといった事情から、それぞれのシステムの管理が不十分になるケースが増えます。

 親会社からすれば、適時に適切なグループ連結決算を実現するためには、集計までのスピードや品質の向上が不可欠ですから、まずは財務や会計のシステムにおいてグループ全体の同期を取りたいと考えます。この他にも、購買管理や人事管理も親会社を軸にグループ全体で共通化する動きもあります。

 ここで、「部分的に親会社と共通基盤を利用」する企業が一定数存在するという調査結果の裏の意味を考えれば、子会社が独自に構築したシステムがかなり多いということでもあります。この場合、親会社からのサポートを期待できないため、子会社が独自にシステムを設計して構築する必要があります。特に意思決定にスピードが求められる昨今は、経営判断に必要なデータについてもスピーディーに準備する必要があります。こうした企業では、IT予算の減少が予測される中では、内製化などに取り組む必要も出てくると予測されます。

 なお今回の調査では、「全く独立したIT基盤を利用している」とした企業も約1割存在します。こうした企業の多くが、M&Aなどによりグループ企業に迎え入れられた企業で、企業の独自性などを尊重して、親会社が子会社のITに介入していないケースも存在することが分かりました。

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リモートワークをうまく運用できる組織の特徴は? DX調査にみる傾向

今回の調査では、リモートワークの実施状況も調査しています。当初は2020年夏に東京で開催される予定の大規模イベント対策としてのリモートワークの進捗(しんちょく)を調べる目的でした。しかし、この調査はくしくも感染症の流行などの有事の対応能力を示すデータになりました。リモートワークが普及している企業はDXも進んでいることが分かりました。それには、ハードウェア環境以外にも理由があります。

グループ子会社情シスが抱える「ガバナンス強化のパラドクス」

 調査ではこの他、IT予算の管理主体の違いにより、それぞれの企業が社内のITでどのような問題を感じているかについても尋ねました。

 「IT予算の獲得が難しい」と感じる企業は「親会社の管理」による企業の約過半数を占めました。一方で「独自に決定」できる企業の場合は、全体の4分の1に当たる28.6%の企業にのみ、問題意識があることが判明しました。

グループ子会社ITの問題点 グループ子会社ITの問題点

 またITに関するリソースや人材についは全ての企業が不足と感じており、経済産業省『DXレポート』を出すまでもなく、IT人材の枯渇が懸念される2025年を目前に、既に各企業が人手不足を実感しつつあることが分かります。

 今後コロナ禍による経済活動の失速をきっかけにさまざまなコスト削減が進む可能性があります。人材の増員計画は凍結され、欠員の補充も承認が下りない事態が起きることも予測されます。ますます人手不足を感じる企業が増加するかもしれません。

 親会社がIT予算を決定するグループ子会社では、61.5%の企業が「自社システムが老朽化している」と指摘しています。独自に意思決定できる企業の場合、この項目は40.8%と、大きな違いが現れました。ITインフラの更新が遅れる問題は親会社の予算に連動するためと考えられます。

自由と「組織の力」を生かした対策や人材育成の課題をどうバランスさせるべきか

 それでは、親会社がIT予算を決定する企業は、全て問題を抱えているのかというとそうでもありません。

 今回のコロナ禍では、テレワークを構成する環境としてネットワークやセキュリティの再設計や構築が大きな問題になりましたが、調査では「ネットワーク/セキュリティの再設計、構築の必要がある」と指摘する企業に顕著な違いがあることが判明しました。

 独自にIT予算を決定できる企業は、ネットワークやセキュリティに関しても迅速な対応ができるはずです。しかし、実際には46.9%の企業が「ネットワーク/セキュリティの再設計、構築の必要がある」と課題を認識しており、親会社がIT予算を決定する企業の場合の33.3%と比べると、独自にIT予算を決定できる企業の方が、課題の認識度合いが高くなっています。

 このことから今回の緊急テレワークでは親会社を巻き込んで対応できた子会社の方が早く対応でき、結果的に課題が少なかったと考えられます。テレワーク向けのネットワークの増強などは、グループ企業でまとめて見直すことでベンダーとの交渉力も出ますし、ネットワークを熟知したスペシャリストが必ずしも各子会社に所属している訳ではないことも関係しているでしょう。

 人材不足に関連して「人材育成や教育の機会」についても、IT予算の決定権をどちらが持つかで大きな差がある実態が判明しました。

 最近は、グループ企業での勉強会や情報交換、技術動向やセキュリティ関連での情報共有が盛んに実施されるようになりました。グループ企業内の人材交流に積極的な企業も増えています。こうした事情があってか、IT部員が「教育の機会がない」と指摘する企業は、親会社がIT予算を決定する企業ではわずか12.8%に過ぎませんでした。

 独自にIT予算を決定する企業は自社の裁量で対応できるので、教育やスキルアップなどの情報をキャッチアップしやすいはずですが、36.7%の企業が「教育の機会がない」と答えました。

 これらの結果から、グループ子会社の企業にとってIT予算の裁量は、自由と自己責任という、表裏一体のパラドクスが生じているといえます。パラドクスは大まかに言えば一般に受け入れられている見解に反する命題のことを指します。親会社とのIT基盤一体化を目指したり、子会社で独自のIT予算を決定したりできることは、本来IT環境をより良くする目的で実施されていると思われますが、実際には逆の作用が発生している可能性があることも、今回の実態調査で顕著になりました。

 ここ数年の日本国内で発生した災害を含め、VUCA(Volatility/変動性、Uncertainty/不確実性、Complexity/複雑性、Ambiguity/曖昧性)の時代にあっては、不測の環境変化は将来も続くと考えるべきでしょう。今後はIT部門に従事する人員が少ないグループ子会社であっても、環境の変換に迅速に対応する必要があります。今回の実態調査では、IT予算の管理主体が親会社であっても子会社であっても、それぞれに長所と短所があることが明らかになりました。企業グループの文化や組織の生い立ちにより、最適な管理体制は異なると思いますが、今回の実態調査の結果を自社の状態と比較するベンチマークとして参考にしていただければ幸いです。

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