356社の情シスの声を分析してみると、ニューノーマルへの移行をきっかけに仕事に求めるものにも変化の兆しが見られました。組織は今後、情シスとの間に新たな価値観を持って十分なエンゲージメントを確立する必要がありそうです。
ニューノーマル(新常態)への移行は、一人一人の生活様式はもちろん企業経営にも大きな影響を与えています。政府はデジタル改革担当大臣のポストを新設し、企業もさらに変革を求めるなど、デジタルトランスフォーメーション(以下:DX)実現の機運は高まりつつあります。テレワークやリモート会議の採用など、ITを駆使したさまざまな変革が進み、仕事の在り方を本質から見直すDXも進んだと言われています。
デル・テクノロジーズは2019年12月に日本企業を対象に、大規模なDXの進捗(しんちょく)状況調査をしました。そのレポートは、「国内大企業の44%がいまだPoC段階……大規模調査で判明したDX推進の『本当の障壁』とは?」にまとめてあります。その後の9カ月間は予測し得ない激動の展開でしたが、果たしてDXの進捗を情報システム(以下、情シス)部門はどのように感じているのでしょうか。
本稿は前回と同様に、デル・テクノロジーズで主力製品のサーバ「PowerEdge」を担当するデータセンターコンピュート&ソリューションズ事業統括部門が2020年9月に実施した「情シス意識調査」の結果を基にしています。
調査は昨今の情勢を踏まえ、全企業の情シス部門を対象にオンラインで実施して、356社からの回答を得たものです。回答企業の割合は企業規模3000人以上の企業が26.3%、300人以上3000人未満の企業が46.4%、300人未満の企業が27.3%でした。
私たちデル・テクノロジーズはこれまでの調査から、DXの進捗状況に関して、企業を5カテゴリーに分類しています。前回の調査からの変化を見ると、「DXが自社DNAに組み込まれている」と表現できるような、最先端のDXを実践する「デジタルリーダー」は2.9%から3.9%にアップしていました。
次いで、成熟したデジタルプラン、投資、イノベーションを確立している段階の「デジタル導入企業」も6.1%から13.3%に大幅に増加しました。一方、DXを徐々に取り入れて将来に向けたプランを策定しているPoC(概念検証)のフェーズの「デジタル評価企業」は44.1%から41.4%にダウンする結果でした。
これらのことから、日本企業の動向として、DXの評価フェーズからDX導入企業へと確実に移行していることが判明したと考えられます。
しかし、「デジタル評価企業」で減少したのが3ポイントだった一方で、「デジタル導入企業」の増加率は約7ポイントですから4ポイント以上足りません。このことは、「デジタル評価企業」よりもさらに低いレベルから一足飛びで進化している企業が存在することを意味しています。欧米企業の事例では、社内のITアーキテクチャを一足飛びに改革した話をよく聞きます。もしかしたら、ニューノーマル環境が企業のデジタル化を押し上げたということなのかもしれません。
DXが進捗している企業は2025年に向けて人材採用・定着戦略を持つ
人材難、採用難の時代に、DXを推進できる組織は何をしているだろうか。調査で浮かび上がったのはデジタル化の対極にあるアナログな取り組みだ。
このニューノーマル下であっても、情シスの方々は高いモチベーションを維持して目前の課題に取り組んでいるという事実が前回のレポートで判明しました。しかしその一方で、ニューノーマル下の環境変化――例えばテレワークによって精神的な負担や疎外を感じている、といった報告も散見されます。また、「この先の経済環境がとても不透明で、リーマンショック後のIT予算や人員削減などが頭をよぎり、目に見えない不安がある」という話をうかがうこともあります。
果たして情シスのメンバーは対外的、対内的な環境変化に対応していく準備ができているのでしょうか。
そこで調査では「自分自身が今後のデジタル化に対応できるのか」という質問をしてみました。
「トランスフォーメーション」とは質的な変化を表す言葉です。スキルで例えると、少しぐらいのスキルの向上ではなく、スキルの段階が変わるくらいのイメージだと思います。調査の結果、今後のデジタル変革の時代に「十分対応できる」と回答した情シスはわずか1.7%に過ぎませんでした。
「準備できている」という情シスは28.1%で、残りの70.2%は「準備ができていない」ことが分かりました。この結果を考えると、やはりそう簡単にDXやデジタル化ができるわけではないと思われます。
DXを支え、社内に影響を与える情シスメンバーの一人一人に自信がないということは、由々しきことかもしれませんが、別の視点から見ると「情シスは現状を厳しく認識している」と肯定的に解釈することもできます。
この結果は、今後、情シスの皆さんが急ピッチでニューノーマルに対応したスキルを武装していくきっかけにつながるかもしれません。調査ではこの他にも、企業規模別でそれぞれ異なった傾向が出ることも明らかになっています。詳細は巻末で紹介する調査レポートをダウンロードしてご参照ください。
リモートワークをうまく運用できる組織の特徴は? DX調査にみる傾向
今回の調査では、リモートワークの実施状況も調査しています。当初は2020年夏に東京で開催される予定の大規模イベント対策としてのリモートワークの進捗(しんちょく)を調べる目的でした。しかし、この調査はくしくも感染症の流行などの有事の対応能力を示すデータになりました。リモートワークが普及している企業はDXも進んでいることが分かりました。それには、ハードウェア環境以外にも理由があります。
ニューノーマル下ではさまざまな外部要因の変化がありましたが、情シスの内なる変化はどのようなものだったでしょうか。
調査によると、65%の情シスが「ニューノーマル下でワークライフバランスを意識するようになった」と回答しました。突然、在宅勤務になった結果、家族と話す時間や自分に向き合う時間などが増えて、多くの情シスが「ワークライフバランス」を現実のものとして経験したものと考えられます。
テレワーク環境の構築をはじめとしたニューノーマルへの対応のために情シスは多忙を極めました。しかし、社内の重要なインフラを支えていることも実感しており、高いモチベーションを維持できていることも事実です。社内で仕事の価値を再認識されているのはもちろんですが、日本中の企業が同様にその価値を再認識しているのが現在です。
2025年に向けてIT人材の枯渇が既に始まっていることもあり、転職市場では輪をかけて情シス人材が注目されています。情シスの48%が自身のITスキルは社外でも価値があると認識しているのは、それを裏付けるデータの一つだと考えられます。
これらのことから、現在、情シスの皆さんは前述したように自身のスキルトランスフォーメーションには不安な面があるものの、現状のスキルでも十分な社外価値があると認識しているようです。
そのこともあって、情シスの皆さんの中で転職への関心も急速に高まっているようです。調査では約半数が「転職予備軍」との結果が出ました。同じ情シス部門でも、ユーザー部門や顧客と接する職務や、定期的にデータセンターに行く必要のある職務、またテレワークでほとんどの業務が完結させられる職務などさまざまです。
自由記述では「テレワークがメインとなる職場に移動したい」というコメントもありました。その方は「現在の職場にはテレワークを主にした仕事がない」という理由で転職を検討しているそうです。
ニューノーマルへの移行に伴う環境の変化は、情シスの皆さんにとってワークライフバランスを考え直すきっかけになりました。調査を見ても転職を視野に入れている方は少なくないようです。情シス人員が不足する企業は今も多数存在します。この機会だからこそ、情シスのチームメンバーや上司とこのレポートを参照しながら対話の機会を増やしていただけたら幸いです。
DX推進企業に見る6つのアナログな行動指針とは? 調査で明らかになったDXを実現する組織の特徴
DXをうまく進められる企業には、企業の組織風土そのものに特徴があることが大規模調査で明らかになった。6つの特徴はデジタルとは違うところにあるようだ。
調査では「情シス組織を魅力的にするのに必要なものは何か」についても聞いています。
調査の結果、大多数が「実力や成果が正当に評価される」ことを選択しました。実に、75.2%の情シスがこの項目を支持しています。
裏を返すと、現在の情シスは実力主義ではないと感じているということでしょうか。次いで2番目は、前述した「ワークライフバランスが考慮されている」ことで、48.8%でした。3番目に「トレーニング機会が多い」ことを求めているようです。IT特有の連続的な技術革新に追従するために、昨今のデジタル化への対応力を向上する必要性が出ています。そして4番目に「給与が高い」ことが続きます。
ニューノーマルへの対応で余裕のない日々が続いていることと思いますが、情シスの心の葛藤も止まることはありません。魅力ある組織になるためのディスカッションを繰り返し、魅力的な組織に近づくことは、若手従業員を引きつけることになるでしょう。また、来るべき日本企業の本格的なデジタル化をより早くつかむことにつながるはずです。
所属企業やご自身との比較ができるものと思います。ぜひダウンロードしてご覧ください。
第三弾の「情シス意識調査」ホワイトペーパーでは前述の内容に加えて、今後のキャリア、社外価値やワークライフバランスの詳細、スキル開発、トレーニング投資額などをまとめています。ぜひダウンロードしてご覧ください。
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提供:デル・テクノロジーズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2020年12月31日
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