AI技術のビジネスの現場での活用が本格化しつつある。特に深層学習を活用した画像認識AIは、目視で実施してきた点検や検査に適用されて成果を生み出している。一方で「PoC(概念実証)止まり」などAIを現場に適用する難しさも指摘される。現場の担当者が簡単に使えて、しかも精度の高いAIはどうすれば実現するのか。
深層学習(Deep Learning)や機械学習(Machine Learning)など、人工知能(AI)技術のビジネス現場での活用が始まっている。人間の脳の動きを模倣する深層学習は、画像や映像、音声など従来の計算機では扱いにくかったデータを利用した予測や分析を可能にする。画像認識AIは点検や検査での目視による判断を代替し、人力の限界を超える業務効率化を実現する。
NTTコムウェアの宮下直也氏(ネットワーククラウド事業本部 サービスプロバイダ部 DPS-BU 統括課長)は次のように語る。
「AIは急速に進化し、誰もが簡単に利用できるツールになりつつあります。以前はAIを業務に組み込むには専門的な技術や知識が必要でした。今では現場で働く担当者がAIに関するさまざまな業務を直接実施できるようになっています」
これまで、深層学習を業務で活用できるようにするにはさまざまな作業が必要だった。必要な画像データの収集、学習画像への正解値情報のタグ付け(アノテーション)、判定エンジンやアルゴリズムの選択、学習回数などのハイパーパラメーター設定などのチューニングだ。
これらの作業には多大な工数と時間がかかる。専門人材の確保や作業効率化などが課題となり、PoCで止まったり、投資に見合う成果が得られなかったりする事態に陥りやすかった。
だが、今日のAI技術は「学習のための画像データさえ用意できれば、深層学習の成果を簡単に業務に適用できるレベル」(宮下氏)にまで到達した。AIを現場の誰もが使えるようになる「AIの民主化(AI for Everyone)」が現実のものになりつつある。
「AIの民主化によって、未経験の担当者でも業務効率化や生産性向上、新しい価値創出などの推進役になれます」(宮下氏)
AIの民主化を推進するツールとしてNTTコムウェアが開発・提供するのが、画像認識AI「Deeptector」だ。Deeptectorが他の画像認識AIと大きく異なるのは、同社が顧客の抱えるビジネス課題に寄り添う形で導入と運用をサポートし、AI活用の改善サイクルを回し続けられる点にある。
宮下氏は「Deeptectorは、もともと当社の研究開発部門がAI関連技術を製品化したものです」と語る。2017年のリリース以来、同製品は施設の監視や保全、点検、工場における製品検査などの分野で実績を重ねてきた。
その一つが鉄塔や通信設備の外観点検だ。従来は、人が施設を撮影した画像を基に複数の有識者がひび割れや赤さびの有無を目視で確認した。点検業務にかかるコストや点検観点のバラツキ、鉄塔の上といった危険な場所での作業などが課題だった。
Deeptectorを導入し、ドローンを使って撮影した画像を分析するフローに変えたことにより、有識者の知見やノウハウを形式知化した他、コスト削減や点検観点の均一化、危険作業の回避などの効果を得たという。環境の変化や適用範囲の拡大にも、アルゴリズムやハイパーパラメーターなどの調整で迅速に対応できるため継続利用が可能だ。
宮下氏は「『業務の課題を解決する』という観点からAIの導入を進めることで、成果を確認しやすく、継続的な取り組みにしやすいというメリットがあります。当社は、お客さまがAI活用の改善サイクルを回すために、ツールだけではなくアセスメントやコンサルティングによる専門知識とノウハウも併せて提供します」と説明する。
Deeptectorを活用した社会インフラの事例として、道路舗装の不具合検出や電柱工事施工後の良否チェックなどが挙げられる。
同製品の活躍の場は社会インフラにとどまらない。製造業における製品表面の汚れ検出や金型の外観検査、車載360度カメラ映像を活用した店舗出店状況の把握、毎日の食事画像からの栄養管理や保健指導など、さまざまな分野で活用が加速している。
「Deeptectorの特長は4つあります。お客さまのビジネスに合わせて多種多様な認識対象のAIが作成可能なこと、APIを備え柔軟に業務アプリケーションと連携できること、工場や外出先などさまざまな場所で利用できること、GUIクライアントツールや5種類の判定パターンを使うことで専門知識のないユーザーでも利用できることです」(宮下氏)
1つ目の「多種多様な認識対象のAIを作成できる点」は、事例の豊富さからも分かる。現場で必要な画像判断の観点はさまざまで、環境やニーズの変化にスピーディーに対応できる仕組みが重要だ。
Deeptectorはコンテナ技術(Docker)を活用し、必要に応じて最新の深層学習エンジンを追加したり、前処理や後処理を柔軟に組み込んだりして、効率の良い開発と継続的な改善ができる基盤を備えている。
2つ目の「API連携」によって、サードパーティー製アプリケーションやツールとの連携も可能だ。製造ラインの画像にIoTセンサーで取得したデータを連携させたり、チャットツールやERPと連携してサプライチェーンの異常を素早く検知したりできる。既存のアプリケーションにDeeptectorの分析結果を組み込むことも可能だ。
3つ目の「さまざまな場所で利用できる点」は、クラウド版とオンプレミス版の両方を提供することを指す。機密情報を外部に出したくない場合はオンプレミス版を使い、自社データセンターのシステムや工場内のエッジシステムとして構築し、セキュリティや可用性を保った状態で運用できる。テレワークの拡大をはじめ、地方拠点や海外拠点への対応など、いつでもどこからでも利用できるシステムを構築したければクラウド版の利用が選択肢に挙がる。
4つ目の「GUIクライアントツールと5種類の判定パターン」は、AIについて専門知識を持たない現場のユーザーがAIを操作できるようにするための鍵になる。GUIクライアントツールは、マウス操作で教師データ作成から学習、判定、分析までの機能を利用できるようにする。作成したAIの精度を分析する機能もあり、最適パラメーターの分析や学習画像、タグ、学習パラメーターの評価など、AIモデルの完成度を視覚的に確認することも可能だ。
5種類の判定パターンには「領域検出型」「物体検出型」「分類型」「レベル判定型」「正例判定型」がある。領域検出型は、セグメンテーション技術を用いてタグ付けの際に多角形で物体を囲み学習することで、背景や重なりによるノイズを最小化できる。検出した物体の領域まで特定できるため、面積算出など活用の幅が広がる。正例判定型は、「良品」と判定された画像のみを学習することで不良品を特定できる。これらの判定パターンを組み合わせることで、誰でも簡単に高度な判定を実施可能だ。
「ツールやプラットフォームを導入しただけでは、ビジネスへのAI適用はうまくいきません。綿密なコンサルティングやPoCを通じて業務課題を認識し、その課題をAIで解決しながら継続的に改善のサイクルを回していくことが重要です。誰もが使いやすく判定精度の高いAIを提供していきたいですね」(宮下氏)
AIの進化は続く。NTTコムウェアは、「AIの民主化」の答えを模索しながらDeeptectorの機能強化を進めている。DevOpsサイクルを実現するために「Kubernetes」との連携によるコンテナ対応強化や、NTTコミュニケーションズをはじめとするパートナーと連携したAIプラットフォームの提供、新事業領域拡大など、日々挑戦は続いている。
※「Deeptector」は、NTTコムウェア株式会社の登録商標です。
※その他、記載されている会社名、製品名、サービス名は、各社の商標または登録商標です。
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提供:エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2021年1月13日