残り10年を切った製造業DXの転換への期限 いま着手すべきことは何かIT革命2.0〜製造業DXのいま(1)

「残された時間は10年もありません。いままでの製造業の強さをデジタル化して後世に伝えていかないと、何もなくなってしまいます」――。そう語るのは、デジタルファクトリーの構築から製造業のDXを推進する人物です。強さを後世に伝える、とはどういうことを意味するのでしょうか。

» 2021年04月30日 10時00分 公開
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「ものづくり白書」にデジタルが加わった

 2020年5月、経済産業省は「2020年版ものづくり白書」を公開しました。ものづくり白書とは、ものづくり基盤技術の振興のために政府が講じた施策に関する報告書で、ものづくり企業や技術の動向を、経済産業省と厚生労働省、文部科学省が共同で白書として取りまとめています。2001年に最初の白書が公開されてから、ちょうど20回目の発行となります。

 今回の報告書には、いままでにない大きな追加点がありました。「2019年版ものづくり白書」では「デジタル」のキーワードは14カ所にしか出てきませんでした。しかし、「2020年版ものづくり白書」では「デジタル」のキーワードは何と47カ所も出現します。実に3.3倍と大幅な追加です。また、日本の製造業が直面する課題と展望を整理する第1章には新たに「第3節 製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」が設けられ、60ページ近い紙幅が割かれています。国を挙げて、製造業のDX推進の号砲が打たれたと言えるでしょう。

 しかし、その背景には製造業の深刻な状態が見え隠れしています。かつては優れた「ものづくり大国」であった日本。現在も世界に冠たる技術を誇る企業は多いものの、全体では成熟産業になっています。一昔前は、世界中の家庭が日本の白物家電やテレビなどで埋め尽くされ、世界中の道路に日本メーカーのエンブレムを付けた自動車が走っていました。しかし、「失われた30年」の変化は大きいものでした。1989年当時、世界の企業の時価総額ランキングのTOP20のうち14社が日本企業だったのに対して、現在は43位のトヨタ自動車が最高位という状況です。

 製造業には、他産業への波及効果が大きいという特徴もあります。生産波及の大きさを示す指標は「全産業」が1.93、「サービス業」が1.62なのに対し、「製造業」は2.13とされており*、他の産業からの依存度が高いといえます。そのため、製造業の深刻な状態は他の産業にとっても人ごとではありません。

* 経済産業省「2015年版ものづくり白書」



製造業DXへの最後通告

残された時間は10年もありません。いままでの製造業の強さをデジタル化して後世に伝えていかないと、何もなくなってしまいます

 こう語るのは天野眞也氏です。天野氏は製造業のDX実践を指南した書籍『製造業DX 実践編』『製造業DX 入門編』『製造業DX カスタマーサクセス編』(いずれもTeam Cross FA刊)の著者でもあります。

天野眞也氏

 天野氏は、さまざまな講演活動に加え、自身の動画チャンネルで積極的に情報を発信して人気を博しています。エバンジェリスト的な活動が目立ちますが、製造業DXから生産ラインの開発〜実装までを包括的に支援するコンソーシアム「Team Cross FA」のプロデュース統括を務める人物でもあります。また、自身が社長を務めるスマートファクトリー化実現を総合支援する企業や、一貫生産体制による「ハードのものづくり」を得意領域とする別の企業では、複数箇所のスマートファクトリーを抱えています。

 天野氏はスマートファクトリーを支える重要な構成要素であるロボットシステムインテグレートの業界においても、日本でトップレベルの「製造業DX」の実践者であり、かつ中堅・中小企業の経営者としての顔を持つ、日本の製造業におけるDXの現実解を導き出す若きリーダーの一人です。

 新しい製造業の在り方を追究する天野氏に、ITmedia エンタープライズの連載『IT革命 2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る』を執筆する清水 博(本稿筆者)がインタビューを実施しました。本稿はインタビューで聞いた天野氏の考えとその意味を紹介していきます。

ベテラン従業員の退職期限へのカウントダウンが始まる

今の会社にある「ノウハウと言われるもの」ですが、これは正確に言うと会社のノウハウではありません。会社に在席している50歳台の従業員たちの頭の中にあるノウハウの組み合わせです。これらの方が定年などで退職するまでに頭の中のノウハウを言語化できず、デジタル化に失敗してしまうと、一気にその会社の業績は下がります。既にそうなった企業もありますし、多くの企業がそのようになりかけています

 天野氏は、現状のノウハウを積極的に継承していない企業に警鐘を鳴らします。そしてデジタルファクトリーの重要性を説きます。

 デジタルファクトリーとは、デジタルマップとリアルタイムデータ、そしてデータのフィードバックが可能な生産設備や、機械と人を連携して自律制御を実現した工場のことです。

 自律制御でリソースが最適化され、環境変化に合わせた生産と工場運営を実現します。リアルな生産設備やセンサーからの情報を基に仮想空間に構築されたバーチャル工場でシミュレーションや分析、解析をして、リアルな生産設備や人に対して最適なフィードバックを実施します。このデータループを繰り返すことで、精度が高く効率の良い最適化が可能になります。

さらに生産設備が生み出すデジタルデータは、物理的なデータにとどまりません。製造業DXにおいては生産に関するあらゆるデータが非常に重要です

 個々の設備の生産タクトはもちろん、各工程の部品搬送に必要な時間、製品ごとの段取り時間、設備メンテナンスに必要な時間、不良率、手戻りに要する時間、故障率など、あらゆるデータのデジタル化が必要になってきます。それらのデータを組み合わせることで、デジタル空間上に仮想の生産ラインや工場を構築できます。そうすることで、デジタル空間に構造物を再現して確認するだけではなく、「シミュレーションモデル」としての活用が可能になるのです。

 特にものづくりの現場では、機械のオペレーションや部品の組み立て、検査といった「現場作業」から、生産計画の立案や最適な人員配置といった「管理業務」まで、特定人材の熟練した技に頼りきっている企業がまだまだ少なくありません。「その人が退職してしまったら代わりがいない」という話も珍しくはありません。そうなる前に早急にベテランの技術やノウハウをデジタル化して複製できるようにしておくことが肝要だと、天野氏は強調します。

デジタル化により会社に新しい魂を入れ込む

私はやはり正確な未来予測が全てだと思っています。経営指標が瞬時に出てこないと、未来予測のしようがありません

 デジタル化によって実現できることを端的にまとめると、「未来予測」と、その予測結果と制御技術を活用した「自律化」に集約されます。自律化を実現することで、製造業の生産性が向上するだけではなく、製造業DXの実現に向けた一歩を踏み出せるようになるのです。未来予測の身近な分かりやすい例は天気予報でしょう。天気予報では、過去および現在の膨大な気象情報(各地の気温、湿度、風速、日照、雨量、気象状況、推移、上空の状態、衛星画像など)から、短期および長期の天気を予測します。気象予測は、緻密な観測網とデータの蓄積、そしてそれらの情報解析から成り立っています。日本は気候の変化や地域による差が激しく、多くの自然災害を経験していることもあり、気象観測や天気予報に関する技術は先進国の中でも先行していると言われています。

天野氏のお話を伺う筆者

 本稿の取材は、日比谷(東京都千代田区)にある「SMALABO TOKYO」(スマラボ東京)で実施しました。スマラボ東京は、製造業DX、スマートファクトリーの最先端技術が体感できるショールームで、天野氏が統括プロデューサーを務めるTeam Cross FAのコンソーシアムの革新的なものづくりに触れることができます。一般見学も可能なので、自社DX/スマートファクトリー化を具体的に検討している方には参考になるでしょう。

 取材ではさらに「製造業DXのカウントダウン」「製造業DXにおける失敗する意味」「企業変容力としての製造業DX」など、天野氏自身の知識や見解も聞くことができました。製造業DXにおける「企業変革力の考え方」「DXの本質」「データ活用の前提条件」などの新しい考えを、歯切れ良く語っていただきましたので、詳細は以下のホワイトペーパーを参照ください。

関連ホワイトペーパー

有識者に聞く製造業DX、壁に突き当たった売上・利益を伸ばすデジタル化のコツは

日本の基幹産業である製造業の未来を左右するとみられる製造業DX。自身、中小中堅企業の代表を兼務し、製造業DXを一貫支援するコンソーシアムの旗振り役も担う天野眞也氏に、変革を成功させるための勘所を聞いた。


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