既存工場を生かして実践する中堅・中小製造業DXアプローチは「まず休暇を増やせ!」IT革命2.0〜製造業DXのいま(2)

DXを推進したい企業がまず実践すべきは「従業員の休暇を増やすこと」――。製造業のDXを指南する人物はなぜそう指摘するのでしょうか。真意を取材しました。

» 2021年04月30日 10時00分 公開
[ITmedia]

「ものづくり白書」による問題提起

 2020年5月、経済産業省は「2020年版ものづくり白書」を公開しました。ものづくり白書とは、ものづくり基盤技術の振興のために政府が講じた施策に関する報告書で、ものづくり企業や技術の動向を、経済産業省と厚生労働省、文部科学省が共同で白書として取りまとめています。「2020年版ものづくり白書」は特にデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けた強いメッセージが発信されています。しかし、同時に製造業の置かれている現状への課題提起も多数示されています。

設備の老朽化状況(出典:経済産業省「2020年版ものづくり白書」)

 「2020年版ものづくり白書」によれば、足元では度重なる自然災害、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響などを受けて、売上や営業利益の見通しがとても悪い状況があります。また、製造業における「戦略判断を伴う設備投資」は、数年前までは回復傾向にあったものの2019年以降は横ばいに推移し、今後の見通しは減少傾向に転じています。

 さらに大きな問題として、ITにおけるレガシー資産問題と同様に、生産設備導入からの経過年数が長期化する傾向にあることが挙げられます。特に産業用ロボット分野では悪化が進んでいます。

既存工場では発想の転換が求められる

製造業DXは、まず休暇を増やすことから始まる

 この一見極論のように見える考えを話すのは、『製造業DX 実践編』『製造業DX 入門編』『製造業DX カスタマーサクセス編』(いずれもTeam Cross FA刊)の著者である天野眞也氏です。

 天野氏はスマートファクトリーを支える重要な構成要素であるロボットシステムインテグレートの業界においても、日本でトップレベルの「製造業DX」の実践者であり、かつ中堅・中小企業の経営者としての顔を持つ、日本の製造業におけるDXの現実解を導き出す若きリーダーの一人です。

 新しい製造業の在り方を追究する天野氏に、ITmedia エンタープライズの連載『IT革命 2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る』を執筆する清水 博(本稿筆者)がインタビューを実施しました。本稿は前回に続き、インタビューで筆者が聞いた天野氏の考えとその意味を紹介していきます。

中堅・中小企業の魅力の一つは、仕事の連続性です。ただ、連続性には入り口から出口まで責任を持って全部やるという喜びがある一方で、人に受け渡せないというデメリットもあります

 実を言うと、全くの白紙状態からデジタル化した工場を設計した方が制約は少ないため、最先端の技術と発想でスムーズに製造業DXを実現できます。しかし、既に投資が完了している既存工場であっても、デジタル化を進め、シミュレーションを駆使してスループットを向上するだけでも、生産性の大きな向上が見込めます。また、既存工場は「リアルファクトリー」がある分、着手しやすいという考え方もできます。ただし、既存工場を使っていては「デジタル化の着手のきっかけ」がつかみにくいと感じる企業が多いと言われているのも事実です。

天野眞也氏

強制的に休みを増やすので、個人ではなく仕組みやシステムに頼って仕事の連続性を確保することになります

 日本には現場力があるため、デジタル化した後でも高い競争力を維持できるという見方もできるでしょう。自動化された工程であっても、その自動化や自動機を使いこなすノウハウや、ノウハウそのものを高める技術が現場に脈々と受け継がれているからです。

 いくら最新の情報システムを取り入れたとしても、それを活用できる現場力がなければ効果は得られません。発想を転換しながら、持ち前の現場力でデジタル化を推進していくことが肝要だというのが、天野氏の見解です。

従業員エンゲージントの改善

従業員エンゲージメントを改善するには、良い将来のモデルケースを提示する必要があります。そのためには、リーダーは準備を続けるべきです

 先の議論では、日本には現場力があり、それがデジタル化後の強みになる、と説明しました。しかし、完全には安心できない状況もあるようです。

 従来は強みであった日本の製造業の現場力が低下していると、ものづくり白書では報告されています。さらに心配なのは、日本の従業員エンゲージメント指数が他国と比べて極めて低いことです。

日本の従業員エンゲージメント指数は世界平均よりも低い(出典:経済産業省「2020年版ものづくり白書」)

 従業員エンゲージメント指数と従業員満足度は、単純にイコールで評価はできません。従業員エンゲージメント指数とは、従業員の熱意や活力などの個人の意欲が組織や仕事にどれだけアラインしているかを測定したものです。自分自身の成長につながるか、やりがいを感じるか、承認欲求を得られるか、会社の方針に納得できるかなど、仕事に対する個人の評価を意味します。

 DXを推進するには従業員の高いモチベーションを維持する努力も必要です。従業員エンゲージメント指数の改善に経営者は積極的に関与していく必要があります。

喫緊の着手が必要

製造業のノウハウをデジタル化する企業が増えていますが、これからはロボットインテグレータが枯渇していきます。そのため、常に時間軸を早めに考えていくことが重要です

 長年培われた企業文化は会社のコアコンピタンスですから、熟成期間が必要です。しかし、今後、日本中の製造業がDXを一気に進めた場合、ロボットインテグレータもエンジニアもリソース不足で対応し切れなくなると予測されていることを見落としてはなりません。今後の自社のロードマップを作成し、リソース待ちなどの事態を織り込んで時間軸を早めに考えていくことが重要です。

製造業DXを現実化している天野氏のマネジメントテクニック

日本サポートシステム

 天野氏は5つの企業の代表や取締役を兼任する「リアル中堅・中小企業製造業の経営者」です。中でも、関東最大級のロボットシステムインテグレータである日本サポートシステムは、代表になって間もないものの、既に業界に新たな息吹を吹き込んでいます。

天野氏のお話を伺う筆者

 天野氏は、採用数を増加させ、従業員エンゲージメントを高めてきた手腕の持ち主です。インタビューでは中堅・中小企業の製造業DXの「言語化を進めることが、デジタル化の小さい一歩」「ゲーミフィケーションによるDXの加速」「従業員の幸福度を上げていく」といった珠玉の言葉を聞くことができました。

 製造業DXの課題の一つである従業員エンゲージメント向上のヒントは以下のホワイトペーパーを参照ください。

関連ホワイトペーパー

まずは休暇を増やすことから? 中堅中小製造業に適した意外なDXの始め方

中堅中小規模の製造業がDXに着手する上で重要なポイントが、人材の確保という視点だ。優秀な人材を集めるためには、何か一点でも大企業に勝る必要がある。そのためにデジタル技術をどのように活用すればよいのか。


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