データの民主化の前にITチームが手掛けるべきことは 三菱重工の事例IT人材をより活かす「仮説検証型開発」とは

三菱重工が手掛ける顧客体験改革の施策は事業部に負荷をかけず、ITエンジニアのスキルを生かして課題を高速に解決する枠組み作りから始まった。どのようにデータの民主化を進めたのか、方法を聞いた。

» 2021年10月20日 10時00分 公開
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サービスのCXを高めるためのBIプラットフォームの選定が課題に

 三菱重工は、エネルギーから航空/防衛/宇宙、産業機械などを手掛ける国内有数の重工メーカーだ。さまざまな日本企業でデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中、この活動の一翼を担うのが、成長推進室の配下で活動するデジタルエクスペリエンス推進室だ。同室の田村仁志氏(IoT・データ分析グループ グループ長)は、デジタルエクスペリエンス推進室でのDXの取り組みをこう説明する。

三菱重工の田村仁志氏

 「当社で進めるDXには、顧客体験(CX)と従業員体験(EX)、プロダクトトランスフォーメーション(PX)の3分野があると考えております。現在、私たちの室で注力するのがサービス強化につながるCX改革です。これまで以上にデジタルでの顧客接点を増やし、新たなビジネス機会の創出に向けて活動しています」

 三菱重工は大小さまざま事業を展開するが、その中でデジタルエクスペリエンス推進室は、まずは中小規模の事業部門を対象にCX施策を一括して支援を開始している。

 CX施策はIoTを活用する場合、まず顧客拠点で稼働する装置から各種稼働データを取得してサポートの品質向上を図る。1つの事業部でパイロットプロジェクトを動かし、そこで得た知見やノウハウを他事業に随時拡大する計画だ。

 ここで、取得したIoTデータを加工、分析、可視化するBIプラットフォームが課題となった。仮説とデータでの検証を高速で回し、将来的には顧客に近い立場にある事業部門の従業員が分析や可視化の主役を担えること、権限設定や管理をBIツールでシンプルに実現できることが重要だった。

 これらの課題を克服するため、デジタルエクスペリエンス推進室側で一定のガバナンスを確立しつつ、事業部側にデータを開放できるような仕組みが必要になった。

 「私たちの目的に最も合致するものを、従来使っていたものを含めて一から調査することにしました」(田村氏)

 主要なBIツールを対象にPoC(Proof of Concept)を含む事前評価を実施した結果、田村氏らは2020年3月にBI機能を兼ね備えたデータ分析プラットフォーム「Looker」を選定した。

ITエンジニアが使いやすく、データを容易に一元管理

 Lookerを採用した理由は幾つかある。1つは、デジタルエクスペリエンス推進室でデータの加工/分析/可視化に当たるメンバーとの親和性だ。

 「デジタルエクスペリエンス推進室のメンバーはITエンジニアが多いため『ITエンジニアにとって使いやすいBIツールであること』が重要でした。各社のBIツールの中で、独自のモデリング言語である『LookML』を使ってデータの定義から加工、分析、可視化までを一貫して操作できるLookerは非常に魅力的でした」(田村氏)

 それまで同社はデータ活用の際、まず仮説を基に必要な元データをデータベースで加工して分析用データを準備した上で、BIツールで可視化して検証していた。プロセスの分断によって仮説の設定と検証をアジャイルかつスピーディーに進めることが難しくなっていたが、LookerならばITエンジニアがLookMLで全ての作業を手掛けられる。プロセスの統合によって、分析や可視化の最中に現場の意見を取り入れて修正する作業もスピードアップした。

Lookerの機能イメージ(出典:LookerのWebサイト)

 LookMLの最大の強みは、さまざまなデータを掛け合わせる際に、データに対して定義済みの一意の名前を指定して操作できる点だ。例えば事業部門横断で「在庫回転率」をBIで可視化しようとしたとき、作業者や事業部門ごとに「在庫回転率」の算出方法が異なっていては同じ「在庫回転率」の比較をしているつもりが事実と異なる情報を可視化してしまい、意思決定に影響が出るリスクがある。LookMLはデータの定義と言葉の関係を明確に定義しておく中間層として機能するため、KPIなどの指標算出のロジックに不慣れな人材であってもLookMLの定義済みの値を呼び出せば開発の手間をかけずに全員が同じ情報を把握できる。

 この他、権限に応じた詳細なデータアクセス制御の機能を備えることから、将来的なセルフサービス化を想定した場合にも安心してデータ活用環境を事業部門に開放できる。

 Google以外のサービスと柔軟に連携できる点もLookerの大きな魅力だと田村氏は評価する。

 「Lookerはベンダー中立でオープンな思想を持っています。Googleのサービスに限らず、さまざまなデータソースとの接続やアプリケーションとの連携が可能なので事業部側のプラットフォーム選択を制限せずに展開できます」(田村氏)

グーグル・クラウド・ジャパンの小澤正治氏

 グーグル・クラウド・ジャパンの小澤正治氏(執行役員 Looker事業本部長)はこの「オープンさ」がLookerの製品開発思想の根幹だと説明する。

 「Lookerは『お客さまが持つデータベース内のデータを、誰でも、どこからでも使いやすくすること』を目的に誕生しました。『お客さまのデータ』がどこにあっても構いません。『誰でも、どこからでも』はLookMLおよびSaaS型の提供形態と、強固なセキュリティによって実現しています」(小澤氏)

目下の課題は従業員への認知と定着、カスタマサクセスチームの手厚い支援

 Lookerの定着に当たっては、Looker事業部の支援も効果的だった。Lookerを実際に扱うデジタルエクスペリエンス推進室のメンバー向けの技術レクチャーに加え、事業部門側への認知拡大に向けたアドバイスもあった。

 デジタルエクスペリエンス推進室のメンバーは「Lookerブートキャンプ」に参加して基本的な使い方を学んだ他、実データを基に具体的な使い方のアドバイスも受けられた。「実践的な課題への対応方法も支援いただけたことから、導入後もメンバーは迷わずに利用できています」(田村氏)

 疑問に感じることがあった場合、それをすぐにチャットで問い合わせられる点もITエンジニアのモチベーションアップにつながった。三菱重工では、導入が完了した現在もLooker担当者とは定期的にオンラインミーティングを開催して継続的な支援を受けている。

 基盤となる技術があっても「何ができるか」への理解がなければ、使ってもらえない。最終ゴールとして事業部横断での「データの民主化」を目指す田村氏は、そのアプローチについてもLooker担当者に相談した。かねてプロジェクトリーダーが構想していた事業部向けのメールマガジンに「データの民主化」に関する連載を掲載し、2020年5月より配信を続けて事業部内での認知拡大に取り組んでいる。

事業部向けメールマガジンの画面(出典:三菱重工の提供資料)

 「私たちはサービスのデジタル化によるCX向上をテーマにLookerの活用を進めています。Lookerに関するGoogleのカスタマーサクセスからは学ぶことが多く、『こうやってCXを高めるのか』と勉強になっています。こうしたサポートの手厚さは長く付き合っていくうえで心強く、他事業にも安心して横展開していけます」(田村氏)

 現在、Lookerを使ったパイロットプロジェクトとして、ある産業機械を対象に、納入先の稼働状況をモニタリングしてサービス品質を高めるための仮説構築と検証作業を進めている。

 「現在、分析作業はデジタルエクスペリエンス推進室のメンバーが中心となって手掛け、それを事業部のメンバーと一緒に確認しながら進めております。Lookerを使うようになり、データ定義もLookMLで簡単に変更できるので、いちいちデータベースを操作する必要もありません。ちょっとした修正依頼であれば、Looker上で即時に対応して確認してもらっています。このスピード感は私たちが求めていたものです」(田村氏)

「データの開放」「整合性/一貫性の確保」の両面で大きな効果

 田村氏らが目指すデータの民主化は「データの開放」と「データの整合性/一貫性の確保」が重要となる。現段階で田村氏は、データの整合性/一貫性の確保の実現でLookerの恩恵を受けているという。

 これについて、小澤氏はデータの開放でもLookerは効果的に利用できると説明する。

 「実は国内のお客さまの約3割が、何らかの形でアプリケーション埋め込み型のBI機能を提供する『組み込み型アナリティクス(エンベデッドアナリティクス)』や社内外向けのデータ開放でLookerを使われています」

 小澤氏によると、ある企業では、IT部門が各事業部のデータを掛け合わせた新しい価値提案を進めており、その一環としてLookerを使って業務アプリケーションに埋め込む形で新しいデータを閲覧できる環境を整えている。この環境は事業部門が学習コストをかけずにデータドリブンな意思決定を支援するツールとして活用されている。同じ仕組みは顧客向けアプリケーションにも適用できるだろう。

 「Lookerはデータを開放する際の手間を軽減するとともに、強固なデータアクセス制御によってセキュリティにも配慮できます。これらの特徴が評価され、組織横断のデータ活用やデータを活用した新規ビジネスのプラットフォームとしてご利用いただくケースが増えているのだと思います」(小澤氏)

 今後も田村氏らデジタルエクスペリエンス推進室は、少しずつ成功例を拡大して社内外にデータを生かした価値の提供と提案を続ける考えだ。2021年末には、最初のパイロットプロジェクトで蓄積したノウハウを横展開する形で、2つ目のパイロットプロジェクトを立ち上げる。

 「まだ第一歩を踏み出したばかりですが、これからもアジャイルな開発手法やLookerなどクラウドの活用方法も含めて、将来はCoE(Center of Excellence)としての役割も果たしていければと考えています」(田村氏)

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2021年11月19日