JALのITチームが見いだしたkintone成功方程式は「目的」×「仕組み」×「熱意」事業部門の熱意を生かすIT施策をどう実現するか

ITを使って業務の生産性を上げたいという従業員の熱意をIT部門の限りあるリソースで全て受け止めるのは不可能だろう。従業員が自ら変わるための環境整備にIT部門ができることは何だろうか。JALが実践したローコード/ノーコードツール「kintone」活用の成功方程式を見る。

» 2022年08月10日 10時00分 公開
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 DXやデジタル化のニーズが高まる中、事業部門から次々と要望が届くのにIT部門がそれらに応え切れない――。日本航空(JAL)もこうしたもどかしい思いを抱える企業の一つだった。

 しかし、低価格かつ短時間でアプリケーション(アプリ)を開発する「ファストシステム」というコンセプトに基づくサイボウズのローコード/ノーコードツール「kintone」の導入で変化が起きた。

 JALは2年余りの取り組みで培った手法を生かし、今やグループ会社がkintone関連のアプリ開発などのサービスを外販するまでになった。この成功を裏で支えたのがJAL IT企画本部だ。IT部門主導の業務改革は定着しないケースもあるが、なぜ成功したのか。その裏には、JALが独自に導き出した成功方程式である「目的」×「仕組み」×「熱意」があるという。

「ユーザーにアプリを開発させたい」 JALのIT部門がkintoneに希望を見いだした理由

 JALにおけるkintoneを使った業務改革は「ユーザー自身でアプリ開発をするエンドユーザーコンピューティングを実施したい」というIT部門の思いから始まった。

 事業部門は常に業務課題を抱えている。航空券予約システムのような大きなシステムであればIT部門が関与することになるが、ペーパーレス化や脱表計算、生産性向上を目指した細かな業務改善全てにIT部門が関わるのは難しかったという。

 大規模な開発や多くの老朽更新案件を抱えてリソースが逼迫(ひっぱく)する中、IT部門はこうしたスモールニーズに対して「半年待ちになり、開発費用も高額になる」と回答せざるを得ず、事業部門が「そんなにかかるのなら……」と諦めることもあった。

 「事業部門の要望にタイムリーに応えられないことをもどかしく思っていました。これでは業務環境を良くしたいという熱意をつぶすのではないかと心配でした」と振り返るのは、JALの日髙大輔氏(IT企画本部 IT運営企画部 技術戦略グループ アシスタントマネジャー)だ。

JALの日髙大輔氏 JALの日髙大輔氏

 こうした課題を抱えたJAL IT企画本部の目にとまったのが、サイボウズの「kintone」だ。kintoneは、低価格かつ短時間でアプリケーションを開発するという業務システム開発の方法論「ファストシステム」の実現方法としてリリースされた。IT企画本部は、事業部門が必要なときに必要なアプリケーションを自ら作るための「IT部門公認ツール」として据えるのにふさわしいと考えたという。

 ローコード開発ツールやWebデータベースに類するツールは他にもあるが、なぜkintoneを選んだのか。

 「kintoneは圧倒的に分かりやすいツールです。他のローコード/ノーコード開発ツールは、複雑なことができる代わりに設定も難しいものがほとんどです。普段最も多く使うのが表計算やプレゼンテーションツールという社員にとってはハードルが高くなってしまう。kintoneはユーザーフレンドリーがコンセプトで、それを意識した設計であるところに魅力を感じました」(日髙氏)

 こうしてJALは2019年12月にkintoneの導入を決定した。

矢継ぎ早に施策を打ってロケットスタート

  IT企画本部に着任して以来、PaaS(Platform as a Service)やAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)といった新技術活用を企画していた日髙氏がkintoneを担当するようになったのは2020年4月だ。それ以降、kintoneの社内普及がミッションの一つとなった。「実は担当するまでkintoneに触れたことはなかった」と言うが、着手から1週間で一通りの機能をマスターした。そこからサイボウズが提供するヘルプや操作解説の動画資料などを参考に、自身の学習体験も踏まえて、独自の社員向け教材を約1カ月で開発した。

 次に実施したのが、IT企画本部に在籍する約160人を対象にした全社展開前トライアルだ。会計処理申請や案件進捗管理といったkintoneアプリの他、ちょうどコロナ禍による最初の緊急事態宣言が発令された頃だったため、「上司から出社許可を得るワークフローをkintoneで完結させる仕組み」を構築したメンバーもいた。

 このトライアルで手応えを感じた日髙氏は、JALグループ全社を対象にkintoneの利用希望を募るとともにkintone事務局を組織した。ここで巻きこんだのがJALの業務をよく知るグループ会社のJALインフォテックだ。JALインフォテックとkintone事務局を組織してノウハウを整理し、各事業部門がkintoneアプリの開発で利用できるデータの整備に注力した。

図1 JALの組織体制(出典:サイボウズ提供資料) 図1 JALの組織体制(出典:サイボウズ提供資料)

 「両社で『事業部門が便利に使うためにどんな共通部品があったらいいか』を考え、いろいろなアプリからルックアップで参照できる社員マスタアプリなどを整えました」(日髙氏)

 IT部門が支援するのは仕組みづくりまでだ。この仕組みを生かすかどうかは利用者である事業部門にかかっている。

 社内告知を見て手を挙げた部門の中で最も大規模な人数だったのは、客室乗務員が所属する客室本部だ。客室本部のバックオフィス業務はもともとペーパーワークが多いことからペーパーレス化を望む声が多く、業務改革への意識が高かった。IT企画本部は客室本部にアプリ開発アドバイザーを送り込み、オンデマンドの問い合わせ対応だけでなく定例ミーティングを開催して開発習慣を定着させることに心を砕いた。

 JALは、事業部門が最初のアプリ開発に挑戦する期間を「勝負の3カ月」と呼ぶ。エンドユーザーだけに任せると、最初は意欲満々でも本業が忙しくなると尻すぼみになりがちだ。アドバイザーが週次で進捗(しんちょく)や課題を聞き出し、IT企画本部と客室本部の二人三脚で取り組んだ結果、3カ月で70あまりのアプリケーションが客室本部から誕生した。

 「DXの『D』はデジタルですからIT部門が用意します。しかしトランスフォーメーション(X)は導入側の熱意がなければスタートできません。kintoneとデータの整備によって『D』の環境は整ったと思っています。この成果によってトランスフォーメーション(X)にトライする気持ちを増幅できるようになったと感じています」(日髙氏)

 また、2021年6月に急きょ実施が決まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン職域接種への対応においては、IT企画本部と事業部門が連携する仕組みを用いて接種実績の管理システムをkintoneで構築し、実施決定から2週間後の接種開始を成功させた。

エンドユーザーコンピューティングを成功させるには? JALの成功方程式

 kintoneでエンドユーザーコンピューティングを進める中で、日髙氏らが確立したスタンスが幾つかある。

1. 事業部門に寄り添い、伴走する

 「やりたいことがあったら何でも相談してください」と、kintone事務局はJALグループ内に門戸を開いている。実際、あれこれと事務局を頼って相談する組織ほどkintone活用をうまく進めているという。相談を通じて事業部門がノウハウを一方的に獲得するだけでなく、IT部門も事業部門のニーズをつかんでkintoneでの共通データ提供などに反映することができる。

 また、kintone事務局は、事業部門の「試したい」という熱意を受け止めるために、トライアル期間である「勝負の3カ月」のライセンス費用を肩代わりして費用負担の障壁をなくすことで参加を促している。

2. 基本的には自由に使ってもらう

 IT部門が主導してkintoneを活用する組織の中には、アプリの品質を保証するために事業部門のアプリ開発をIT部門がリリース前にチェックするところも多い。しかしJALは、「欲しい人が欲しいときにアプリを作れるエンドユーザーコンピューティングが導入の目的だったことから、クイックさを生かすためにIT部門によるリリース前チェックは実施しないことにしました。大事なのは、kintoneをどのように生かすかという目的に応じたルール等の仕組みを整えることです」(日髙氏)

3. ただし、必要最低限の統制は取る

 その一つが、アプリ開発上のルールである。アプリの命名規則は全社共通で徹底した。必ず組織名とkintoneが自動採番するアプリID番号を入れることで、アプリの管理組織を明確にするとともに、似たようなアプリを識別できるようにした。

 また、アプリケーションの“整理整頓”も行う。半年に1回、あまり使われていないアプリケーションを抽出するアクセスカウンターアプリをJALインフォテックが独自開発した。抽出されたアプリはkintone上のプロセス管理機能(ワークフロー)によって作成者に通知し、必要性を確認させ削除等の処置を実施させる。これによってユーザーの自由な開発を促す際に課題になる利用者不明のアプリが散在してしまう問題や、作成アプリ数の上限の問題に対処できる。

図2 kintoneによるユーザーアプリ開発を支える仕組み(出典:JAL 日髙氏提供資料) 図2 kintoneによるユーザーアプリ開発を支える仕組み(出典:JAL 日髙氏提供資料)

 JALはこうしてIT部門主導により、kintoneアプリ開発を推進する仕組みを確立した。サイボウズのイベントでこれらについて発表したところ、出席者から“アプリアクセスカウンターを当社でも使わせてほしい”との声が上がり、JALインフォテックのkintoneビジネス開始につながった。これはまさに「目的」と「仕組み」と「熱意」が掛け合わされた結果といえるのではないか。

図3 成功方程式は「目的」×「仕組み」×「熱意」(出典:JAL 日髙氏提供資料) 図3 成功方程式は「目的」×「仕組み」×「熱意」(出典:JAL 日髙氏提供資料)

今後はライトなプロ開発にもkintoneを活用予定

 今後、JALはどのようにkintone活用を進めるのか。

 「まず、事業部門が熱意を持ち続けられるよう支援します。初期の熱意も必要ですが、それを維持し改善を進める『継続的な熱意』こそが最も大切だと考えています。サイボウズはこれを『芋づる式業務改善』と呼んでいますが、『最初のアプリ開発で費用対効果を達成したら終わり』でなく、業務改善にチャレンジし続けてもらえるよう事業部門を後押しする活動を強化します」(日髙氏)

 JALではkintoneの価値に気付いて利用開始した組織では、いまやkintoneは手放せないものとなっている。「kintoneで何ができるかを知らない社員にも輪を広げたいですね」と同氏は語る。

 「kintoneはエンドユーザーコンピューティングのプラットフォームとして有用ですが、企業情報システムのうちライトなものにも活用できると思います。ライトなプロ開発にも適用して、スピード向上やコスト削減につなげるのがさらなるkintone活用の姿だと考えています。JALインフォテックから、kintoneが備えるAPIを用いてAWS(Amazon Web Service)と組み合わせたシステム開発が提案されており、活用の可能性を感じているところです」(日髙氏)

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提供:サイボウズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2022年11月3日