従業員1万人超え企業のローコードツール活用戦略 事業部門によるアプリ内製化を促進させる仕組みづくりガバナンスとは「縛ること」ではない

ノーコード/ローコード開発ツールの普及によってアプリ内製化に取り組む事業部門も増えてきた。ただし、これを成功させるためには従業員のアプリ開発を支援する適切なガバナンスを敷くことが重要になる。ジヤトコの事例から3つのポイントが明らかになった。

» 2022年12月14日 10時00分 公開
[PR/ITmedia]
PR

 多くの日本企業はこれまで、システムやソフトウェア開発の大部分を外部に委託してきた。この状況では完成までに時間がかかりコストがかさむだけでなく、コミュニケーションのミスなどによってユーザーの要望とは異なる仕上がりになることもあった。

 だが近年は、プログラミングの知識がなくてもアプリを開発できるノーコード/ローコード開発ツールの普及や、業務内容を熟知する人材が業務改善の必要性を認識し始めたことによって、外部委託ではなく内製化を検討する企業が増えている。

 そこで今回は、従業員がアプリを自由に開発できる環境と、開発したアプリを管理する体制を構築したジヤトコの事例を紹介する。

ジヤトコは「kintone」をどのように利用しているのか?

 ジヤトコは自動車用の自動変速機とその部品を開発、製造、販売する企業で、グローバルで1万2700人もの従業員を抱えている。同社のCVT(Continuously Variable Transmission:無段階自動変速機)は高いグローバルシェアを誇り、累計で5500万台の自動車に搭載されている。

 同社はデジタルイノベーション推進部を中心に、情報システム部と連携してデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めている。

 デジタルイノベーション推進部の主な活動は以下の3つだ。

  • Smartモノづくり:開発から生産までの仕事の時間やコストを短縮させる活動
  • Smart Factory:生産実績の見える化やチェックシートの電子化など工場におけるDXで効率化を進める取り組み
  • 間接業務革新:単純作業や押印業務の削減、ペーパーレスなどを進める。間接業務革新基盤のツールとしてサイボウズの「kintone」を活用している
ジヤトコの岩男智明氏

 ジヤトコの岩男智明氏(情報システム部 兼 デジタルイノベーション推進部)は「デジタルイノベーション推進部は、アプリを開発できる人材を育てることで開発を支援している。情報システム部門はkintoneの運用ルールや教育体制、ガバナンスを整備している」と話す。

 ジヤトコはkintoneを「現場主体の業務基盤」と位置付けて、2018年から業務アプリを開発してきた。情報システム部ではなく営業や調達、生産、財務、人事などの部門が主導してアプリを開発する体制を構築。kintoneは業務に関するデータをほぼ全て集約しており、サイロ化を防ぐデータ基盤としての役割もある。

kintoneは現場主体でアプリを開発する基盤(出典:ジヤトコの提供資料)

紙とはんこが乱立する業務をジヤトコはどう変えたのか?

 kintone導入以前、ジヤトコはシステム開発を開発会社に委託してきた。受注した開発会社はさらに下請けにこれを委託するため、開発期間の長期化やコスト増など多くの課題が生まれていた。

 岩男氏は当時を振り返り「重厚長大な仕組みでは、アプリ開発者がユーザーから遠くなってしまう。その結果、コミュニケーションのミスが起きやすく失敗や不具合も増えていた。そこで当社は自分たちで業務アプリを開発して業務を改善したいと考えた」と話す。

 kintoneを利用したアプリ開発の例としては、調達部門による発注先選定業務改善アプリがある。

 それまでの発注先選定業務は以下の手順を踏んでいた。調達部門が社内の事業部門(要求部門)から依頼を受けて発注先を選定する。各サプライヤーから仕様書を入手し、要求部門に電子メールで確認を依頼する。要求部門からの回答を受けて価格を承認し、その結果を要求部門に伝える。岩男氏によれば、このプロセスはシステム外の業務も多く、紙とはんこ、電子メールによる承認が乱立していた。

 発注先選定業務改善のための仕組みは以下の通りだ。

開発したアプリによる発注先選定業務の改善(出典:ジヤトコの提供資料)

 調達部門がkintoneに仕様書を登録すると、要求部門に確認依頼通知が自動で送られる。要求部門がこれを確認すると、調達部門の部長に自動的に承認依頼が送られる。これを部長が受領すると、その結果が要求部門に通知されて手続きが完了する。

 岩男氏は「これによってシンプルで迅速な処理が可能になった。押印の回数は年間で約5万件減少して、紙も約11万枚削減。リードタイムは40%も減少し、年間2000万円のコスト削減につながった。アプリについては、内部監査の担当者からも『押印による証跡よりも確実で統制が取れている』と評価されている」と語る。

 注目すべきは、調達部門に配属されて3年目までの若手従業員が中心となってアプリを開発したことだ。岩男氏は「自分たちで業務を改善できたのは大きな経験になったと思う」と話す。調達部門以外でも、営業部門は請求書の発行処理を自動化するために、調達部門は発注先選定を効率化するためにアプリを開発した。

開発成功の裏には、強固なガバナンスあり

 kintoneによる内製化の取り組みが成功している背景には、従業員が業務アプリを開発しやすい運用体制が整っていることが関係している。この仕組みは情報システム部門と外部ベンダーとの協業で構築したもので、特にガバナンスを重視している。

 岩男氏は「ガバナンスと言うと統制や管理のような『がんじがらめに縛る』というイメージが付きまとうが、語源は古代ギリシャ語の『かじ取り』を意味する言葉。それを踏まえると、ガバナンスとは従業員全員が会社の目的(ゴール)に向かって安心して進めるようにするための仕組みだ」と説明する。

 「最初は自社だけでは何から始めればいいかが分からないこともある。パートナーの知見やサイボウズが提供する『kintoneガバナンスガイドライン』を利用して、自社に合った運用体制を構築すべきだ。kintoneはパートナー評価制度も整備されているため、それらを利用して自社に合ったパートナーを選択できるのも強みだ」(岩男氏)

 ジヤトコはガバナンスを構築するに当たって「運用ルール」「教育」「継続的改善」の3つを重視している。

1.運用ルール

 ジヤトコはまず、会社の管理が及ばない「シャドーアプリ」(野良アプリ)をなくすためにアプリの運用者と管理者を決定した。

 次に、アプリ開発に制限を設けない代わりに開発されたアプリには必ず品質評価ルールを設けた。開発されたアプリは、まず「トライアル利用」と位置付けられ、これを継続的に使用したい場合は「本運用申請」の提出を義務付けた。

 本運用申請後は、本番稼働前と稼働後の改修時の2回にわたってチェックシートに基づいて検証(バリデーション)する。検証では職位別のアクセス権限などが正しく設定されているかどうかなどをチェックする。

 ジヤトコはkintoneでのアプリ開発でJavaScriptの使用を禁止しており、その代わりに情報システム部門が認めたプラグインの利用を推奨している。「JavaScriptに詳しい人が作り込むと、開発者以外は触れなくなる可能性がある。長期で安定的に運用するためにプラグインを利用している」(岩男氏)

2.教育

 ガバナンスに基づいて運用する上では従業員教育も重要になる。ジヤトコは従業員を「未習熟」「初級」「中級」「上級」「マスター」の5段階に分類し、それぞれの役割を明示している。

 業務アプリの検証は、情報システム部門ではなく各事業部門の「上級」レベルの従業員が実行している。岩男氏は「ステップアップの条件を定めて育成プランも用意している。『各部門で毎年、決まった数の上級者を育成しなければならない』という目標を定めたことで、高いスキルを持つ開発者が増えている」と語る。

3.継続的な改善

 ガバナンスに関する取り組みでは継続的な改善も必要不可欠だ。ジヤトコがkintoneを導入した2018年当時は100人ほどのユーザーしかいなかった。真っ先に利用し始めた調達部門から他部署に利用が拡大する中で運用ルールを改訂していった。2021年に経営トップが全社でkintoneを利用する方針を示し、アプリの監査基準や教育プログラムを整備した。

 こうした取り組みの結果、品質の良い業務アプリを作れる人材が大幅に増えた。現在、同社には4000人以上のkintoneユーザーが存在するが、2019〜2021年の2年間で「中級者」は2018年比で25倍、「上級者」は同11倍に増加して各部門に「上級者」が2人以上在籍するようになった。

似たようなアプリが数十個発生――内製化で生まれた課題への対処法は

 しかし、業務システムの内製化が進むにつれて新たな課題も浮上した。

 「社内ポータルで『工数管理』というキーワードで検索すると、数十個のアプリがヒットするようになった」(岩男氏)。内製が進んだ結果、各部門が類似したアプリを作るようになり、運用の負荷が増えたのだ。

 この問題をどう解決すべきか。本来は、類似業務を統合することが望ましいが、部署によって業務内容が異なり規模にバラつきがあるため「部門によって異なる管理指標を共通化するのは不可能だ」という声が多かった。

 岩男氏のチームが「現場主導の力と標準化の力の双方を発揮できないか」と検討を繰り返した結果、たどり着いたのが「最終的にデータを活用する部署の視点に立ったルールの明確化」だった。

全社最適を目指した標準化(出典:ジヤトコの提供資料)

 例を挙げると、予算実績管理(予実管理)のアプリは各部門で作られているが、最終的にそれらのデータをまとめる財務部門に必要なデータのフィールドを定義し、全ての予実管理アプリに「全社共通仕様」として入れることを義務付ける。

 「共通化する部分と個別にアレンジ可能な部分を明確にしてアプリに統制をかける。全社共通の仕様以外の項目は自由に実装してもよいことにした」(岩男氏)

 さらなる活動として、間接業務の共通化をさらに推進するため、各部門のアプリ開発者を中心に「全社横断変革プロジェクトチーム」を構築している。また、kintoneとデータ活用基盤との連携も合わせて進めている。「kintoneはさまざまなことができるが、複雑な統計解析やAI(人工知能)による分析などには向かない。そのためデータ活用基盤を活用している」(岩男氏)

 データ活用基盤にはkintoneをはじめとする全社のデータを入れて分析している。ジヤトコは、現場主導で活用できるようにデータ活用基盤にも業界標準に基づいたデータガバナンスを適用している。

 岩男氏は最後に「改めて強調したいのは、ガバナンスは従業員を縛るためでなく目的に向かって進むための仕組みだということだ。皆が効率的に動きやすくするための運用体制を構築してほしい」と語った。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:サイボウズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2022年12月22日