800人が取り組んだ「昭和な役所」のオフィス改革 反発を乗り越え生産性を向上させた3つのポイント生産性を向上させるオフィスの在り方

日本の自治体の多くが少子高齢化や職員の減少といった課題を持つ中で、市民サービスの多様化が求められている。少ない職員で従来よりも多様な仕事をこなすためには何が必要なのか。西予市の取り組みから学ぶ。

» 2023年01月23日 10時00分 公開
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生産性が上がらない「昭和なオフィス」をどう変えた?

 サイボウズは2022年12月6〜7日にイベント「Cybozu Circus 2022 大阪」を開催した。7日のセッションには愛媛県西予市役所の上甲宏之氏(情報推進室室長)が登壇し、「これからのオフィスづくりはどう進めるべき? 地方の役所が取り組んだ昭和な働き方からの脱却」というテーマで「オフィス改革とデジタルツールの活用」について話した。

上甲宏之氏

 西予市は愛媛県の南西に位置し、人口は約3万5000人だ。同市は海抜0メートルの宇和海沿岸から標高約1400メートルの四国カルストまで、起伏に富んだ地形と多様な自然に恵まれている。一方で、市域が東西に長いために人やモノの移動に時間がかかるという課題もある。

 西予市がオフィス改革に取り組んだ理由について上甲氏は、「当市は少子高齢化が進む典型的な自治体で、それによって財政悪化や職員の減少が続いています。一方で市民サービスは多様化しており、生産性を向上させるための環境整備が必要でした」と語る。

 同氏によれば、オフィス改革前の西予市役所のオフィスは生産性を低下させる要素であふれていたという。フロアにあった事務机や袖机、キャビネットには多くの書類が積まれ、職員はそれらに囲まれて仕事をしていた。

 このキャビネットは部署を仕切る壁となり、部署間を行き来しにくいことに加え、上甲氏は「キャビネットが『心の壁』にもなっていたかもしれません」と振り返る。上長の席は窓を背にしたいわゆる「ひな壇席」だったため、職員が気軽に相談しづらい雰囲気もあったという。

 業務も「昭和スタイル」で進められていた。PCはデスクトップかつ有線LANで席から動かせないため、会議資料は全てプリントアウトしていた。会議室も不足しており、予約に時間と手間がかかる上、予約なしで打ち合わせができるスペースなどもなかった。

 「打ち合わせがスムーズにできない結果、決めなければいけないことが先送りにされていました」(上甲氏)

「Changeせいよ!」をコンセプトに改革がスタート

 こうした問題を解決するために、西予市は2015年にオフィス改革プロジェクトをスタートさせた。

 プロジェクト開始当初は、庁内から「改革に何か意味はあるのか」「紙でなければ仕事ができない」といったさまざまな反発の声が上がった。市民や議会からも「新しい庁舎ができて間もないのに、また金をかけるのか」「もっと他にやるべきことがあるだろう」といった厳しい声が出たという。

 上甲氏は「職員はオフィス改革の意義を理解しておらず、市民への説明も不十分。こうした反発が起きたのは当然でした」と振り返る。

 この取り組みに際し、京都工芸繊維大学の仲 隆介教授、東洋大学の戸梶 亜紀彦教授、建築家の馬場正尊氏と産学官連携・協力協定を締結し、オフィス改革の進め方についてアドバイスを受けた。職員への説明には仲教授や戸梶教授も時には同席し、オフィス改革の意義を伝えた。市民には広報紙を通じてそれらの情報を伝えた。

 改革プロジェクトの初期段階では、プロジェクトメンバーがオフィスについて意見を出し合うワークショップを実施し、このワークショップから生まれたコンセプトが「Changeせいよ!」だ。「せいよ」は市の名称であると同時に、この地方の方言で「〜しなさい」という意味がある。コンセプトが固まったことで改革の方向性が明確になった。

ペーパーレス化で打ち合わせスペースが誕生

 オフィス改革を進めるに当たって、「オフィスレイアウトの変更」や「ペーパーレス化」などの大掛かりな変更は職員の抵抗が大きいと予想された。そこで、まずはWi-Fiの整備やノートPCの導入など、抵抗が少ないところから着手した。

 「いきなり大きなことをやろうとしても難しいので、小さいことから始めて手応えを感じながら進めました」(上甲氏)

 オフィスフロアの改革は2015年3月に管理部門の一部から開始した。既存のスチールデスクをそのまま使い、キャビネットや袖机の一部を撤去することでミーティングスペースを捻出した。その後は対象の部署を徐々に拡大し、2016年11月には総務フロアの全てのデスクを入れ替え、ノートPCとWi-Fiを整備し、ペーパーレス化したモデルオフィスが完成した。

図1 改革前後のオフィスの変化(出典:西予市の提供資料)

 2022年3月に本庁舎のほぼ全フロアのレイアウト変更を完了し、これまでのオフィス改革に加え、新しい生活様式に対応した行政サービスの基盤が整った。

ペーパーレスやフリーアドレスにGaroonを使用

 フロアレイアウトを変更しただけでは「古い業務プロセス」は変わらない。業務改革として、「紙の書類」「昭和な会議」「職位の壁」の3つからの脱却が目標に掲げられた。

1.「紙の書類」からの脱却で時間短縮

 ペーパーレス化で威力を発揮したのが、サイボウズのグループウェア「Garoon」だ。西予市は2008年にパッケージ版Garoonの利用を開始し、2019年にクラウド版に移行した。現在は市の全職員約800人が使用しており、出勤してPCを立ち上げるとGaroonが自動的に起動して1日のスケジュールを表示する。「Garoonから1日が始まる」と上甲氏は話す。

 ペーパーレス化の実現には、申請業務のデジタル化が寄与している。Garoonの「ワークフロー」機能を用いることでプリントアウトやFAX送信が不要になった。外出先でもスマートフォンで承認できるので承認時間も短縮された。

 西予市ではワークフロー機能の利用が年々増えており、2021年のワークフロー機能による申請件数は2019年と比べて1.7倍に増えた。

 会議資料もペーパーレス化した。Garoonの「スケジュール」機能で事前にメンバーに資料を共有することで、ペーパーレス化だけでなく資料の内容を会議の場で報告する必要がなくなり、すぐに本題を議論できるようになった。5人以上参加するスケジュール画面への資料の添付率は、2019年の4%から2022年には約6倍の24.8%に増加した。

 「こうした取り組みの結果、複合機の印刷枚数も削減できました。2021年の年間印刷枚数は2020年から65万枚も減りました」(上甲氏)

2.「昭和な会議」からの脱却で質、量ともに変化

 西予市は会議室の不足を解消するため、フロアの各所に予約なしで使えるミーティングスペースを設置した。ミーティングスペースにはモニターを配置し、利便性も向上した。

図2 昭和の会議から令和の会議へ(出典:西予市の提供資料)

 このような取り組みによって、会議のやり方が変わった。 以前は紙資料を印刷して配布していたため、会議開催までに時間がかかっていたが、現在は打ち合わせをしたくなったとき、各自がノートPCを持ってさっと集まりすぐに打ち合わせできるようになったという。

 職員を対象としたアンケートの結果によると、オフィス改革後は予約が必要な会議室の利用が減る一方で、短時間の打ち合わせの頻度が高まっていることが分かった。これについて上甲氏は「会議の量と質が変化した」と評価する。

3.「職位の壁」からの脱却 「記憶より記録」で確実に仕事を進める

 最後が「職位の壁」からの脱却だ。固定席とひな壇席を廃止して、一部フロアではフリーアドレス制を採用した。職位に関係のないフラットな座席配置に変わったことで、職位が異なる職員間の会話が大きく増えた。特に一般職員と課長クラスなど職位が3、4階層異なる職員同士の会話は、改革前の7.2倍に増加したという。「私自身もなるべく若手の職員の近くに座るようにしており、何げない会話をする機会が増えました」(上甲氏)

 西予市が職員を対象に実施したアンケートによると、「会話が増えたことで価値ある情報を得る機会が増えた」という回答が70%に上った。

 西予市は職員間のコミュニケーションやコラボレーションを活発化させる仕組みとして、Garoonのスケジュール機能も活用している。市長を含めた職員全員の予定が原則公開されており、空き時間があれば職員が市長の予定を予約できる。職員全員が市長のスケジュールを確認し、適切なタイミングで協議等を行えるようになって効率が良くなっている。

 固定席がなくなることで、「誰がどこにいて何をしているか」が分からなくなることはないのか。

 西予市はGaroonの「スペース」機能や「メッセージ」機能を利用することで記録を残している。

 「以前は電話や対面の打ち合わせの後に『言った』『言っていない』を争うこともありましたが、現在はGaroonを利用して『記憶よりも記録に残す』ことで仕事を確実に進められるようになりました」(上甲氏)

 市役所職員がメッセージ機能を利用して発信したメッセージの数は、2022年には年間3万2000件を超えた。ほぼ全職員が1日に1回以上発信している計算だが、Garoon導入当初は消極的な職員もいたという。

 「メッセージよりも電話が早いのではないか」と言う職員には「電話をかけた相手がいつも応答できるとは限らない」「取り次ぎに人手がかかる」「通話内容が記録に残らない」といった電話の問題点を挙げ、Garoonを利用するメリットを説明することで利用者を増やした。

オフィス改革で市民サービスも向上

 市役所のオフィス改革後、市民向けの相談や手続き環境の改善もできた。窓口に囲いを付けプライバシーに配慮し、車いすにも対応できるスペースを持ち、子どもと一緒に相談ができる空間なども新設された。

 市民にとっても関心が高い災害対応については、Garoonの「掲示板」機能を活用している。災害情報を掲示板に集約することで、市が災害対策を取る際の初動判断の迅速化にもつながる。

図3 Garoon活用による災害時の対応迅速化(出典:西予市の提供資料)

 「2022年9月に発生した台風14号でも掲示板で情報共有を図りました。災害時は庁外でもGaroonの全機能を状況に応じて使え、職員は外出先や家にいても迅速に初動判断ができました」(上甲氏)

 西予市のオフィス改革は、日経新聞とニューオフィス推進協会が主催する第35回 日経ニューオフィス賞の「四国ニューオフィス奨励賞」を受賞している(注1)。西予市は同賞を3回受賞しており、西予市のオフィス改革は他自治体からの注目度も高い。

 西予市は、オフィス改革とGaroonによる情報共有を掛け合わせて粘り強く働き方を変えてきた。上甲氏はオフィス改革に取り組む人に対して「すぐに諦めず、トライ&エラーを繰り返すことが重要です。関係者に根気よく説明することも大切です。まずは身の回りの整理や不要物の処分といった小さなチャレンジから始めて、職員がオフィス改革を『自分ごと』にできる環境をつくりましょう」と語った。

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