働き方を可視化する「ワークログ」とは? “人的資本経営の本質”から考える専門家が提言

専門家によれば、多くの日本企業が「人的資本経営」の意味を取り違えているという。何が“正しい”人的資本経営なのだろうか。また、それを可能にする「ワークログ」とは何だろうか。

» 2023年08月09日 10時00分 公開
[PR/ITmedia]
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 上場企業は2023年3月期決算から人的資本の開示が義務付けられるなど、「人的資本経営」が重要なキーワードとなっている。

 専門家によれば人的資本経営を単に「従業員を大事にしよう」という方向性で捉えるのは人的資本経営の本質から外れているという。

人的資本経営は「人を大事にする“だけ”の経営」ではない

SP総研 民岡 良氏

 企業にデータドリブンな人事の在り方を提案するSP総研の民岡 良氏(代表取締役 人事ソリューション・エヴァンジェリスト)は次のように語る。

 「前提として、『人にもっと注目しよう』という流れがきたこと自体は、非常に良いと思います。しかし、日本企業の多くは人的資本の根本的な意味を取り違えていると言わざるを得ません」

 日本では従来、終身雇用制度を前提として「企業は人なり」「従業員は家族」といった標語を掲げる企業もあった。このような経営手法は、今求められている人的資本経営とは意味が異なると民岡氏は言う。

 「日本企業はこれまで、人を大事にする経営を貫いてきたといわれています。ではなぜ、日本企業の生産性は他の先進国と比べて著しく低くなってしまったのでしょうか。それは、日本企業の人材(人財)の捉え方に誤解があったからです。企業にとって、『人さえいればいい』という時代は終わったと捉えるべきです」

 これからは、いよいよ人の“中身”に注目しなければいけないというのが民岡氏の主張だ。「経営に関わるさまざまなデータを収集・分析し、意思決定に用いる試みが進んでいます。もちろん人材マネジメントの領域においてもデータの定量化を進め、データドリブンな意思決定をしなければいけません」と同氏は続ける。

図1:人的資本経営の“本質”。今回はこの中で「働き方の個別化」に着目する(民岡氏の提供資料)

 人的資本の定量的把握が必要な理由はもう一つある。上場企業は2023年3月期決算から、企業の情報開示として非財務情報、とりわけ人的資本に関する情報を具体的な形で開示することが求められるためだ。

 「人的資本の情報は、情緒的な作文では駄目です。人的資本を定量的に把握・開示できない企業は、投資家から中長期的な投資を受けられず、成長のための資金を調達できなくなります」

従業員を管理する時代からスキルを最大化する時代へ

 人的資本の定量的なデータの収集と開示は企業にとって難題だ。民岡氏はその中でも従業員の「スキル」に注目する。

 「従業員データの中で最も重要な項目の一つがスキルです。これこそが企業の競争優位性の源泉だからです。しかし、これを重視している企業は非常に少ないのが現状です」

 では、企業はどのように従業員のスキルを測定し、管理すべきなのか。

 これまでは企業が実施するスキルアセスメント(試験)や職務の実績評価などによってスキルレベルの把握が行われてきたが、同氏によれば従業員の納得感は必ずしも得られていなかったという。それとは異なるスキルの可視化と測定法について、民岡氏はSP総研が実施している例を語る。

 「SP総研が提案するのは、従業員が自由な表現で自らの職務内容を『セルフジョブ定義書』としてまとめる方法です。当社が持っているスキルのデータベースも活用して、保有しているスキルの可視化とそのレベル測定の支援もしています」

 スキルの定量化は、企業の競争優位性や持続可能性に関心がある投資家向けの情報開示のためだけでなく、人材採用の面でも重要度が増している。

 「人的資本経営の取り組みは、学生が企業を選定する基準にもなっていきます。現役の従業員だけでなく、企業の成長を担う『従業員予備軍』にとっても、働き方の“持続可能性”を重視する観点から重要な要素になりつつあります」

 民岡氏の解説で、従業員がそれぞれのスキルを存分に発揮し、新たなスキル習得に積極的になることが人的資本経営にとって重要だということが分かる。従業員のスキルとそこから生み出されるパフォーマンスを最大化し、企業価値向上につなげられる環境を企業はどのように提供すべきだろうか。同氏は図1で「『働き方』の個別化」と表したように、従業員のスキル最大化のためにはそれぞれの状況や志向に応じた自由な働き方が重要だと言う。

 「従業員のスキルを認識し、そのバリエーションを増やしながら伸ばしていくことが人的資本経営の目的の一つとも言えます。従業員がスキルを存分に発揮する上で一人一人にとって最適な環境の提供が求められ、そのためには自由な働き方を許容することも重要な要素になりますが、その鍵を握るのが勤怠管理の在り方の変革です」

仕事時間の中身を見る「ワークログ」という考え方

 企業が収集する従業員データの代表例として勤怠データがある。多くの企業は勤怠データとして従業員の労働時間しか取得しておらず、そのデータは給与計算や残業時間の把握などの限定した用途にしか使われていない。

 こういった問題を解決するためチームスピリットは「ワークログ」と称するデータの活用を提唱する。勤怠管理をはじめとするバックオフィスのSaaS製品を開発する同社は、自社製品を利用することで得られる就業データをワークログと呼び、これを参照することで働きやすい環境をつくれているかどうかや、従業員が成長につながる時間の使い方ができているかどうかを評価できる。

図2:ワークログの概要(チームスピリット提供資料)
チームスピリット 若宮成吾氏

 ワークログについてチームスピリットの若宮成吾氏(執行役員 CRO)は次のように語る。

 「従業員の価値を最大化する上でまず取りかかるべきなのは、従業員一人一人がどのような働き方をしているかという活動データの取得です。しかし、従業員が毎日の仕事を全て書き出して記録するのは負荷が高く困難と考えます。そこでチームスピリットは、従業員に負荷をかけずに仕事の中身が自動的に記録される仕組みをつくり、ワークログとして活用いただけるソリューションを完成させました」

 同社は、ワークログの“インプット”(データ入力)と“アウトプット”(可視化)の両面で自動化を進めている。インプット(データ入力)では、業務アプリケーションやカレンダーから自動でデータを収集する。

 「カレンダーに従業員の仕事の6割程度は入っているため、基本的な入力は自動で済みます。後は従業員が1〜2分、細かい中身を入力すれば完了です」(若宮氏)

 アウトプット(可視化)においては、個人やチームのパフォーマンス、時間の使い方をダッシュボードで参照できるようにした。従業員は自分のパフォーマンスの確認やオペレーションの改善が可能になり、マネジャーや経営者はチームのパフォーマンスを確認して配置転換などを検討できる。

図3:ダッシュボードの概要(チームスピリット提供資料)

 ワークログは、労働時間を細かい作業項目に分けて「価値を創造する時間」と「価値を創造していない時間」に分類する。職種によって業務内容は違うが、例えば営業では「商談」「資料作成」「定例会議」などの作業項目を設け、それぞれに価値創造の有無を定義して活動した時間を記録する。

 「チームとして価値を生み出す時間が非常に少ない部門があれば、それは個人の問題ではなく組織のマネジメントに問題があるかもしれないという気付きを得られます」(若宮氏)

働き方の個別化が人的資本の最大化につながる

 営業やマーケティングなどの職種は売り上げで人材を評価できるが、間接部門は定性評価になりがちだ。若宮氏によれば、ワークログによって労働時間のうち「価値ある時間」をどれだけ過ごしているかを記録することが、モチベーションを高め、生産性を高めることにつながるという。

 「従来、勤怠管理のデータを使っている部署は人事と労務部門に限られていました。働き方について粒度の細かいデータを取ることで、事業部門や経営企画部門などで攻めの戦略にも活用できます」

 同氏によれば、ワークログの活用で従業員が価値を創造する時間が増加し、3年連続で増収増益を達成している企業も存在するという。

 民岡氏もワークログのメリットについて次のように話す。

 「従来の勤怠管理は従業員の管理が目的で、労働時間を基に働き方の問題点を摘み取るという、“マイナスをゼロに”するためのソリューションでした。ワークログのように、より細かい仕事のデータを取ることで、“ゼロからプラスに”持っていく議論ができると思います。これは、人的資本経営の考え方と一致しています」

 民岡氏は労働時間だけでなく、業務内容をベースにワークログを記録することの効果にも期待する。

 「これはワークログの理想的な活用展望ですが、例えば新幹線で移動中にPCで資料を作成してその出来栄えが普段よりも良かった場合、単なる移動時間とせず『良い資料を作成した時間』として登録することが正しいと思います。それができれば、能動的な働き方の選択による企業価値の向上につながるでしょう」

 ワークログはマネジャー特有の働き方も可視化できる。「部下との1on1ミーティングを定期的に実施しているかどうか」「チームメンバーが育成プログラムを受講しているかどうか」などをチェックすることで、部下のマネジメントへの貢献度を確認できる。

 ワークログと売り上げデータを組み合わせて分析することで、チームの生産性と働き方の関係を解き明かすこともできる。

 「売り上げデータとワークログ、従業員エンゲージメントのデータとワークログといった、さまざまな組み合わせで組織のパフォーマンスを分析することで、マネジメントの在り方も変わります。ワークログは、これまでできなかった切り口でマネジメント力を強化し、企業の成長につなげます」(若宮氏)

 人的資本経営を実現するには、まず働き方の現状を知り、施策と改善度合いを数値で把握する必要がある。企業は、これまでブラックボックスだった働き方の領域に新しい尺度を提供するワークログに注目だ。

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提供:株式会社チームスピリット
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2023年8月29日