ERPパッケージをクラウド化する意義とは何か 導入パートナーが語る現場のリアルクラウドニーズは“真実”か?

NTTデータ・ビズインテグラル主催のイベントで、専門家やパートナー企業がERPパッケージのクラウド化について議論を交わした。ユーザー企業のニーズと、それに対してSIerが果たすべき役割とは。

» 2023年08月24日 10時00分 公開
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4年ぶりにリアル開催された「Biz∫🄬」(ビズインテグラル)のパートナー会

 2023年7月、NTTデータ・ビズインテグラルの2023年度「Biz∫パートナー会」が、コロナ禍を経て4年ぶりにオフラインで開催された。同社の主力であるERPの新製品や事業の展望が紹介され、パネルディスカッションではパートナー企業らが「ERPパッケージをクラウド化する意義」について議論を交わした。

NTTデータ・ビズインテグラル 田中宏治氏

 冒頭、同社代表取締役社長の田中宏治氏らが登壇し、2023年度の事業方針や新製品の概要などを説明した。ERPパッケージ「Biz∫」は累計採用社数が2022年末に1500社を超えた。「これは2009年に創業して以来、営業日換算でいうと2日に1社が採用した計算になる。導入を支援いただいているパートナー各社の尽力によるものだと認識している」と田中氏は語る。

 田中氏は「ようやくERP市場にもSaaS、クラウド化の波が訪れている。当社もしっかり対応していきたい」と語り、同社の方針について説明した。

 適材適所にパッケージを導入してそれらを連携させる方法が現在の主流だが、ビジネスの変革に対してシステムがより柔軟に対応できるよう、アプリケーション基盤の上に業務アプリケーションや業務モジュールなどを必要に応じて追加、削除できるようにする。

 同社では、機能強化を指す「進化する」、他のソリューションとの連携を指す「つながる」、アプリケーションの上にモジュールなどを「組み立てられる」という3つのコンセプトで製品を開発している。

 「ERPの製品戦略としては、Fit to Standardが適する会計領域を進化させる。一方、企業の差別化領域となる販売管理では、業務に適合するよう、アプリケーションの上にテンプレートやモジュールを組み立てられる仕組みにしつつ、国内外の優れたDXソリューションとの連携も拡充することでERPの付加価値を高める。それらのアプリケーションがERPパッケージのバージョンアップに追随してアップデートされる仕組みをクラウド、SaaSとして提供することで、お客さまのニーズに応えたい」(田中氏)

 今回のイベントでは、このコンセプトに合わせた新製品の「Biz∫Optima🄬」(ビズインテグラル オプティマ)が紹介された。2023年3月に、まずは会計領域から先行してサービスを開始したサブスクリプション型のクラウドサービスだ。ユーザー企業は「Biz∫会計」の利用環境を短期間で立ち上げられる。

NTTデータ・ビズインテグラル 村井次郎氏

 本製品の特徴は、シングルテナント(個社専有型)で提供することだ。同社の村井次郎氏(カスタマーサクセス部 シニアマネージャー)は、「クラウドサービスでありながらデータベースやサーバなどをユーザー企業が専有することで情報漏えいのリスクを減らし、個社要件によるカスタマイズも可能にした」と説明する。

図1:Biz∫Optimaの特徴であるシングルテナント(出典:村井氏の講演資料)

 新製品の提供や機能強化を通じて、2023年度もパートナー企業と共同でBiz∫を推進したい、と村井氏は語った。

ERPのクラウド化ニーズは本当にあるのか?

 本イベントの後半は、ERPのクラウド化に関するパネルディスカッションが開催された。

 パネリストとして、パートナー企業からキーウェアソリューションズの望月貞男氏(IT基盤構築本部 副本部長)、フォーカスシステムズの津嶋隆博氏(デジタルビジネス事業本部 営業企画統括部 統括部長)を招き、NTTデータ・ビズインテグラルの福田貴則氏(セールス&マーケティング部 シニアマネージャー)、アイティメディアの内野宏信(編集局 統括編集長)を加えた4人が登壇した。モデレーターは、NTTデータの池田研人氏(法人C&M事業本部 法人C&M事業部 ビジネスレジリエンス統括部 コンサルティング担当部長)が務めた。

 最初の議論のテーマは「クラウド化のトレンド」について。まず内野から、市場動向の説明とそこから見えてくる論点の提示があった。

アイティメディア 内野宏信

 アイティメディアの読者調査結果によれば、クラウド化には企業、特にIT部門の守りの姿勢が色濃く出ていると内野は説明する。

 「調査でクラウド化の背景を聞くと『コスト削減』が1位で、2位以下もセキュリティや運用プロセスの標準化など“守り”の項目が多い。クラウド移行のきっかけも『ハードウェアの更新時期が来たから』や『システム集約によるコスト削減』など消極的な理由が上位を占めている。IT部門が自分たちの業務を楽にしてくれるツールという狭い視野でクラウドERPを検討していることが懸念される。(品質向上やビジネスのスピードアップなど)より積極的な理由での検討を期待したい」(内野)

図2:クラウド化の背景(出典:内野の講演資料)
キーウェアソリューションズ 望月貞男氏

 この状況を受けて望月氏は、「当社が支援する中堅企業はIT部門の人数が少ないため(コスト削減の手段としての)SaaSへの期待値が高いが、企業が明確な意志を示してSaaSに移行するというケースはあまりない」と話す。

 津嶋氏もこれに同意し、「やはりコストダウンに目が向いてSaaSを検討する企業が多い。当社としては、コスト以外のメリットについても丁寧に説明することが課題だと思っている」と語る。

NTTデータ・ビズインテグラル 福田貴則氏

 福田氏はクライアントの実際の声として、直近のBiz∫への引き合い実績を基に次のように述べた。

 「2023年度のお客さまからの当社への引き合い案件のうち、SaaSを必須の要望とする案件は数件にとどまる。世の中のトレンドとは異なり、実際の当社ターゲット層ではまだまだSaaSへのニーズは少ないが、今後を見据えて、お客さまの選択肢の一つとしていただけるように3月にBiz∫Optimaをリリースした」

 内野はこの状況に対して、「クラウドERPに移行するとなると、(過度なアドオン開発を避けるために)要件の絞り込みが必要になる。そうすると社内を説得しなければいけなくなってIT部門だけでは手に負えなくなる。それが大きな壁なのではないか」と指摘した。

「Fit to Standard」にSIerはどう対応すべきか

 続いて、こうした市場動向や企業の姿勢に、SIerはどのような対応が求められるかについて議論が進められた。

 内野が紹介したアイティメディアの読者調査結果によると、複数のSaaSを利用する企業が増える中で、IT部門では「運用の手間」や「ID・パスワードによる認証の手間」などの課題について「コストをかけてでも解決したい」というニーズが高い。

図3:SaaS運用において「コストをかけてでも解決したいもの」(出典:内野の講演資料)

 アイティメディアが実施した別の調査結果では、IT部門と経営層がシステムの調達において重視する項目として「戦略実現の親和性」が挙がると同時に「人件費」や「外注コスト」「サポート体制の効率」などIT部門が日々直面している課題も垣間見える。

 「データドリブン経営のためのシステムへのニーズが高まる一方で、IT部門は現場の運用に苦しんでいる。SIerには、このギャップを埋める役割が求められているのではないか」(内野)

 では、実際にSIerはどのような取り組みをしているのだろうか。

フォーカスシステムズ 津嶋隆博氏

 津嶋氏は「クラウドERPの導入には経営層のリーダーシップが不可欠だが、それによってIT部門の負担が増える場合がある。SIerは経営の理想と現場の現実の間に入り、利害を調整する役割を担っている」と話す。

 望月氏は「プロジェクトの推進に経営者が深くコミットしているケースは少ない。会計システムの案件では現場の長である財務担当役員が最後までプロジェクトに関わるケースが多いが、経営層の思いがどこまで入っているかは分からない」と言う。

NTTデータ 池田研人氏

 このような状況を踏まえて、池田氏は「SIerは企業のFit to Standardの要望を受け、どう支援していけばいいのか」と質問を投げ掛けた。

 望月氏によれば、キーウェアソリューションズはBiz∫を中堅商社とITサービス業に絞って導入を進めている。中堅商社の多くは特定分野に強みを持っており、その領域に関するシステムはカスタマイズが必要なケースが多い。だがITサービス業は標準機能に業務を合わせることへの抵抗が少ないという。

 「これからのSIerに求められるのは、企業によって異なるニーズをくみ取り、Biz∫と周辺サービスを組み合わせた提案ができる能力だと考えている」(望月氏)

 「海外の大手ERPのように、国際標準に業務を合わせることが前提のシステムを導入すると、現場では標準業務に合わせることが目的になってしまい、仕事がうまく進まなくなることもある。その点で、クラウドでありながらシングルテナントのBiz∫OptimaによってFit to Standard一辺倒でないクラウド化の可能性が見えてきたと思う」(津嶋氏)

 両社のニーズを受け、福田氏はメーカーとして「多様化するユーザーのニーズに対応するため、パッケージとアドオン領域の分離や、外部ソリューションとの連携強化は製品開発コンセプトであり、常に意識している」と述べた。

パートナーによって「勝ち筋」は異なる

 最後に池田氏は、パートナー2社の今後のビジネスの進め方について聞いた。

 望月氏は「Biz∫事業は、売り上げよりも利益を最大化していく事業だと考えている。そのため当社はテンプレートの開発に力を入れている。利益を出すために、リスクを取って積極的に業種ノウハウを蓄積し、それをテンプレートに落としている。新製品にもいち早く対応するため、先行して要件定義を進めている」と語った。

 津嶋氏は「統合基盤にERPと連携機能を載せて共通のユーザーインタフェースで動かすシステムは、SaaS乱立による課題を解決する一手になると考えており、当社はここに注力する。クラウドはパートナーにとっても収益の安定に寄与するので、ニーズを掘り起こしていきたい」とした。

 これを受けて福田氏は、「両社はBiz∫のパートナーという立場は同じだが、ビジネスの強みは全く異なるところが面白い。独自の取り組みを進めるパートナーが存在することで、ユーザー企業の多様なニーズに応えることができると思っているので、当社もメーカーとして幅広く支援できるように努力したい」と語った。

 イベントの最後には2023年のパートナーアワードが発表され、前年度に高い実績を挙げた6社が選出、表彰された。イベントの後には懇親会が開かれ、集まったパートナー各社がBiz∫の情報交換をしつつ親交を深め、盛況のうちに幕を閉じた。

懇親会の様子

 パッケージとクラウドの間で揺れ動くERP市場。ここにBiz∫が国産ERPとしてどう貢献するのか、今後も注目したい。

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提供:株式会社NTTデータ・ビズインテグラル
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2023年9月16日