「賞味期限切れ」のグループウェアをどう刷新するか。「Microsoft 365」は企業でよく使われるツールの一つだが、「『Microsoft 365』への一本化は難しい」という企業も多いだろう。本稿は、Microsoft 365とグループウェアを併用することで、長年抱えてきた「3つの課題」を解決した企業の事例を紹介する。
ITシステムをアップデートし、テレワークなどをはじめとする新たな社内体制に迅速に対応するのは情報システム部門の重大な役割の一つだ。
中でも、コロナ禍でテレワークへの移行が進み、コミュニケーションの要となるグループウェアが果たす役割は大きい。長く使ってきたグループウェアの「賞味期限切れ」を痛感する情報システム部門担当者も多いだろう。
ここで挙がる問題が「グループウェアはどれを選ぶべきか」というものだ。総合防災メーカーのホーチキは、同社が抱えていた“3つの課題”を解決するために、Microsoftが提供するオフィススイート「Microsoft 365」と、サイボウズのグループウェア「Garoon」を組み合わせた。Microsoft 365への一本化ではなく、なぜGaroonが必要だったのか。ホーチキが抱えていた「3つの課題」とその解決策は何だったのか。
1918年に創立したホーチキは、火災報知機をはじめとする防災機材はもちろん、入退室管理システムなどの防犯事業やテレビの受信システムといった情報通信分野も手掛けている。ホーチキの鈴木 智氏(情報システム部IT推進課 課長)は「製品の研究開発から製造、販売までしているのが当社の特徴です。世界129カ国で事業を展開しており、製品は高い評価を受けています」と話す。
ホーチキは基幹系システムに「SAP ERP」を、顧客管理に「SAP Customer Relationship Management」を利用している。2015年にMicrosoft 365を導入し、それまでオンプレミスで運用していた電子メールも「Microsoft Outlook」(以下、Outlook)に移行した。Microsoft 365の中でも特に利用頻度が高いのがコミュニケーションプラットフォームの「Microsoft Teams」(以下、Teams)で、コミュニケーションツールとして活用している。他にもワークフローシステム「AgileWorks」なども利用している。
ホーチキは2020年からDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に組織横断で取り組んでいる。鈴木氏は「顧客サービス向上の他に、ITを使って仕事のやり方を変えるのを目的としています。コロナ禍でテレワークが定着しましたが、出社しなければできない業務もまだ多くあります。テレワーク環境でもそうした業務ができるように、環境整備を進めています」と現状を話す。
鈴木氏が所属するIT推進課は基幹系システム以外のシステムを担当しており、ネットワークやPC、モバイル端末、電子メール、グルーウェアなど、日常的に利用するIT環境全体の運用と管理を担っている。
比較的早い時期からさまざまなITツールを活用してきた同社は、20年以上にわたって一つのグループウェアをオンプレミス環境で更新してきた。ホーチキの佐野貴章氏(情報システム部IT推進課 副参事)は「以前のグループウェアでは、社内ポータルやスケジュール管理、施設予約、ファイル管理などの機能を利用してきました。しかし、次の3つの課題が浮上していました」と話す。
ホーチキではコロナ禍を機にTeamsの利用が浸透したが、全国にある拠点とWeb会議を開催する際などに、システムに二重登録する手間が発生し、登録忘れによるダブルブッキングが頻繁に起きていた。
ホーチキの岡村絵莉氏(情報システム部IT推進課 担当係長)は「Web会議を開催する際は、グループウェアで参加者のスケジュール表に予定を入力し、Teamsにも登録するという二度手間が発生していました。オフラインで会議を開催する際にもスケジュール表への入力だけでなく、施設予約システムで会議室を押さえる必要がありました」と話す。
Teamsだけ登録してグループウェアのスケジュール更新を忘れたり、スケジュールにだけ登録して施設予約システムへの登録を忘れたりした結果、ダブルブッキングが発生していた。
ダブルブッキングの発生はグループウェアで管理する情報の信頼性を損ねることにもつながりかねない。実際に岡村氏は「グループウェアに表示されるスケジュールが正しいかどうか確信が持てなくなり、グループウェアに登録されている情報の信頼性が失われてしまうのも問題でした」と振り返る。
ホーチキは自社のポータルサイトに従業員への通達を掲示している。当初、グループウェアの利用者はホーチキの従業員のみだったため、ポータルサイトに社内情報を載せても問題なかった。しかし、情報共有を円滑に行うためにグループ会社にも利用を拡大したことで、「誰が何の情報を見られるか」を管理する必要性が出てきた。
従来利用していたグループウェアはアクセス権限を細かく設定できなかった。また、アクセス権限の設定変更を一括で行うこともできず、出向や異動などで変更が必要になった際の変更漏れも課題だった。こうした結果、グループ会社との情報共有がやりづらくなっていた。
課題1で触れたグループウェアに表示される情報への信頼性低下に加え、UI(ユーザーインタフェース)の使いにくさも課題だった。設定の柔軟性が低く、「よく使われる機能を色やアイコンで目立たせる」といったカスタマイズができなかったため、ユーザーはポータル画面から必要な情報を見つけにくかった。また、クリックなどの動作後に画面が切り替わるのが遅かったことも、共有された情報を“探す”アクションが取られにくい原因となっていた。検索するより人に聞いた方が早いと感じている人も多くおり、社内には「このお知らせはどこにあったっけ?」といった会話もよく飛び交っていた。
これらの課題を解決するために、ホーチキはグループウェアのリプレースを検討した。運用管理の負担削減を考えて、クラウドサービスであることが条件となり、Microsoft 365への一本化、Garoon、他社のグループウェアの3つが候補に挙がった。
各社が開催するWebセミナーに参加して基本情報を入手し、営業担当者から詳細な情報を得た。SIerからの提案内容も検討した。約半年をかけて比較し、ホーチキが選んだのがGaroonだった。
ホーチキが抱えていた「3つの課題」をGaroonはどのように解消したのだろうか。
会議開催時に二重登録する手間が解消され、少ない工程で作業が完了するようになった。Garoonはクロス・ヘッドが提供する連携製品「CROSSLink 365 Teams連携」によってTeamsとの連携が可能だ。
Web会議のスケジュールを入力する際にTeams連携できる予定メニューを選べば、Teamsの会議を自動で設定できるようになった。オフライン会議を設定する際も、スケジュールの登録画面から会議室を予約できる。
アクセス制御と情報共有といった課題に関しても、Garoonで解決できた。GaroonでCSVファイルを作成すれば一括でアクセス権限の設定が可能だ。大規模な人事異動の際にも変更作業の大幅な負荷削減が期待できる。これらによって社内だけでなく、グループ会社ともスムーズな情報共有が実現した。
鈴木氏は「取扱説明書がなくても、直感的に使えるのがいいですね」とGaroonを評価する。同社は従業員の年齢層が広く、ITスキルにバラつきがあることを考えると、直感的に操作できるUIは重要だ。
岡村氏は「色やアイコンの設定など、カスタマイズしやすく、ユーザーが使いたくなるポータルサイトをHTMLで簡単に作れました」と、柔軟にカスタマイズできる点を評価した。
毎日仕事を開始する際はGaroonを開き、自身に関係する情報が更新されていないかどうかをチェックする習慣が生まれた。グループウェアが利用される頻度が高くなっていることを実感しているという。
検討していたGaroon以外のグループウェアも使い勝手は良かったが、従来のグループウェアからのデータ移行にコストや時間が必要だった。GaroonにはAPIが用意されており、移行の際にベンダーサポートが受けられる。従来のグループウェアに蓄積されていた20年分のデータ移行も、約24時間で完了した。
なお、ホーチキにとって全社で使用頻度の高いMicrosoft 365、特にTeamsとの連携は必須だった。
機能が豊富であるからこその懸念と、業務ツールを一つのシステムに統一するリスクを考慮し、ホーチキはMicrosoft 365への一本化を避けた。Microsoft 365にはホーチキが活用したい機能がそろっているが、機能が多すぎるため、マニュアルを作っても従業員の理解が難しいと判断した。また、システムを一本化すると、障害発生時に業務が完全にストップしてしまうことなども懸念された。
ホーチキはGaroonの本番展開に向けて、1カ月間の検証期間を設けた。これにより、2023年4月中旬のGaroon移行後も使い方に迷うことなくスムーズな活用が実現した。
OutlookとTeamsはこれまで通り利用し、Garoonでは社内ポータルやスケジュール管理、施設予約、リンク集、掲示板、アドレス帳、ファイル管理、ToDo機能などを利用している。社内ポータルには、テンプレートを使って、よく利用する機能のリンクをまとめた「行先案内板」などを追加し、初めて見た人でも社内システムへの入り口が分かりやすいようにした。
課題の一つだった社内ポータルは以前よりも活用が進んでいるという。岡村氏は「以前の社内ポータルには通知機能がなく、自身に関係する情報を見落とすことがありました。今は通知の際にタイトルだけでなく発信者や情報の一部が表示されるので安心です」と話す。
Garoonの導入によって「3つの課題」が解消しただけでなく、思わぬ副産物も得た。
「『Garoonをこう使えばより便利になるのでは』といったアイデアが従業員から出てくるようになりました。ツールを導入すること自体も重要ですが、使いこなしてこそ生産性が上がります。『もっと使いこなそう』というマインドが出てきたことは想定外の効果でした」(鈴木氏)
改めて、Microsoft 365とGaroonを使うメリットはどこにあるのだろうか。鈴木氏は「グループウェアで実現したい機能を、必ずしも一つのツールに載せ替えなければならないわけではありません」と指摘する。Microsoft 365という業務に欠かせないツールを軸に、適材適所で他のツールも使い分け、それらをうまく連携させることが働きやすい環境の実現につながる。ホーチキにとってそれを実現できる柔軟性と連携性を持ち合わせていたのがGaroonだった。
鈴木氏は最後に、グループウェアの刷新を検討している企業に向けて次のメッセージを送った。
「グループウェアは全従業員が使ってこそ効果を発揮します。使いやすいUIのGaroonを導入したことは、幅広い年齢層が働く当社にとって良い選択でした。今後はGaroonの機能をより活用して『Garoonだからこそできること』に取り組み、より便利に使っていきたいと考えています」
ホーチキは今後、Garoonを活用してより良い仕事環境を実現するために、ワーキンググループを作って取り組みを推進する予定だ。
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