従業員のITスキルがまちまちな大企業で社内ポータルをどう管理すべきか。サイボウズが2023年11月8〜9日に開催した「Cybozu Days 2023」のセッション「ポータル管理をもっと楽に!クラウド版 Garoon で実現する情シスのためのおてがる管理術」で紹介されたシダックスの事例を見てみよう。
デジタル化の進展に伴って社内ポータルで情報を共有する企業が増えているが、運用に課題がある例も多い。「タイムリーに更新できず、情報の鮮度が落ちる」「人手が足りず、更新担当者の負担が大きい」といった課題は、「情報が必要な人に届かない」という状況につながりがちだ。
必要としている人に情報を確実に届け、運用者の負担を軽減するために何をすべきか。
従業員約4万人を擁するシダックスは、社内ポータルを活用して、情報システム部門の負担は軽減しつつ必要な情報が必要な人に届く仕組みをつくった。大企業ならではの悩みを抱えていた同社は社内ポータルの管理をどのように「進化」させたのか。具体的に見ていこう。
1959年に創業したシダックスは、フードサービスや車両運行サービス、社会サービスの主要3事業を主体に全国でさまざまなサービスを提供している。フードサービスではオフィスやキャンパス、病院、保育園・幼稚園など約1900カ所で食事を提供し、車両運行サービスでは役員車や公共・コミニュニティバス、スクールバスなど約3900台の車両を運行する。社会サービスでは企業の各種サービスや学童保育・学校の給食、公共施設、観光施設など約380自治体のさまざまなサービスを受託している。
サービス業界でも人材不足が深刻で、IT人材も不足している。これに対応するため、シダックスはDX(デジタルトランスフォーメーション)の全社ゴールとして「人ならではのサービスに割り振る時間創出」を掲げている。同社の桐田 繁氏(情報システム部 インフラ課 グループリーダー)は「情報システム部門は情報発信・情報取得の効率化をテーマに、現場に情報を届け、現場の時間を創出する仕組みづくりを進めています」と話す。
「当社には業務でPCを使わない従業員やIT知識がほとんどない従業員が多くいます。そうした従業員にさらに活躍してもらうためにITで何ができるか。注目したのが、全従業員がいつも見ている社内ポータルでした」(桐田氏)
シダックスはサイボウズのグループウェア「Garoon」を利用して社内ポータルを運用している。同社のサイボウズユーザー歴は長い。2004年に一部の部署で導入を開始し、2010年にはSaaS版 Garoonへの全社移行とともにWebデータベース「デヂエ」(2023年9月末でサービス終了)を導入した。2016年にはクラウド版 Garoonに、デヂエからノーコード業務アプリ開発クラウドサービス「kintone」に移行した。現在は約5500人の従業員がGaroonとkintone(ガルキン)を利用している。
「人ならではのサービスに割り振る時間創出」という目標に向けて、シダックスはガルキンをより積極的に活用して「情報整理」「情報発信」「情報取得」というサイクルで取り組むことにした。
当時の状況について、シダックスの志太悠真氏(情報システム部 インフラ課 テックリード)は「情報を届けたい人に届かないことや拾いたい情報がうまく拾えないことが課題でした。対象者やプライオリティーがバラバラの情報が掲示板に『全社通知』として投稿されていたからです」と振り返る。
従業員全体に「全社通知」としてあらゆる情報が発信されることで、一部では「掲示板離れ」も起きていた。
「フードサービスに携わる部署にとって『サンマの発注が終わります』『クリスマスメニューの配信が始まります』などは重要な情報ですが、車両サービスに携わる従業員にはあまり関係がなく、『安全運行』『法改正』に関わる情報の方が重要です。以前はそれらが全て同じ場所に表示されていたために見落としが多く発生していました。『自分にとって重要な情報が掲載されていない』と感じて掲示板を見なくなる従業員もいました」(志太氏)
この状況を改善するために同社は「情報整理」に取り掛かった。掲示板でカテゴリーを整理し、全従業員に通達する必要のない情報は「購買情報」「車両情報」などに分類して必要な情報を得やすくした。
社内ポータルも再編した。それまで全社ポータルのみを運用していたが、部署ごとに情報を発信する部署ポータルを新しく作った。
「メインポータルの画面でタブをクリックすることで全社共有ポータルや各部署からのお知らせポータルを閲覧できます。全社共有ポータルには『コロナ対策』など全従業員に関係する内容を、各部署からのお知らせポータルには『衛生管理』『栄養士会』『車両』といった各部署に固有の内容が表示されます」(志太氏)
掲示板カテゴリーの見直しや部署ポータルのスタートといった「情報整理」が進むと、投稿が変化した。それまでは数行のテキストに添付ファイルを付けて「詳細は添付した文書で確認してください」と促す投稿が多かったが、「情報整理」の実施後は強調したいテキストに色を付けたり画像を添えたりするなど、内容を分かりやすく伝えようとする投稿が増えた。
「『情報整理』することで、情報を積極的に分かりやすく発信する風土が生まれたと考えています」(志太氏)
「情報整理」「情報発信」を実施したシダックスは、「情報取得」に進むことになった。社内情報を取得する取り組みではkintoneも活用した。
「フードサービスでは衛生点検表の作成が重要です。全国の数千カ所に及ぶ施設を衛生点検した結果を担当者がチェック項目ごとに入力します。チェック項目は383フィールドに及びます。これまでは紙の点検表に記入してFAXで本社に送信し、本社はデータを『Microsoft Excel』に手入力して集計していました」(志太氏)
kintoneを使って衛生点検表をアプリ化したことで点検担当者はスマートフォンで入力できるようになり、手作業による集計が不要になった。
紙からアプリに置き換えることに現場からの抵抗はなかったのだろうか。「皆にkintoneに慣れてもらうところから始めました。使っていくうちに『次はこんなことができそうだ』という意見が事業部門から出るようになり、『やってみよう』という意識がチームから会社全体に少しずつ広がっていきました」(桐田氏)
kintoneを使ったアプリの導入は段階的に実施された。まず全社で利用する「全社健康診断」、次に事業部全体で利用する「衛生点検表」、さらに部署ごとに利用する「店舗予実管理」「アカウント管理」などのアプリ作成と導入を進めた。
こうして「情報整理」「情報発信」「情報取得」のサイクルを実施したシダックスは、Garoonとkintoneを次のように使い分けている。
ところが、情報取得を進めるうちに新たな課題が浮上した。kintoneでアプリがたくさん作られたことで、使うべきアプリにたどり着けない「アプリ迷子」が続出したのだ。
kintoneの利用拡大に伴うこの課題は、皆が毎日利用するGaroonを活用することで解決した。「テンプレート」機能を利用して、社内ポータルを柔軟かつ簡単にカスタマイズできるのがGaroonの特徴だ。シダックスは、「行先案内板テンプレート」機能を使ってkintoneアプリのリンクをまとめたポータルをGaroonに作成した。
こうして情報を得やすい社内ポータルを実現したシダックスは、続いて運用の効率化に取り組むことにした。
Garoonは、ポータルに配置する小さなコンテンツ「ポートレット」ごとにアクセス権や運用管理権限を設定できる。「この機能を利用して、部署ポータルなどの運用管理を現場に移譲しましたが、HTMLなどの知識が必要でした。そこでkintoneと連携したCMS(Contents Management System)の仕組みを構築し、ユーザーがkintoneに登録するだけでポータルが設定されるようにし、簡単、そしてスムーズにポータルを管理できるようにしました」(志太氏)
シダックスの取り組みについて、サイボウズの久保好治氏(ソリューションエンジニアリング部)はこう評価する。「ポータル運用やアプリ開発ツールの事業部門での活用が進むと、運用管理やガバナンスの在り方が課題になります。シダックスは情報を発信するためのポートレットの作成や運用管理の権限を現場に移譲し、情報システム部門はGaroon全体の運用管理を行っています。情報システム部門は何をして、どの部署に何をどのレベルまで任せるか。それぞれの役割や権限をきちんと決め、情報システム部門がガバナンスをしっかりと効かせることが重要です」
シダックスはさらなるユーザーの利便性向上と運用負担軽減のために「FAQポータル」を作成した。Garoonのポータルから情報システムに関するよくある質問を簡単に検索できる仕組みをGaroonとkintoneの組み合わせで構築したのだ。従業員がGaroonのポータルに質問を打ち込めば、動的に回答が表示される。検索ログを分析して継続的に改善している。キーワードの揺らぎに対応したあいまい検索も可能だ。
「電子メールを社有携帯に転送したい」「PC修理の申請方法が知りたい」などの疑問を従業員自身が調べられるようになり、従業員の利便性が向上しつつ、情報システム部門の問い合わせ負荷も軽減された。
シダックスはFAQアプリとは別にAI(人工知能)チャットbotの開発も進めている。Garoonのポータルでチャットbotを表示し、Garoonやkintoneに蓄積された情報を基に、AIが回答を返してくれる。例えば、ユーザーが「AIに関するセミナーの開催情報を教えて」と入力すると、AIがGaroonの掲示板を検索して回答を提示する。続けて「スケジュールに登録して」と指示すれば、Garoonのスケジュールに登録させることもできる。
Garoonやkintoneの各アプリで設定した既存のアクセス権が反映されるため、各ユーザーが閲覧可能な範囲で回答を返すところも便利なポイントだ。もちろん生成AIなので「AIについて教えて」などの一般的な質問にも回答が返ってくる。「これからはAIと協力して一緒に仕事ができるようになると期待しています」(志太氏)
シダックスは今後、社内ポータルをどのように活用していくのか。「IT知識のない従業員に『難しいけど覚えてください』と言うのではなく、『誰でも使いやすく』を目指しています。従業員にはITスキルではなく、調理や運転の技術を磨き、“本業”に専念してもらいたい。そのためのシステムを提供していきます」(桐田氏)
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2023年12月26日