モダナイズの問題「中身が見えない」システム プロが考える「生成AI」も使った新たなアプローチ仕様書がなく有識者もいない残されたレガシーシステムをどうするか?

経済産業省は2025年以降、既存ITシステムが残存することによる経済損失が最大で年間12兆円に達する可能性を指摘した。これが「2025年の崖」だ。だが、企業にはシステム刷新を進められない3つの事情がある。どうすればレガシーシステムの刷新を実現できるのだろうか。

» 2024年01月30日 10時00分 公開
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 デジタルトランスフォーメーション(DX)が求められる中、時代にそぐわないレガシーシステムをモダナイズし、環境変化への対応力を高めたいと考える企業が目立つ。だが、その過程には企業を悩ませる多くの課題がある。まず何から着手すべきで、失敗に終わらせないためにはどうしたらいいのか。

現行システムが「見えない」 具体的な解決手段も分からない

 「2025年の崖」問題ともいわれているように、複雑化、ブラックボックス化したレガシーシステムを使い続けることでシステムトラブルなどのリスクを抱えることになる。2025年が迫る現在、レガシーシステムのマイグレーションやモダナイゼーションへの取り組みは急務だ。

 しかし、企業にはシステムを刷新できない事情がある。日立製作所の秋庭真一氏(アプリケーションサービス事業部 共通技術統括本部 本部長)は、レガシーシステムの課題についてこう語る。

 「レガシーシステムに関する課題は3つに分けられます。1つ目はハードウェアやミドルウェアを提供するITベンダーが次々と製品の提供を終了していること。2つ目は技術トレンドが移り変わる中で最新技術に対応できなくなっていること。3つ目は、団塊世代のベテランエンジニアが一斉に退職したことでIT人材が不足し、長年の運用でブラックボックス化したレガシーシステムを読み解けなくなっていることです」

 これらの課題に直面する企業は現行システムの在り方を見直そうとしているが、具体的な戦略や方向性を決められないケースも多いという。その原因は「現状と課題が見えない」ことにある。

 「長く稼働してきたシステムは局所的な改修を重ねてきた結果、その全体像が誰にも把握できなくなっています。システムを新しい環境にマイグレーションした場合、どこにどのような影響が生じるのか判断がつきにくいのです。こうした不安要素がマイグレーションを遅らせる原因になっています」(秋庭氏)

日立製作所の秋庭真一氏

 理想像は描けても、具体的な実現手段や実現可能性が不明瞭なケースもある。どのような選択肢があるのかが分からないため、コストとメリットを明らかにできない。その結果、計画の策定や予算取りが困難になる。

 レガシーシステムのマイグレーションと同時に考えるべきなのが、柔軟性や拡張性の高いアーキテクチャーを活用するなどして時代に適合したシステムのモダナイズを実現することだ。モダナイズの段階で生じる課題を、日立製作所の木村 誠氏(アプリケーションサービス事業部 共通技術統括本部 APモダナイゼーション推進部 主任技師)は次のように説明する。

 「モダナイゼーションに関する相談を年間100件ほど受けていますが、お客さまのお悩みは3つに分かれます。1つ目は、マイクロサービス化などの大まかな方針は決まっているものの、具体的にどうすればいいのか、『How』が分からないというもの。2つ目は、中長期的なIT計画はあるものの、すでに現状にそぐわなくなっているためトレンドに合わせて見直したいという悩みです。最後に最も多いのは、システムがブラックボックス化してそれを読み解ける人材もいない、ハードウェアやミドルウェアの保守切れに迫られていて、そもそも何から手を付けたらいいのかが分からないケースです」

日立製作所の木村 誠氏

 スタートの時点でつまずいている場合、レガシーシステムのモダナイズにはどのような点に注意すればいいのか。秋庭氏は「現行システムの可視化が最も重要」だと強調する。

 「スクラッチで開発された現行システムには、他社との差別化につながる自社のノウハウが詰まっています。そのシステムがどう作られているのかをまず見える化する必要があります。その後、メインフレームからオープンシステムへ、そしてクラウドネイティブへと段階的にモダナイゼーションするロードマップを作り、具体的な施策に落とし込むことがスムーズな進め方と言えます」(秋庭氏)

 現行システムの把握というと、重要ではない作業のように思えるかもしれない。だが、これまで培ってきた強みを生かして新システムに段階的にモダナイゼーションするにはこの過程が欠かせない。現行システムを分析して特性を把握し、実態に即した計画を立てることがプロジェクトの成功を左右する重要なポイントになる。

顧客と日立の知識を持ち寄って、一体となってプロジェクトを進める

 こうしたマイグレーション、モダナイゼーションの課題に、日立製作所は現行システムの分析評価から計画支援、その後のシステム構築・運用までワンストップでサポートする。マイグレーション、モダナイゼーションにおいて最も重要なポイントとなる現行システムの可視化も得意とするところだと自負する。

 「当社にはさまざまな業種業態の数百に及ぶ案件を手掛けてきた経験があります。新しい技術やサービスを組み合わせて、最も効率的にゴールへと導く方法を把握しています。ですが、業務知識を一番有しているのは、やはりお客さまです。そこで、当社が主体的に推進すべき部分とお客さまにお任せした方がうまくいく部分を分解し、お客さまと当社が一体となったプロジェクトの推進を提案しています」(秋庭氏)

 日立製作所が一方的にリードするわけでもなく、顧客企業に計画と方法論だけを示して実際の作業を任せるわけでもない。顧客の業務知識と日立製作所の専門知識を掛け合わせ、ゴールに向かって「伴走」してプロジェクトを進めることが同社の特徴と言える。

現行資産分析など人手と時間のかかる作業を生成AIで効率化

 マイグレーションの作業では、生成AIを活用した取り組みも進めている。

 「当社は多様な局面で生成AI(人工知能)を活用するためにGenerative AIセンターを設立し、日立グループ全体で数百件のユースケースにおいて生成AIの活用を検証しているところです。システムマイグレーションやモダナイゼーションにおいても、付加価値向上のために生成AIの適用を進めています。これまでも作業の自動化に取り組んできましたが、自動化できていなかった部分を生成AIで補完するのが最も良い活用方法だと考えています」(秋庭氏)

 マイグレーションの分野においては、「現行資産分析」「リライト」「現新比較テスト」の3つのフェーズで生成AI活用を進める。

 現行資産分析では、仕様書がなくブラックボックス化したシステムを生成AIで解析する。「これまでもソースコードから仕様書を生成するサービスはあったものの、ソースコードの処理をドキュメント化するレベルでした。ここに生成AIを活用することで、何の目的の処理なのかといった抽象化した業務レベルでの仕様書を作成することができると考えています。ただし、単に生成AIを活用すればできるというわけではありません。日立がこれまで何百件も行ってきたプロジェクトの経験を踏まえたプロンプトを入れることで、ブラックボックス化したシステムの中身を可読性が高いドキュメントに落とし込めるのです」(秋庭氏)

 COBOLなどの古いプログラミング言語を別のプログラミング言語に置き換えるリライトのフェーズでは、生成AIを使ってコードを作らせる。これまではルールベースで自動変換し、その後人間が手作業で修正、改修していたが、これを生成AIの支援を受けることで品質と効率の向上、コスト低減が期待できる。

 現新比較テストは非常に工数のかかる作業だ。コンペアツールを作ってテストを実施するなどの方法があるが、このフェーズでも生成AIを使うことで特別なツールを用意することなくテストを効率的に実施できる。

 「これまでのマイグレーションプロジェクトの中で、現新比較テストについても当社が主体となる部分とお客さまにお願いする部分を切り分けて進めてきました。ですが、ツールを提供してテストを実施してもらうだけではうまくいかないこともありました。生成AIを活用することによってテストフェーズでのお客さまの負荷が下がり、当社ができる部分も増えるのです」(木村氏)

 COBOLをJavaに単純変換した“JaBOL”からの脱却にも生成AIの活用が期待できるという。

 「JaBOLはJavaのメリットを生かせず、運用保守には適していません。生成AIで現行システムを分析して日本語仕様書を復元することで仕様のブラックボックスを排除し、保守性を向上させられます。仕様書ができれば、そこからどんな言語にでも変換できます。当社のこれまでのノウハウを生成AIに読み込ませることでコードの自動生成率も向上し、ネイティブなJavaコードの生成も可能になります」(秋庭氏)

 マイグレーションだけでなく、その後の運用保守を考えた上で生成AIの適用を進めているということだ。そしてそこには、日立製作所がこれまで培ってきたナレッジが生かされている。

開発者を補佐するツールとして生成AIを活用(提供:日立製作所)

マイグレーションの先にあるゴールに向けて

 金融や産業、流通など、さまざまな業種業態のシステムマイグレーションやモダナイゼーションに取り組んできた日立製作所の強みはどこにあるのかと問うと、秋庭氏は次のように答えた。

 「当社にはそれぞれの分野に長(た)けた有識者やプロジェクトを完遂するためのシステムエンジニア、プロジェクトマネジャー、アプリケーション開発者を多く抱えています。研究所では生成AIなどの新しい技術を常にキャッチアップしています。これまでのノウハウを蓄積、活用するための『Lumada Solution Hub』という仕組みも整備しています。お客さまに最適なアセットを組み合わせ、サービスとして提供できる点が当社の強みと言えるでしょう」(秋庭氏)

 日立製作所は顧客の主な課題を10のテーマに分類して独自のアーキテクチャーパターンでテーマごとに最適な解決アプローチをひな型化することで、スピーディーに顧客企業の課題解決を支援してきた。多種多様な企業をサポートしてきた経験があるからこそ、幅広い課題に速やかに正しい解決策を提供できる。

 「テクノロジーの変化が激しい中、自社の将来像をどう描き、どんなアーキテクチャーを加えていくか。それによってシステムにどう影響が出るのかを的確に把握するには業務への深い理解が欠かせません。金融や公共、社会、産業・流通などの各業種に特化した業務知識を持つ部隊を当社は有しています。中には1つのプロジェクトに10年以上も関わり、お客さまのシステムや業務を深く理解しているメンバーもいます。これからも、当社のITに関する知識を駆使してお客さまに寄り添いながらサポートを提供する考えです」(木村氏)

 2025年の崖を乗り越えるには、まずは既存システムの理解から始める必要がある。それには、ベンダー側にも業務領域の専門知識が求められる。知見や知識だけでなく、業界ノウハウを兼ね備えた人材によるサポートがマイグレーション、モダナイゼーションを実現する鍵を握っていると言える。

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提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2024年2月17日