業務を支えるITシステムは企業文化と密接に結び付いている。組織体制が変化すれば、ITシステムもそれに呼応した変化を求められる。保険業界における巨大グループ企業の再編を幾度も乗り越えてきた女性リーダーにその体験を聞いた。
三井住友海上保険とあいおいニッセイ同和損害保険を中心に、5つの国内保険会社と8社の関連事業会社で構成されているMS&ADインシュアランス グループ。再編や統合によって2010年に誕生した同グループをシステム面から支えているのがMS&ADシステムズだ。
MS&ADシステムズは現在、三井住友海上保険、あいおいニッセイ同和損害保険、三井住友海上あいおい生命保険、三井住友海上プライマリー生命保険の業務を受託している。事業内容は損害保険と生命保険の契約管理システムや事故受け付け・保険金支払いシステム、代理店支援システム、営業支援システムなどの企画や設計、開発、運用だ。中でも契約管理などの基幹業務を中心としたホストシステムの基盤はキンドリルジャパン(以下、キンドリル)をアウトソーシングパートナーとして一体的に運用する体制を構築している。
このMS&ADシステムズの基盤運用本部を2年ほど前からリードするのが西川佳織氏(執行役員 基盤運用本部長)だ。基盤運用本部の運用は、同社の約150人とキンドリルの約300人のスタッフが担う。西川氏は、日本最大級の損害保険会社グループ全体のシステム基盤部門のトップとして、従業員やベンダーとともにキャリアを積み、女性ならではの人生のターニングポイントも乗り越えてきた。
「インフラ運用にはトラブルがつきものですので、大変だというイメージを持たれている方が多いかもしれません。ですが、さまざまなトラブルを想定して仕組みや手順を導入することでその影響を抑えることは可能です。IT環境の変化に応じてインフラ運用を進化させるために常に最新の技術に触れることができ、キャリアアップのチャンスが豊富です」(西川氏。以下、特に断りのない会話文は西川氏の発言)
金融・保険業界は幾度となく再編されてきた。ミスが許されない重要システムを多く抱える業界で、各社のIT部門は再編のたびに対応の前線に立ってきた。西川氏もそうした中でキャリアを築いてきた一人だ。
西川氏は新卒で同和火災(当時)に入社した。同和火災は2001年にニッセイ損害保険と、2010年にはあいおい損害保険と統合した。さらに2010年に三井住友海上との統合によって持ち株会社化し、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングスとなった。西川氏は2001〜2010年に全社的なシステム統合を3回経験し、IT部門のたたき上げとして事業環境の変化とシステム対応の苦労を味わってきた。
「新卒での入社後、一貫してIT部門に携わってきました。最初に担当したプロジェクトはIBM AIX(RS/6000 SP)による料率分析システムの構築です。大学では半導体の製造などを学びましたがプログラミング経験はなく、最初の仕事ではベンダーのエンジニアの作業を後ろから見守っていました(笑)」
当時、西川氏が担当するシステムの経験者は社内に多くなく、自力で知識を獲得する必要があった。それをサポートしたのが、システム構築・運用を担当したキンドリル(当時はIBM)のエンジニアだった。
「皆さんが教えてくれたことがシステムに関する知識のベースになっています。構築後の維持・保守は自社で運用する体制でしたから、日々分からないことをノートに書きため、質問攻めにしていました」
西川氏は、オープン系サーバの設計や導入、プログラミングから基盤運用まで幅広い領域で実績を積んでいった。
2001年の統合でニッセイ同和損害保険が誕生した後に、システム運用の外部移管も経験した。
「ニッセイ損害保険のシステム運用のアウトソーシングパートナーに合わせ、統合後は同和火災のシステム運用も現在のキンドリルにアウトソースすることが決まりました。私は統合を見据えた運用アウトソーシングプロジェクトを担当することになりました」
当時、同和火災には担当者しか把握していないシステムの運用プロセスが多数存在し、「属人化が進行している状況」(西川氏)だった。アウトソーシングを進める際は「移管によって自分の仕事がなくなるのでは」と心配する声も多かったという。しかし、「実際に運用をアウトソーシングした結果、良いことばかりでした」と西川氏は振り返る。
アウトソースに当たっては、属人化した業務を整理して引き継げる状態を作らなければならない。全体を見渡しつつ、明文化されていない業務を整理するのは簡単ではない。ここでシステム運用の標準化や手順書整理を得意とするキンドリルのシステム運用チームのノウハウが生きた。
「キンドリル(当時はIBM)には業務やシステムのアセスメントを通じた業務の可視化に取り組んでいただきました。業務を分解して組み立て直すことで、各担当者が何をしているのかをチーム全体で共有できるようになりました。役割が明確になると、効率化や標準化といった提案の声が上がるようになったのです」
運用業務の移管は2002年に実施された。拠点に分散していた各種サーバをIBMのデータセンターに集約して共有したことで、日々の運用状況を迅速に把握できるようになった。西川氏は、アウトソーシングプロジェクトのメドが立った段階で産休・育休に入った。復帰したときは驚いたという。
「それまで我流で進められていた業務がベストプラクティスに沿って整備され、属人化が解消されていました。われわれが工夫して運用してきたことも反映されていて、期待以上に『きちんと運用されている』と感動しました」
2010年にあいおいニッセイ同和損害保険が誕生した際には、ファイルサーバやメールサーバ、コンタクトセンター領域の3つのシステム統合プロジェクトを担当した。
「ファイルサーバはデータ移行し、メールサーバは2社がそれぞれ使っていたIBM Lotus Notes/Domino(現HCL Notes/Domino)を統合しました。合併は決まっていたので、システム部門としては『やるしかない』という状況でした」
このとき、システム統合で大きな課題になったのは文化の違いをどう乗り越えるかだった。
西川氏が所属するニッセイ同和損害保険よりも規模が大きいあいおい損害保険にシステムを統合し、運用を合わせることは合理的な選択だった。そこで、一からあいおい損害保険のシステム構成と運用を学ぶ日々が始まる。
「システム部門の拠点が兵庫県西宮市と東京都に分かれたので、週一で出張して打ち合わせをしました。受け入れ側よりも合わせる側の方が変更箇所は多くなります。調整しながら必要に応じてプロセスを変更する作業は想像以上に大変でした」
システムはリードする部門によって統制の状況が変わる。「それは企業の“色”であり、どちらがいいというわけではありません。当初はなぜこの仕組みなのかと疑問に感じることもありましたが、話を聞くとそれぞれに意図や理由があり、学ぶことも多くありました。企業文化の違いを乗り越えるためには、相手の立場から考えて落としどころを見つけ、調整を続けることが重要です」
こうして、2010年10月に統合が完了した。しかし、統合の作業完了直後から三井住友海上火災保険とのシステム統合検討がスタートした。
三井住友海上火災保険とのシステム統合に当たっては、基本は共同利用システム「ユニティ」を構築し、両社が利用する方針が採られた。この共同利用システム「ユニティ」は2013年10月に稼働を開始した。西川氏はユニティのカギになる認証システム統合に取り組んだ。
「基本は三井住友海上火災保険の認証システムに合わせるのですが、あいおいニッセイ同和損害保険の利用者はユニティシステムと個社システムの両方を利用する必要がありました。そこで認証システムを活用し、AD(あいおいニッセイ同和損害保険)利用者からも大きな操作変更なく両方のシステムを利用できる方法を模索しました。『どうすれば両社のシステムの良いところを生かし、両社の利用者から使いやすくできるか』を軸に据えて、関係者全体が納得できる着地点を見つけることが重要でした」
キンドリルは一貫して、MS&ADインシュアランス グループの取り組みを支援してきた。複数の統合や合併に当たっては他ベンダーと協業するシーンもある中で、パートナーとして知識やノウハウを共有し、システムを一体的に運用できる体制を整備してきたという。西川氏はキンドリルをこう評価する。
「統合に伴う交渉や調整の場では担当の方の支援が心強かったですね。要件を実現するための技術的な支援や資料作成などもサポートしてもらい、プロジェクトをスムーズに進められました。システム切り替え作業では遅くても2週間前には手順書が固まり、その内容を標準プロセスに沿ってレビューした上で実行するというルールが守られており、統制が利いています。システム統合という短期間で確実に対応しなければならない状況において、安心して切り替え作業を実施できました」
キンドリルの鈴木隆教氏(保険事業本部 第二事業部 Delivery Partner)は、運用センターのサービス内容についてこう話す。
「契約書の下に提供サービスを詳細に記載した管理標準書があり、管理標準書の業務フローに従って1000を超える手順書を作成することで、属人化を排除し、高度に標準化された運用を提供しています。今後はシステム資源の効率的な利用と、AIや運用データ、キンドリルの専門知識をシームレスに統合したIT運用プラットフォーム『Kyndryl Bridge』の活用によるシステムの可視化、運用の自動化や効率化を推進したいと考えています」(鈴木氏)
20年以上のサービス提供を経て強固となったMS&ADシステムズとキンドリルのパートナーシップをベースに、今後、キンドリルはMS&ADインシュランス グループのIT全般の最適化を推進するパートナーとして、メインフレームモダナイゼーションの実現を推進していく。
「キンドリルは業界・製品知識やノウハウに加え、ベンダー中立の立場でさまざまな提案をしてくれることが魅力です。今後は運用を起点としたビジネスへの貢献やセキュリティ監視、クラウドへの移行などのシステム部門としての仕事はもちろん、最新技術を長期的な視点でどう評価するか、会社が将来どうあるべきかなどについても一緒に取り組んでいきたいと思っています」
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提供:キンドリルジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2024年6月23日