生成AIを「個人の便利ツール」で終わらせない 日立はどうやって全社的な活用につなげたのか1000のユースケース、挑戦と失敗

生成AIを業務に利用する動きが進んでいる。翻訳作業や文章作成、スライド作成などに取り入れる例も増えてきたが、属人的かつ個人に閉じた業務など「個人の便利ツール」としての利用にとどまっていることが多い。生成AIを「個の活用」から「組織の活用」に転換するにはどうすればいいのか――1000を超えるユースケースに生成AIを適用し、数多くの失敗を乗り越えてきた日立にそのヒントを聞いた。

» 2024年08月08日 10時00分 公開
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「青写真が描けず投資対効果も分からない」 生成AI活用を阻むハードル

 人手不足の影響を受け、多くの企業で従業員の負荷が増している。同時に「環境変化への対応力」「スピード」を身に付けることで、持続的にビジネスを成長させることが求められている。これらの解決手段として、多くの企業の関心を集めているのが生成AIだ。

photo 滝川絵里氏(日立 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット 生成AIアプリケーション&共通基盤室(日本) PJ推進部 担当部長)

 だが、これを組織的に活用するためには複数のハードルがある。事実、多くの企業が個人業務の効率化などにとどまり、プロセス変革に踏み込む、いわゆるデジタライゼーション以降のロードマップは描けていない。顧客企業から寄せられる生成AI活用の課題について、日立製作所(以下、日立)の滝川絵里氏はこう話す。

 「当社のお客さまも利用に意欲的ですが、生成AI特有の課題に直面しているとよく耳にします。例えば、ハルシネーション(もっともらしい誤答)への対応や、既存システムに生成AIをどう組み込むべきかというお悩み、社内で活用推進していくための環境や仕組みの整備などが挙げられます」

 一番の課題は「業務プロセスに生成AIをどう組み込むべきか」だという。日立自身もこうした生成AI利用以前の悩みや課題に直面してきた。では、日立は全社的な利用を進めるためにどのような策を講じたのか。自社内での活用や顧客支援の取り組みから、そのヒントを探る。

1000を超えるユースケースに生成AIを適用

 日立には、社会と産業の変革に関わる「デジタル」「グリーン」「コネクティブ」という3つの社会的、経済的なトレンドを踏まえた「デジタルシステム&サービス(DSS)」「グリーンエナジー&モビリティ(GEM)」「コネクティブインダストリーズ(CI)」という事業領域がある。

 同社では、DSSを中心としたIT領域、GEMやCIを中心としたOTとプロダクト領域で、さまざまなユースケースに生成AIを適用することから始めたという。その件数は1000を超える。全社で共通認識を持って生成AIの活用に取り組むことができたのは、2023年5月に設立したGenerative AIセンターの存在が大きい。滝川氏は「業務、ビジネスに生成AIを取り入れて組織で活用するのだという現場の強い意志と、経営層の素早い投資判断がありました」と振り返る。

領域ごとに適した生成AI活用への挑戦

 では、それぞれの領域でどのように生成AI活用を進めてきたのか。

 ITの領域では、設定した仮説を基に施策を実行し、効果が見込めそうな適用領域を検証する作業を繰り返してきたという。その結果、システム開発における「ソースコード生成」「設計書の作成支援」などに有効なことが分かった。

photo 野村英二氏(日立 インダストリアルデジタルビジネスユニット トータルシームレスソリューション統括本部 生成AI推進センタ チーフDXマネージャ)

 産業・ものづくり系の現場では、コールセンターでのアフターサービス対応や設備保守業務に利用するためのマニュアルなどの社内ドキュメントを大量に有している。野村英二氏は「こうした社内データを生かして新しい価値を生み出せないかと考え、社内データの検索・要約に生成AIを利用してコールセンターの対応スピードや保守業務におけるトラブル対応力の向上にチャレンジしています」と話す。

 一方、パワーグリッドや鉄道、原子力といった事業では、グローバルで大型インフラを扱う。戦略企画室の齋藤有香氏は、「ビジネスユニットにより事業領域が大きく異なったことで、現場ごとにさまざまな課題が出てきました。そのため、各ビジネスユニットがやりたいこと、投資対効果が期待できるものを現場のメンバーが検討し、そこに投資することから始めました」と話す。ユースケースとしては、産業・ものづくり系の現場と同様にコールセンターでの利用や、地域ごとに異なる法規制対応といった社内のドキュメント管理などがある。

現場の理解、ルール整備――噴出する課題にどう対応したか

 だが、課題が噴出する場面もあった。例えば、齋藤氏は「生成AIのプロジェクトでは、日立グループの一員であるGlobalLogicの力を借りて、アジャイル的に取り組んでもらっています」と話すが、大型のプロダクトを扱ってきた現場はウオーターフォール型の開発が主流だったため、アジャイル型のアプローチに苦戦するケースも多かったという。

photo 齋藤有香氏(日立 グリーンエナジー&モビリティ戦略企画本部 戦略企画室 部長代理)

 「まずディスカバリーフェーズで徹底的に現場プロセスを理解し、どこに適用するとどういう効果が生まれるかを整理しました。それには毎日、数時間のヒアリングが2〜3週間続きます。こんなに議論に時間をかけるものだと思わなかった現場は、時間工面や投げかけられる質問への回答に苦労していました。

 ただ結果的に、『このプロセスは非常に重要だった』と現場は実感しています。生成AIは解決手段の一つであり、どの業務プロセスに適用するとその効果を発揮するのかを検討する必要があります。また、業務プロセスは流れになっており『ABCDE』といったように首尾一貫しています。生成AIを組み込むことで、前後のプロセスにも影響が生じるのです。既存プロセスを残しながら生成AIをどのように部分最適で取り入れるか、または生成AIに合わせてプロセス全体を変えるかという判断も求められました」(齋藤氏)

 CI領域では、生成AIのルールやガイドラインの整備が課題になった。

 「データは部門の外に出せない、扱う情報の機密度に違いがあるなど、事業ごとに異なる意見が出ました。その各意見を考慮し、ルールやガイドラインを整備する必要があったのです。現在は生成AIが利用するサーバも、クラウドを使うもの、スタンドアロンで使うものなど各事業の事情やデータガバナンスに合わせて複数の選択肢を用意し、安全に利用できる環境の整備を進めているところです」(野村氏)

 組織で生成AIを活用していくには、生成AIに対する現場の信頼感を醸成することも重要だ。特に偽情報が目立つと現場は生成AIを信頼しなくなる。これに対して、「実現したいビジョンや投資対効果を伝えて不安を払拭(ふっしょく)する」など、常に現場に寄り添った対応が求められたという。

ノウハウを顧客や社会へ 日立ならではの支援力

 このように生成AI活用には、技術以外の問題も含めたさまざまなハードルがある。だが日立は全社で取り組みを進める中で、各事業領域間で知見を共有し合いこうした課題も乗り越え、社内活用を着実に推進してきている。特に重要なのは、この取り組みを推進する組織「Generative AIセンター」が、いわばCoE(Center of Excellence)の役割を果たすことで「個人の効率化」だけではなく「組織の効率化」、さらに社内実践で得た知見やノウハウを生かした「顧客の支援」というゴール像まで全社員に提示し続けてきたことだろう。

 「グループ会社も含む日立全体に生成AIの共通基盤を提供し、生成AI活用のスピードアップと活用実績の共有を進めてきました。こうした一連の取り組みで最終的にめざすのは、時間をかけて積み重ねてきた生成AI活用におけるナレッジや成果を、多くの企業、ひいては社会に還元することです。さまざまな粒度や角度からアプローチすることで、組織全体の業務効率化やお客さまへの提供価値の向上を図っています」(滝川氏)

 特に、日立はこれまでさまざまな業種の顧客に製品・サービスを提供してきた。そして現在、グループ会社を含めて多様な場面で生成AIの活用を検討し、課題解決を目的に事例を積み重ね始めている。社内で検証した経験や実績を基に、必ず顧客にも貢献できると考えている。

 生成AI活用の第一歩としては、前述したGlobalLogicや、2024年7月に発表した「生成AI活用プロフェッショナルサービス powered by Lumada」の支援アプローチを推奨したいという。具体的には「適用業務のプロセスを可視化し、どこに生成AIを適用すれば効果が出るかを第三者視点で整理する」というものだ。

 「既存の業務プロセスは現場にとって“当たり前”なので、案外、異なるアイデアは見つけにくいものです。そこを第三者視点で評価するため、業務プロセスを構成する各プロセスの要不要、改善点などが見つかりやすいのです。整理した業務プロセスをシステム開発にシームレスにつなげられることもメリットです」(齋藤氏)

 一方、適用領域が見つかっても、実際に生成AIを活用した環境を構築するフェーズでは、ルール作りやハルシネーションへの対応などがポイントになる。

 「例えば、プロンプトを入力して生成AIにアプリケーションのソースコードを作ってもらうのは比較的簡単ですが、開発基準に満たないコードが使われている例も多く、『継続的に保守していく』には適さないケースもあります。その修正箇所を確認し、手作業で行うのは時間も労力もかかってしまいます」(滝川氏)

 そこで日立は、エンジニアがプロンプトではなく前提条件を入力することで、裏側でルールに基づくコードを生成してプロンプトに置き換え、生成AIに指示する仕組みとした。属人性解消は生成AIの効用の1つだが、それを引き出せる地に足の着いた活用の知見、ノウハウを持っている点こそ、自ら実践してきた日立の強みといえるだろう。

 一方で、他社支援に当たる際には「生成AIにこだわらない」選択も視野に入れている。「プロセスを再整備するだけで効果が出るのなら、それを優先するという発想も必要です」(齋藤氏)

 このような生成AIを視野に入れたデータの利活用には、企業の持つデータのポテンシャルを引き出すITインフラの整備も重要だ。日立は、生成AIのコンサルティングから実装、加えて既存業務を支えるオンプレミスと素早く価値を創出するクラウドとのハイブリッドなITインフラの構築・運用などを支援していく。生成AIとデータ連携のテクノロジーを組み合わせることで、新たなビジネス機会や価値を創出し、幅広い企業の持続的な成長に貢献する考えだ。

 滝川氏は最後に「日立は、お客さまの業務に一歩踏み込んで生成AIの業務活用を支援していく」と話す。画一的な技術(ツール)やアドバイス提供を受けるだけでは壁を乗り越えることは難しい。生成AIを業務プロセスに組み込み、活用する上で欠かせないのは「現場目線」と「業務理解」だ。多数の顧客企業に一歩も二歩も踏み込んでDXを支援し、生成AI活用においては自ら多くの失敗も経験してきた日立は、生成AI活用の強力なパートナーになるはずだ。

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提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2024年8月28日