ITインフラの在り方が大きく変わるAI時代、HPEは幅広いポートフォリオを生かして企業支援に取り組んでいる。ハイブリッド/マルチクラウド環境を透過的に使えるインフラ構築と、ユーザーの多様なニーズに対応するソリューションを増やす同社の戦略と価値とは。
AI時代に入り、ITインフラに求められる要件が変わりつつある。今後、生成AIが本格的に業務に組み込まれるようになると、ITインフラの在り方はさらに大きく変貌する可能性がある。ユーザー企業やパートナー企業はITインフラにどのように臨めばいいのか。
ハードウェアからソフトウェア、サービスまで、ITインフラ向けの製品ポートフォリオを全方位に展開するHewlett Packard Enterpriseはこの時代にどう対応するのだろうか。そして同社の日本法人である日本ヒューレット・パッカード(以下、HPEと表記)はAI時代の企業をどう支援するか――。国内ビジネスをリードするHPEの執行役員4人に聞いた。
AIは、非構造化データの活用や予測分析、業務プロセスの自動化など企業の生産性を大きく変えるポテンシャルを持つだけでなく、新たなビジネス機会の創出にも期待が寄せられている。ITインフラにおいても、AI処理に最適化されたサーバや大規模データを効率良く処理できるストレージ、分散した環境をシームレスかつセキュアにつなぐネットワークなど、これまでとは異なる要件が求められるようになってきた。データがものをいうAIを使いこなすには、クラウドやエッジに分散したデータやシステムをこれまで以上に透過的に管理する必要がある。AIモデルの管理やガバナンス、セキュリティ対策も欠かせない。
HPEの業界におけるポジショニングと同社が目指すビジョンについて、HPE 常務執行役員 パートナー・アライアンス営業統括本部長の田中泰光氏は「AI時代においては、ITインフラを構成する多様な要素を密接に連携させるアプローチが重要」と話す。
「高性能なGPUを搭載したサーバだけでは価値創出にはつながりません。クラウドやエッジを含むハイブリッド/マルチクラウド環境を透過的に連携させ、セキュリティやガバナンスを確保した状態で、効率良く管理して初めてデータやAIを生かせます。これには柔軟な管理ソフトウェアが必要ですし、変化に対応してITコストを最適化しやすいas a Service型モデルの活用も重要です」
HPEはサーバやネットワークといったITインフラを構成する製品をas a Service型の従量課金モデル「HPE GreenLake」(以下、GreenLake)で提供する。運用管理においては一元的な管理コンソールなどを、運用・開発プロセスの自動化においては製品を横断したクラウドネイティブなサービスを提供する。
田中氏は、分散した環境を透過的に使うという一貫した思想の下で構成することに加えて、これからのITインフラにおいては「AIアプリケーションの開発・運用を担うSIerやISV企業との密な連携も重要」と語る。
HPEでサーバ製品群「HPE ProLiant」などのコンピュート事業を統括し、日本全国の顧客を支援するハイタッチチームも指揮する加藤知子氏(執行役員 デジタルセールス・コンピュート事業統括本部長)はSIerやISVとの連携を重視する理由について、AI時代においては「クラウドでAIアプリケーションを開発、自社データはオンプレミスに格納して厳重に保護」といった構成が主流になることが背景にあると説明する。
「クラウドのアジリティーを維持しながらデータを自社で安全に保持してAIアプリケーションを開発、運用したいというニーズは多いのですが、AIアプリケーション開発をスモールスタートで検討する場合はパブリッククラウドで構築することがほとんど。ところが、開発会社は必ずしもユーザーのITインフラを詳しく知っているわけではありません。本格的に導入する段になって『自社インフラが合わない』『事業部門と連携が取れていない』といった事態に陥ることも多々あります」
HPEはNVIDIAと共同でプライベートクラウド向けのAIソリューション「HPE Private Cloud AI」を開発している。
「HPE Private Cloud AIは、プライベート環境でもパブリッククラウドと同等にスモールスタートでのAI開発が可能です。ターンキー型で簡単に利用でき、小規模なAI推論から大規模なRAG(検索拡張生成)、モデルの微調整まで構成も柔軟に変更できます」(加藤氏)
HPEは独自に販売パートナーやISVとの協業を強化する計画だ。既に数社のISV、ディストリビューターとAI時代に適したアプリケーション開発、インフラ運用の在り方を議論し始めており「今後も新しいエコシステム構築を推進する考え」(加藤氏)だ。
田中氏も販売パートナーとのビジネスにおいて「単にインフラを組むだけでなく、ユーザーニーズに合ったソリューションをいかに提供するかを重視する」と語る。
HPEは2015年にArubaを買収し、2024年1月にはJuniperの買収計画を発表した。ネットワークおよびセキュリティ領域の強化にも余念がない。執行役員でAruba事業統括本部長の本田昌和氏は、HPEのネットワーク事業とAIの状況について「AIはネットワーク領域で2つの大きな変化を生む」と話す。
一つはネットワーク運用・管理の最適化、もう一つは、さまざまな場所で生まれるデータを取りこぼしなく安全に収集するためのネットワーク活用だ。
「これからのネットワークはエッジからクラウドまでに分散したデータをいかに透過的に接続するが重要です。Arubaが創業時から掲げていたコンセプト『People move. Networks must follow.』(人は動く、ネットワークはそれに追従すべき)に尽きます」
そのためにHPEがいま注力するのが「HPE Aruba Networking Central」(Aruba Central)だ。Aruba Centralは、AIを活用してネットワーク品質の検知や自動化などが可能なネットワーク管理ツール。AI時代に求められる分散環境の管理にも対応しており、ブランチ、リモートオフィス、キャンパス、データセンター、IoTといったさまざまなネットワーク環境を統合管理できる。
「『Microsoft Azure』や『Amazon Web Services』『Google Cloud』などが生成AIを中心にさまざまなクラウドサービスを提供していますが、セキュリティを確保した上で、マルチクラウドを効率良く管理する必要があります。より幅広いネットワークを管理するために、Aruba Centralに加えてマルチクラウドを含めたハイブリッド環境を管理するソリューションも提供します」(本田氏)
ハイブリッド/マルチクラウド環境の運用最適化に向けて、HPEは2024年にSaaS型のITインフラ管理サービスである「OpsRamp」と、セルフサービスプロビジョニングや自動化、FinOps機能を持つハイブリッドクラウド管理プラットフォームの「Morpheus Data」を買収した。
執行役員 ハイブリッドソリューションズ事業統括本部長の吉岡智司氏は、OpsRampとMorpheus Dataについて「管理項目が多岐にわたるため、環境が変化し続けても追従可能な点が強み」と説明する。両製品を活用すればクラウドごとに管理しているツールを統合し、運用管理の手間を大幅に削減できるという。
運用管理においては他にも製品ラインアップを持つが、「オープンソースソフトウェアやデファクトスタンダードの技術を活用してプラットフォームを共通化している」(吉岡氏)という。
コスト最適化の点ではGreenLakeが果たす役割が大きい。HPE Private Cloud AIなどのサーバやストレージ、ネットワーク機器だけでなくOpsRampなどのソリューションにも適用されるため、人員の配置を含めたITインフラ全体の運用コストを下げられる。
「HPEは幅広い技術を連携させてプラットフォームを共通化しています。『ユーザーの課題を解決する選択肢を提供すること』を目指して他ベンダーとの連携も積極的に進めています。OpsRampやMorpheusの買収、パートナーやISVとの共同ソリューション開発などは、そうしたHPEがもともと持つ思想から実現したものです」
ITインフラのあるべき姿を考えたとき、今後解決しなければならない課題は多い。
「HPEは、AIニーズに応えるサーバや分散環境を管理できるネットワーク、効率的なマルチクラウド管理の仕組み、クラウドと同じ体験と課金モデルの提供などをソリューションとして提供します。その際に重要なことは、ユーザー、パートナー、ISVと共同で課題解決に取り組むことです。各部門が一丸となって推進します」(田中氏)
冒頭で示したように、HPEはITインフラに関わる製品・サービスを包括的に提供している。エンドユーザーがITベンダーやクラウド事業者にロックインされない、クラウドネイティブでモダンかつオープンな選択肢の提供に注力してきた。
変化の速いAI時代にIT部門が対応するには今まで以上に高いアジリティーと柔軟性が求められる。ITベンダー間の調整や製品ごとの対応の壁といった、従来IT部門が苦慮してきた「IT施策」ではない問題に手間取る猶予はもはやない。製品や企業の壁を越えて包括的な提案に積極的で、国内においてもパートナーとの共同ソリューション開発などに余念がない同社の取り組みは、企業のAI受容や事業変革に寄与するのではないだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:日本ヒューレット・パッカード合同会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2024年12月1日