AWSは多くの企業のビジネスアジリティー向上に寄与している。各業界の課題を深く理解したAWSパートナーとして金融業界でのAWS活用を支援する大和総研に、サービス品質を高めるための取り組みを聞いた。
クラウドファーストのトレンドをリードしてきた「Amazon Web Services」(AWS)は、日本でも金融や製造、小売りをはじめとする多様な業界で活用されており、多くの企業のビジネスアジリティー向上に寄与している。
これを支えるのが、各業界の課題を深く理解した「AWSパートナー」の存在だ。本企画は、企業の課題解決とビジネスアジリティー向上において特に高い実績を誇るAWSパートナー企業にクラウド活用のヒントを聞いた。
大和総研は、大和証券グループのシンクタンクとしてグループのIT戦略をリードしている。グループ以外の企業のIT活用を支援することも多く、ビジネス要件の検討といった上流工程からクラウド基盤の構築といった下流工程まで、幅広い領域でサービスを展開している。
同社が得意としているのが、金融業界の顧客に向けたAWSソリューションの導入だ。レガシーシステムのモダナイズやクラウド移行、データ活用支援などで多くの経験があり、大手金融機関向けのシステム基盤をAWSに構築した実績を持つ。
大和総研がAWSを活用するようになったきっかけは、電力業界の顧客向けにエネルギーマネジメントシステムを構築するプロジェクトだ。エネルギーマネジメントシステムは、スマートメーターやセンサーからエネルギー使用量を収集する際にデータ量が急増することがある。柔軟で迅速にスケールするシステムを求められた大和総研は、複数のクラウドを比較検討。エコシステムが充実していて、多様なサービスを利用できるAWSを採用した。
2017年にAWSを扱い始めて、翌年にAWSパートナーの「セレクトティア」の認定を取得。クラウド推進組織であるCCoE(Cloud Center of Excellence)を2021年に立ち上げた後、2022年に「アドバンストティア」に昇格。AWSに精通した多数のエンジニアと豊富な実績を持つという証しだ。
大和総研はグループ内のAWS利用も支えている。オンプレミスで運用しているITシステムの中でも小規模なものやOSのEOL(End of Life)などでサポートが終了するものを対象に、AWSのアドバイスを受けてシステムがクラウドに適合するかどうかを見極め、順次クラウドリフトしている。
同社の鈴木基一氏(企業システム事業本部 企業システム担当 執行役員)は、「オンプレミスでITシステムを構築する際は適正なサイジングに苦慮していたので、システムのリソースサイズを自由にスケールさせられるクラウドは魅力的でした。AWSのマネージドサービスにはアプリケーションの構築から運用の仕組みをつくるまでの機能がそろっていて、“小さくて軽いシステム”とマッチしました。情報系システムを中心にAWSの活用が急速に進んでいます」と話す。
アマゾン ウェブ サービス ジャパンの渡邉宗行氏(パートナーアライアンス事業統括本部 常務執行役員 事業統括本部長)は、金融業界とAWSの関係を次のように語る。
「金融システムという絶対に止められないミッションクリティカルな領域において、AWSのインフラとサービスの両方を高くご評価いただいています。東京のデータセンターを使っていた金融業のお客さまから『離れた場所にもデータセンターを設置してほしい』という要望があり、大阪リージョンの開設につながりました」
AWSはクラウドサービスで利用するデータセンターの所在地をリージョンと呼ぶ。リージョンは複数のアベイラビリティゾーン(AZ)で構成されていて、AZはリージョンにある独立したデータセンターを指す。東京リージョンは4つのAZで構成されていて、1つのデータセンターが停止しても、残りのAZが相互に補完し合うことで稼働を維持できる。
AWSの特徴は堅牢性やスケーラビリティだけではない。渡邉氏は「200を超えるサービスを提供することで、顧客が最適なIT環境を構築できるように支援しています」と、豊富なサービスによるメリットを語る。それに対し鈴木氏は、「AWSを利用することで、セキュリティ対策を切り出さず、設計の延長線上で効率的にセキュリティ対策ができるようになりました」と、マネージドサービスとして一通りのセキュリティ対策がそろっている点を評価した。
AWSは、セキュリティにおける責任の範囲をAWSとユーザーで分担する「責任共有モデル」を採用している。ホストOSと仮想化レイヤーからリージョンなどの施設の物理的なセキュリティまでをAWSが担い、ゲストOSやアプリケーション、セキュリティグループなどの設定についてはユーザーが責任を負う。
「責任共有モデルにより、企業はセキュリティ対策の全てを担う必要がなくなりました。対策の負担の軽減、効率化に貢献しています」(渡邉氏)
大和総研はAI活用に力を入れていて、データサイエンスと生成AIを重要なテーマに位置付けている。社内でデータサイエンティスト認定制度と教育カリキュラムを整備していて、全新入社員にスキルの取得を求めている。「育成した人材がグループの証券ビジネスで活躍し、成果を出し始めています。教育カリキュラムはサービスとして提供しています」と鈴木氏は語る。
生成AIについては、新技術の可能性を模索する取り組み「デモンストレーションハブ」で、次々と登場する技術を用いたガジェット開発などを進めている。生成AIの活用を検討するためのタスクフォースも設立していて、活動は2年目に入った。
「生成AIと画像認識技術を組み合わせて契約書面からデータ抽出するなど、業務の効率化に直結する領域で生成AIの導入がいち早く始まっています。AWSのAIサービス『Amazon Bedrock』などを採用し、LLM(大規模言語モデル)を適材適所で使い分けることで、ニュートラルな立場でお客さまに最適なサービスを提供することを目指しています」(鈴木氏)
Amazon Bedrockのユーザーは、API経由で複数のLLMを柔軟に使い分けられる。渡邉氏は「今あるLLMが永続的に最適だとは考えていません。AWSは、お客さまが速やかに少ない工数でLLMを使い分けられるように拡張機能への投資を続けます」とユーザーファーストの考えを述べる。
大和総研の社員は、金融業界で求められるサービス品質やセキュリティ水準を守るための行動指針である「運用中心フレームワーク」を脈々と受け継いでいる。ITシステムの構築時に可用性や耐障害性、セキュリティ、レジリエンスなどを検討する際、運用中心フレームワークに基づいた判断をすることで品質を高めている。
「時代に合わせて新しい技術を取り入れていく中で、リスク評価に基づいて定期的に見直し、品質を決して下げないことが大和総研の強みです。AWSも最初の1〜2年はかなり慎重に利用していましたが、今は“成熟した”技術になり、安心してITシステムを展開できると確信しています」(鈴木氏)
大和総研は安心して安全にオンプレミスのITシステムを運用するために、監視や保守、セキュリティ、監査などの仕組みを入念に構築してきた。パブリッククラウドでも同じ水準の運用が求められるために、AWSのマネージドサービスなどを最大限に活用してオンプレミスと同じ品質を実現する「パブリッククラウド共通基盤」を開発し、サービスとしても提供している。
「大和総研さまは金融業界向けにサービスを開発していると思われがちですが、業界を問わずさまざまな企業にパブリッククラウド共通基盤を提供されています。AWSは、パートナー各社の特長を発信するプログラム『AWS サービスデリバリープログラム』『AWS コンピテンシープログラム』で、各パートナーさまの強みを発信しています。これらのプログラムは、どのパートナーがどの領域に強いのかをお客さまが分かるようにするものです。もちろん技術的な支援もします。直近は、大和総研さまが『Amazon Connect』を活用したコンタクトセンターのシステム構築に取り組まれ、AWS サービスデリバリープログラム認定の取得にも挑戦していると聞きました。この取り組みもぜひ一緒に推進できればと思います」(渡邉氏)
Amazon Connectは、ECサイト「Amazon.com」で培ったコンタクトセンターのナレッジが注ぎ込まれたクラウドサービスだ。コンタクトセンターシステムや自動受け付けシステムをクラウドでスピーディーに構築できる。鈴木氏は「PBX(構内交換機)やACD(Automatic Call Distribution:着信呼自動分配装置)を自分たちでそろえると時間もコストもかかりますが、Amazon Connectならばすぐに構築できます。繁閑に合わせてオペレーターの席数を変えたいといったニーズにも応えやすく、クラウドを使うメリットが大きいと考えています」とその効果を語る。
クラウドを巡っては近年、経済安全保障などの観点からデータやソフトウェアの主権をコントロールできる「ソブリンクラウド」の考え方が注目され、国内のよりエッジに近い場所でデータを持ちたいという顧客のニーズも出てきている。鈴木氏は「お客さまのニーズに応えるために、AWSのクラウドサービスをオンプレミスに拡張して利用できるサービス『AWS Outposts』も選択肢の一つとして、最適な技術動向の見極めを常に行っています」と説明する。
「AWSはユーザーのニーズを受けてサービスを開発、拡充しています。そのニーズを特によく理解しているのがインテグレートを担っているパートナーさまです。大和総研さまがこれまで培ってきた金融システムのナレッジを生かして“より安全性の高いクラウド”をどう実現できるか、未来に向けて何ができるかを一緒に突き詰めていきたいです」(渡邉氏)
ここまで、企業の変革を支えるAWSパートナーの大和総研が取り組む施策を紹介した。AWSは、金融業界で高い技術力や強固なセキュリティ対策のノウハウを培った大和総研と共に、エンドユーザーの変革を支援する。これらの知見は、金融業界に限らず他の多様な業界でもパートナーと共にエンドユーザーの変革を支える力となるだろう。
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