海外拠点の活動状況の把握や情報共有、コミュニケーションや商習慣の壁に悩む企業は多い。そんな「カオス」な状況を乗り越えたのが、業務用チョコレートの製造、販売を手掛ける不二製油だ。複雑な業務課題を解決するために、同社はkintoneを活用。その舞台裏を紹介する。
海外で事業を展開する企業の中には「国をまたいだメールや紙でのやりとりが頻発して、情報の管理が複雑化」「情報が属人化していて状況の把握が難しい」などの悩みを抱えるケースが多い。
食品素材メーカーの不二製油は、サイボウズのノーコード開発ツール「kintone」(キントーン)を活用してこうした悩みの解消に成功した。同社はkintoneをどのように活用したのか。不二製油の担当者がその裏側について、サイボウズが2024年11月に開催したイベント「Cybozu Days 2024」で語った。その内容から課題解決のヒントを導く。
サイボウズの海外法人であるKintone Southeast Asiaで代表を務める中澤飛翔氏は「kintoneに対して『中小企業向け、国内企業向けのサービス』というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。しかし、kintoneは大企業や海外拠点を持つ企業も有効活用できるサービスです。海外事業でこそ効果を発揮する機能もあります」と話す。
海外事業を展開する企業の悩みは多い。冒頭で挙げた「現地の状況把握」「情報の属人化」などの他に、「複数言語への対応に手間がかかる」「海外拠点の情報を表計算ソフトや電子メールで回収して集計するのに膨大な時間がかかる上に連係ミスが起こりやすい」といったものがある。中澤氏は「表計算ソフトや電子メール、紙でのやりとりが混在して非効率だから起こる問題です」と指摘する。
情報の属人化を詳しく見ると「現地スタッフが管理していた情報が、そのスタッフの突然の退職によって消失して引き継ぎが困難になる」「電子メールやチャット以外に情報が残っていないので、過去の経緯を把握するのが難しい」「個人ごとに情報を管理しているとセキュリティリスクが問題になる」といったものがある。
「日本では『ほうれんそう(報告、連絡、相談)』が重視されていますが、海外では必ずしも行われないためにこうした課題が生まれています。それをシステム化することによって解決するのがkintoneです」
kintoneを使うことで、リアルタイムの「見える化」、脱表計算やペーパーレス化、データにひも付いたコミュニケーションが可能になる。海外企業にkintoneを導入する場合、3つのパターンがある。
Cybozu Days 2024で紹介された不二製油は、パターンAでkintoneを導入した。
大阪を本拠地とする不二製油は、業務用チョコレートの生産・販売で高いシェアを誇る。同社は業務用チョコレート、植物性油脂、乳化・発酵素材、大豆加工素材の4つの事業をグローバル展開している。
海外拠点は14カ国に34社あり、日本人駐在員70〜80人を日本本社の海外人事担当者3人がサポートする体制だ。かつてはセキュリティ対策の関係で社内ポータルサイトに海外からアクセスできず、海外拠点と本社とのやりとりは紙の書類や電子メール、表計算ソフトが中心だった。当時の状況を不二製油の小林麻紀氏(人事・総務部門 グローバル人事グループ アシスタントマネージャー)は次のように振り返る。
「情報が散在しやすく、オフィスにある2つのキャビネットは書類でいっぱいで『あの書類はどこ?』『これは誰に提出する書類だっけ?』という会話が飛び交うカオス状態に陥っていました」
この状況を改善するためにkintoneを採用。海外駐在員との円滑なコミュニケーションやワークフローの効率化、問い合わせ管理などの業務を支える「駐在員ポータル」をkintoneで構築した。kintoneを選んだ最大の理由について小林氏は「システムの初心者でも利用できる圧倒的な使いやすさ」として続ける。
「ワークフローを新たに構築しようと考えたときに、当社の別部署で使っていたkintoneの操作画面を見て操作性の高さに感動しました。カスタマーサポートの手厚さや対応の速さも決め手の一つです。問い合わせへの返答がすぐに届くので助かります」
海外拠点と日本本社をkintoneでつなぐので、セキュリティも重視した。日本本社は1つのVPNで社内サイトに一括アクセスできるが、海外拠点はVPNをそれぞれ導入しているので一律の対応が難しい。kintoneにはクライアント証明書を使って接続元の端末を認証する「セキュアアクセス」というオプションサービスがあることが安心材料になった。kintoneは多言語に対応しているので、使用言語を簡単に切り替えられるのも現地の従業員に好評だという。
kintone導入から約1年が経過した2024年11月現在、不二製油の駐在員ポータルで使っているkintoneのアプリケーション(アプリ)は約30個に上る。よくある質問をまとめたアプリ「FAQ」は、日本と昼夜逆転している拠点で働く従業員がいつでも自己解決できるように作成した。アプリは今後も追加する予定だ。
特に便利なアプリとして不二製油の大森誉史氏(人事・総務部門 グローバル人事グループ アシスタントマネージャー)が挙げたのが「VISA管理アプリ」だ。駐在員本人や現地法人の担当者、日本本社の海外人事部門、ビザを申請する代行業者が1つのアプリでビザの申請を管理することで効率化した。
「以前は関係者が電子メールでやりとりしていて煩雑でした。VISA管理アプリによって、申請情報を1つの画面で閲覧できるようになりました。必要な書類や手順をアプリで確認可能なので、引き継ぎも容易です」
ワークフローをkintoneに置き換えることで社内の申請業務も効率化できた。海外駐在員が一時帰国するときに必要な「費用」と「精算」に関する2つの申請業務を「一時帰国申請アプリ」にまとめて管理しやすくした。小林氏は「承認者が複数の拠点に点在しているケースでも承認業務が簡潔になりました」と語る。一時帰国に関する情報がまとまっているので、有事のときに駐在員の所在を迅速に確認できる点もメリットだという。
駐在員ポータルで閲覧できる資料には、閲覧者の役職や職務権限に応じてアクセス権限を細かく設定した。こうした設定に柔軟に対応できる点がkintoneの強みの一つだ。
現地の担当者が業務の全体像を把握できるようになったこともkintoneの導入効果と言える。日本本社と駐在員のコミュニケーションがスムーズになり、「つながりが良くなった」と感じている従業員は多いという。
紙とデジタルが混在しているために情報が散在しがちだった不二製油は、kintoneを導入することで情報を把握しやすくなり、申請業務にかかる手間が削減され、関係者間での進捗状況の共有もスムーズになった。
同社のkintone活用効果はこれだけにとどまらない。初期に構築したアプリだけでも年間350件の申請がデジタル化され、関連作業にかかっていた時間を年間116時間も削減できた。
新しいシステムの導入時には不安を覚える従業員もいるが、不二製油はスムーズに浸透させるために社内説明会を開催した。必ず全員が利用する業務からkintoneを取り入れるという工夫も効果的だったと大森氏は振り返る。
「最初に給与改定通知をkintoneで行うことで利便性を理解してもらえるようにしました。ワークフローをkintoneに置き換えた際には表計算ソフトからの移行期間を設けることで、大きなトラブルもなく受け入れられました。駐在員や現地担当者の要望に応えてアプリを繰り返し改修したことも、満足度アップにつながった理由です」
それまでは給与改定時期に休日出勤をしていたが、kintone導入後は作業にかかる時間を大きく削減できたことで休日出勤がなくなった。送付間違いなどの人的ミスも大幅に減少し、それに伴って心的負担も軽減されたという。小林氏は「給与明細の作成、送付に以前は30分かかっていましたが、現在は5分に短縮されました。費用も年間で20万円削減できました」と説明する。
大森氏は「海外関連の業務はイレギュラーだらけです」と海外拠点をサポートすることの苦労を語り、次のように続ける。
「言語が違うのでコミュニケーションが難しく、国や地域によって法令や慣習も違います。同じグループ会社でも、拠点によって100%子会社だったり合弁会社だったりするなど、日本本社との関係性も異なります。企業を取り巻く環境は常に変化しているので、『これまで問題なかったことが、ある日突然問題視される』ことも頻繁に起きます」
イレギュラーが多いので、アプリも一度作ったら終わりではなく、繰り返し改善することが求められるという。大森氏は「kintoneは、エンジニアではない人事担当者でも現場の声を聞きながら迅速に改善できます。柔軟な運用ができるので、kintoneは海外事業を展開する企業にぴったりのツールだと思います」と強調する。
不二製油は今後、kintoneをどのように活用するのか。小林氏は、作成したアプリをグループ全体に浸透させることの重要性を踏まえて、「本社のノウハウを提供して連携を強化し、kintoneを発展的に利用したいと考えています。人事領域では人的資本経営が大きなトピックになっていますが、グループ全体の情報を把握して分析できなければ人的資本経営は実現できません。最初の狙いは海外駐在員をサポートするためのポータル構築でしたが、今後は経営課題に則した人事課題の解決にもkintoneを活用できればと考えています」と展望を語った。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2025年1月11日