関西電力とJALが実践 kintoneで進める業務改革とDX人財の育成戦略市民開発をDX人財育成につなげる勘所

DXの推進に向け、非IT部門の社員のDX人財化が求められている。サイボウズ主催のイベント「Cybozu Days 2024」のセッション「日本航空と関西電力から聞く- 学びを実践に繋げる!- kintoneで始めるDX人財育成」で、両社のDX推進リーダーが市民開発の定着とDX人財育成の取り組みについて語った。

PR/ITmedia
» 2024年12月19日 10時00分 公開
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 DXが進展するにつれ、多くの企業でDX人財の不足が課題となっている。しかし、開発ベンダーやIT部門に依存すると社内の要望やビジネス環境の変化に素早く対応できず、DX推進が停滞する可能性が高い。そこで非IT部門の社員が自らシステムを開発する市民開発や、その経験を通じてDX人財へと成長するための取り組みが注目を集めている。

 DX人財には、システムやツールを扱う技術的な能力を指すデジタル(D)のスキルだけでなく、トランスフォーメーション(X)、つまり組織変革のスキルも求められる。問題解決力や仮説検証力、業務設計力などのスキルに加えて事業部門の社員に寄り添う姿勢、常識にとらわれない発想、柔軟な意思決定なども必要とされる。

 サイボウズの「kintone」(キントーン)はDXに関するスキルの習得を後押しするノーコード開発ツールだ。プログラミングスキルがなくても業務アプリケーションを開発できる。kintoneの導入によって、多くの企業が非IT部門主導の業務改善を実現し、DX人財の育成にもつなげている。

 サイボウズが2024年11月に主催したイベント「Cybozu Days 2024」の講演に登壇した関西電力の前田悠平氏(ソリューション本部 企画部門 システムグループ 副長)と日本航空(JAL)の眞島京子氏(デジタルテクノロジー本部 デジタルEX企画部 コーポレートグループ主任)が、kintoneを活用した市民開発の定着とDX人財育成の取り組みについて語った。

段階的なアプローチで成果を出した関西電力

 関西電力は中期経営計画で、「ゼロカーボンへの挑戦」「サービス・プロバイダーへの転換」「強靭な企業体質への改革」の3本柱から成る「KX(関電トランスフォーメーション)」を掲げており、それを実現するための施策の一つとしてDXを推進。各事業におけるデジタル変革やAI活用などを進めることで価値創出、生産性向上を図っている。

ALT 関西電力の前田悠平氏

 DXの取り組みでは、全体戦略を担う「DX戦略委員会」と、デジタル技術の活用や支援を担うグループ企業の「K4 Digital」、施策の検討や展開を担う各事業部門が三位一体の体制を構築した。前田氏が所属するソリューション本部システムグループ業務改革チームは、同本部におけるITツールの活用による業務改革推進と人財育成を担当している。

 前田氏はkintoneを選定した理由について、「基幹システムとユーザーをつなぐクッションツールとしてkintoneを導入しました。他のサービスと比較検討し、ノーコードで開発できる範囲の広さと、直感的な操作性、コストなどが決め手となりkintoneを選びました」と話す。

 検討時はセキュリティリスクに対する懸念があったが、kintoneは政府のクラウドサービス認定制度「ISMAP」を取得しておりセキュリティ要件を満たしていたことが大きかった。また、「アプリが野良化しないか」と心配する声もあったが、kintoneなどのITツール活用を専任で行う体制を構築して対処することとした。

 kintoneの導入直後は、フリーアドレスの座席予約や稟議(りんぎ)起案など、「社員が絶対に使う」アプリを開発することでkintoneの定着を図った。導入後は定期的に利用状況をチェックし、必要に応じて改修するなど利用率が高まるように工夫している。

ALT 関西電力で使っている、フリーアドレスの座席予約アプリの画面(出典:サイボウズ提供資料)

 1年前からは、システムグループ業務改革チームによる開発に加えて、事業部門による市民開発も開始している。前田氏はその成果について次のように語る。

 「すでにkintoneが業務のインフラツールとして浸透していたため、市民開発の開始はスムーズに進められました。市民開発を始めて1年間で、約30個のアプリが稼働しています。ガバナンスの準備など踏み切るまでは時間がかかりましたが、始めてみるとメリットが大きかったと実感しています」

小さなニーズに応えて現場主導の開発を後押ししたJAL

 JALグループは、DXを「デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織文化を変革し、新しい価値を生み出していく」ものと定義した。フルサービスキャリア(FSC)、ローコストキャリア(LCC)、貨物郵便、マイル・ライフ・インフラの4事業を横断してDXを推進し、顧客体験価値と社会価値を高めている。

 DXの推進に当たっては、JALのデジタルテクノロジー本部とグループIT中核企業のJALインフォテックが一体となって「kintone事務局」を立ち上げた。眞島氏は現メンバーの一員としてkintoneの利用や開発の促進を担っている。

 同社がkintoneを導入した背景には2つの課題があった。一つは開発人員の不足、もう一つは小規模なシステム開発ニーズへの対応だ。眞島氏は当時の状況を振り返る。

 「IT部門は、現場からシステム開発の要望が上がってくると、どれほど小規模の案件でも、自分たちでサーバーを立ててスクラッチ開発するのが一般的でした。小さなほど期間やコストに対する効果を説明できず、実現しないこともしばしばありました」

ALT JALの眞島京子氏

 この課題に対してJALは、クラウドを最大活用するという方針の下、「ユーザーが身の回りで使うアプリはkintoneで市民開発する」と決定した。kintone選定の決め手について、「ユーザーにとって圧倒的に分かりやすいUI/UXを備えていました。以前から一部の空港で既にkintoneを使用しており、その実績も安心につながりました」と眞島氏は話す。

 kintoneを導入する前に、既に活用している2社にヒアリングして「どのような業務にkintoneを使っているのか」「ルールを整備する方法」「ガバナンス体制」など、“kintoneをJALグループのDX基盤として標準化する勘所”を学んだ。それらを参考に、アプリに実装する共通機能やルール、教育体制を整備した。共通機能の整備では、社員データベースや組織マスターを用意し、社員番号を入力すると、メールアドレスや社員名が自動で反映される仕組みをつくるなど利便性を重視した。

 開発におけるルールは最小限にして、アプリの命名法や保存可能なデータ、アクセス権に関するものに限定した。アプリの命名については、アプリID番号を先頭に付けるというルールを定め、同じような名前のアプリが乱立しても番号で正しいものを認識できるように工夫した。

 最初の3カ月間は事務局がライセンス費用を肩代わりして事業部門が無料で使えるようにすることでコスト面の導入ハードルを下げた。しかし、導入後に幾つかの課題が生じたという。

 「3カ月のトライアル期間の終了後、部門ごとに投資対効果を確認して継続利用の承認を得る必要があったのですが、効果が出なくてトライアル止まりになった部門もありました。事務局は、他部門の成功事例を共有したり『一つのライセンスで複数のアプリが作れる』というkintoneの特徴を生かして小さな導入効果を積み上げられるように支援したりしました」(眞島氏)

 アプリが利用されないという課題もあったため、アプリのアクセス数をカウントする機能をJALインフォテックが開発し、一定期間使用されていないアプリは削除するというルールを設定した。このような割り切った判断ができるのも、「必要になったらまた作れる」というkintoneの開発の手軽さが理由だ。

 眞島氏は、kintoneで開発したアプリで業務効率化に成功した部署に共通する特徴として、「業務フローを見直してシンプルにした上で、kintoneをフィットさせている」点を挙げる。業務フローを整理した結果、アプリの構造自体もシンプルになり、維持管理しやすくなるという。

市民開発をDX人財育成につなげる社員教育

 両社共にDX人財育成の成功には体系的な教育プログラムが不可欠と考え、独自の育成体制を構築している。

 関西電力は、開発スキルを学ぶハンズオン形式の開発スキル研修と業務効率化を目的としたアプリを作成する実践プログラムを整備した。受講者は公募制だが、市民開発のキーマンを育成するため、業務効率化に前向きな社員やkintoneへの関心が高い社員に受講を促している。

 研修受講後は「開発アプリ発表会」を実施している。研修で学んだ開発スキルを生かして実際に業務課題を解決するためのkintoneアプリを開発し、その成果を発表する取り組みだ。研修受講後に実際にアプリを作るまでのハードルをクリアできるように実践の機会を創出するという狙いがある。

 注目すべきは、デジタルスキル(D)だけでなくトランスフォーメーションスキル(X)の育成も重視している点だ。問題解決やプロジェクトマネジメントといったXスキルの教育体制の整備を進めている。

ALT 上:関西電力のkintone開発スキル研修の内容と資料の一部、下:関西電力が作成したスキルマップアプリの一部(出典:サイボウズ提供資料)

 JALは2023年度に全社的なDX人財育成を開始した。そのプログラムの一つとして「デジタルツールを活用して身の回りの仕事の不便を楽にできる」人財を育成する「デジタル活用プログラム」を用意している。

 このプログラムでは、4カ月間の座学でプロジェクトマネジメントや課題設定力、デザインシンキングといった基礎スキルを習得し、終了後に4時間のkintone講座を受ける。座学終了後は実践フェーズに移行して約3カ月から半年かけて身の回りの業務課題をkintoneで解決する。

ALT JALのデジタル活用プログラムのイメージ(出典:サイボウズ提供資料)

 kintone事務局は、「魚を与えるのではなく釣り方を教える」という方針の下、手取り足取り教えはするものの、実際の操作とアプリ開発はユーザー自身が実際に手を動かすことを重視している。

事業部門が主導するDXの実現に向けて

 両社に共通するのは、技術的なスキルと業務改革の実践力を兼ね備えたDX人財の育成を図っている点だ。

 関西電力の前田氏は、「当社の取り組みのほとんどは、イベントやユーザー会で先輩企業の話を聞いて少しずつ取り入れたものです。これからもユーザー企業の皆さんと刺激し合いながら、取り組みを進めていきます」と今後の意気込みを語った。

 JALの眞島氏は、「今回の講演に向けて振り返ってみると、DX人財育成にkintoneが非常に有効だと気付きました。アプリを自ら開発して業務課題を解決する経験こそが、DX人財の育成につながっています」と、事業部門主導の改革の意義を強調した。

 kintoneの導入と人財育成を効果的に組み合わせる両社の取り組みは、持続的な業務改革とDXを実現する道筋を示している。

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提供:サイボウズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2025年1月16日