ビジネス環境が目まぐるしく変化する現在、基幹システムもビジネスの要件に応じて柔軟かつ迅速に対応することが求められる。しかし、基幹システムのモダナイゼーションは容易ではない。AI時代にふさわしい基幹システムを実現するための「現実解」とは。
DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI活用に取り組む企業は増加の一途をたどり、基幹システムを取り巻く環境は大きく変化している。一方で、「システムの老朽化」「維持、運用コストがかさむ」「データの統一的な基盤がない」など、基幹システムの課題は過去15年以上変わっていない。
基幹システムが抱える課題はDXやAI活用の足かせになる可能性が高い。こうした状況と決別して基幹システムを刷新するための選択肢は数多くあるが、予算やIT人材に限りのある中、企業はどうすればいいのだろうか。
サイボウズが2024年11月に開催したイベント「Cybozu Days 2024」でアイ・ティ・アール(以下、ITR)のプリンシパル・アナリストである浅利浩一氏が語った内容に解決策のヒントがあった。
ITRは市場調査やテクノロジー動向調査に基づくITコンサルティングで企業を支援している。同社が調査した「IT投資インデックスの経年変化」によると、2001年から現在に至るまでIT投資は増え続けている。特にDX分野や生成AIの業務への適用、基幹系システムのクラウド化などで投資が増加傾向にある。
「基幹システムをクラウド化してさまざまなSaaS(Software as a Service)と連携させるといった施策が実践段階に入っています。基幹システムを巡る“過去のしがらみ”と決別する挑戦が取り組みのど真ん中になっています」
ITRが発表した「ERP市場規模推移および予測」によると、2019年度にSaaSとIaaS(Infrastructure as a Service)のパッケージで構成されるクラウドERPの新規出荷ベース(ライセンス契約、サブスクリプション契約の合計)が全体の50%以上を占めていて、オンプレミスのパッケージは年々減少している。企業にはレガシーシステムやオンプレミスのパッケージが混在している状況だ。
今後クラウドERPが主力になる中で、さまざまなシステムをいかに統合するか「企業は難しいかじ取りを求められることになる」と浅利氏は警鐘を鳴らす。
「ITシステムの機能を強化したい、アジリティーを向上させたいという要望がある一方で、新しい要件を簡単に追加できないというジレンマがあります。多くの企業は既存の仕組みを維持するのが精いっぱいで、本来やるべきことは1〜2年後でなければ実現できないという状況にあります。この背景にあるのがガバナンスの欠如やサイロ化といったERPを取り巻く長年の課題です。これらを解決するのが『アーキテクチャマネジメント』です」
アーキテクチャマネジメントとは、ビジネスやデータ、アプリケーション、テクノロジーの各要素におけるアーキテクチャを適切にデザイン、マネジメントする取り組みを指す。
ERPを取り巻く普遍的な課題を解決するアーキテクチャマネジメント(出典:ITR「DX時代の基幹システムのあり方とは?Fit to Standardのその先へ」講演資料(サイボウズ主催、「Cybozu Days 2024」2024年11月講演))分断されたデータをつなぎ、共有し、活用することでサイロ化したシステムと決別できる。アーキテクチャマネジメントの使命は、部分最適のサイロを分解して、組み立て、つなげることで「無秩序」「無統制」「無管理」を解消して複雑性を軽減することだ。常に変化する要件を踏まえて、どのようにコンポーネントをデザインするかが重要になる。
「ERPを簡単に表現すると、モノの流れとカネの流れを同期させることでSSOT(Single Source of Truth)を実現する仕組みです。基幹システムは、もはやスクラッチ開発するものでないという考え方が浸透してきました。『何を使い、何を使わないか』『どのようにつなげて組み合わせるのか』とよく質問を受けます。使えるところにはERPを使い、自社の要求を実現すべきところは分離したり新しい部品を組み合わせたりするなど、業務領域のコンポーザブル特性を意識することが勘所です」
基幹システムのモダナイゼーションのために、何を捨てて、何を取り入れるべきなのか。浅利氏は、システムがサイロ化する背景の一つに「ユーザーフレンドリー」を挙げて使い勝手を追求する姿勢があると指摘する。オーダーメイドの入力画面や正確性を確保するための入力チェック機能、省力化を狙った自動化、ビジネスのスループットや付加価値に貢献しない部分最適のシステムがこれに当たる。
「大事なことは一つだけで、『好き嫌いの開発』をやめることです。『この画面が欲しい』『この機能が欲しい』といったユーザーフレンドリーからの脱却が必要です。ユーザーフレンドリーを追求すると、時間やお金がいくらあっても足りません。それよりもオペレーションをシンプルにし、ビジネス全体のスループットの向上や付加価値を追求すべきです。そしてつなぐ、活用する、共有するという『機能からデータへの変革』を実現するということを忘れてはなりません」
AIドリブン経営基盤(出典:ITR「DX時代の基幹システムのあり方とは?Fit to Standardのその先へ」講演資料 (サイボウズ主催、「Cybozu Days 2024」2024年11月講演))ユーザーフレンドリーから脱却する仕組みとして浅利氏が標準装備すべきだとするのが、「AIドリブン経営基盤」だ。同基盤は固定部分と変動部分で構成される。変動部分で収集した一貫性の高いファクトデータと生成AIを活用したインテリジェントなダッシュボードで企業の意思決定の向上を図る。AIドリブン経営基盤による価値創出を実現するためには、企業固有の変動部分の要件をローコード/ノーコード開発ツールで内製する体制づくりも重要だ。
「グローバルに拠点を展開する企業や個別最適や部分最適を恐れずに事業の仕組みを変えられる企業は、AIドリブン経営基盤を整備しているケースが大半です。日本でも先進的な企業はAIドリブン経営基盤を既に構築しています。変動部分は企業や産業によってさまざまな変数が存在する部分です。変動部分はどんどん強化して、変化に柔軟かつ迅速に対応できるようにすることで、AI時代の新しい基幹システムを支える重要な基盤が実現します」
ERPを新規に導入する場合、これまでは業務とERPの機能の差を分析する「Fit & Gap」手法が主に使われてきた。しかし現在は、導入するERPの標準機能に合わせて業務を変更する「Fit to Standard」手法が主流となっている。
浅利氏は「単なるFit to Standardではなく、製品に合わせる『Fit to Product Standard』か、自社に合わせてAIドリブン経営基盤を活用する『Fit to Company Standard』の2つを使い分けることが重要です」と指摘する。
ERP導入における「3つのアプローチ」(出典:ITR「DX時代の基幹システムのあり方とは?Fit to Standardのその先へ」講演資料(サイボウズ主催、「Cybozu Days 2024」2024年11月講演))ERPがどれだけ進化を遂げても、適用できない業務領域は必ず残る。単に業務をシステムに合わせるのではなく、企業が再設計した“標準”に合わせて機能を拡張していくFit to Company Standardのアプローチが有効になるのだ。
ここまで、AI時代のERPはどうあるべきかを見てきた。ERPは当面、クラウド、オンプレミス、レガシーなどが混在し、部分最適のサイロ化の課題が継続するというのが浅利氏の見立てだ。こうした中で、AI活用を前提にした基幹システムを実現するにはどうすべきか。同氏が提言する解決策をまとめると次の通りになる。
「変化の激しい時代には、正しいかじ取りが必要です。Fit to Product StandardとFit to Company Standardを必要に応じて使い分けることが重要です」(浅利氏)
基幹業務はシンプルにして、足りない箇所を内製で補強してFit to Company Standardを実現するにはどうしたらいいのか。選択肢の一つが、サイボウズのノーコード開発ツール「kintone」(キントーン)とERPの組み合わせだ。
イベントに登壇したサイボウズの大南友誉氏(営業本部 アライアンスビジネス開発部)は次のように説明する。
「kintoneはFit to Company Standardにピッタリなツールです。優れた操作性によって、業務に精通した事業部門によるシステム開発が可能になります」
業務に精通する事業部門のメンバーがシステム開発をする、というのは難しいケースが多い。それを可能にしているのがkintoneの操作性であり、ERPとkintoneを連携することでより高い価値を発揮する。Fit to Product Standardの考え方でERPが得意とする業務領域を任せつつ、ERPを適用できない自社固有の領域については業務に精通しているメンバーがkintoneで内製することで、業務にシステムを適用させるFit to Company Standardのコンセプトを実現できるというわけだ。
サイボウズは、kintoneの堅牢(けんろう)なセキュリティやアクセス権設定、機能特性に合わせたガバナンスなども重視。そうした点を評価して、自治体や金融機関もkintoneを利用している。
次世代の基幹システムの在り方を検討している人は、ERPとkintoneの組み合わせを選択肢の一つに考えてはいかがだろうか。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2025年1月13日