さよなら、タッチおじさん――IT業界マスコットのあれこれ:今日から使えるITトリビア
お菓子のパッケージから各種イベント、スポーツチーム、官公庁にいたるまで、世の中にはたくさんの「マスコット」がいる。もちろんIT業界でも、多くの製品にマスコットが設定された。こんなキャラクターがいたのは覚えていますか?
なつかしのマスコットたち
マスコットはもともと「開運のお守り」という意味の英語である。そこから派生して「幸運をもたらす人や動物」を指す言葉として使われるようになった。もちろん世界共通語として広まっており、特に4年に1回開催されるオリンピックのマスコットは、発表のたびに話題になる(そしてすぐに忘れられる。北京オリンピックの「福娃」って覚えている?)。スポーツのプロチームでも応援キャラクターとしてマスコットが設定されている。また、多くの企業が自社の商品をアピールするための広告媒体としてマスコットを用意した。
日本では、商業広告が発展し始めた1950年代からマスコットが多く生み出される。有名な不二家の「ペコちゃん」は1950年生まれだから、もう58歳だ。薬局の店頭にあった佐藤製薬の「サトちゃん」は1959年に登場したとされる。また、現在のパナソニック系列となる家電販売店「ナショナルのお店」の店頭には、「ナショナル坊や」がいた。1970年代ごろまでは、こうしたポップドールをよく見かけたものだった。
そんなマスコットだが、企業向けのビジネスが中心だったIT業界ではあまり用いられてこなかった。否、作られたことはあるのだろうが、メジャーになるものはなかった。IT業界のマスコットが有名になり始めたのは、1990年代になってPCが普及し始めてからである。
PCのマスコットときいてすぐに思い出すのは、富士通の「タッチおじさん」だ。富士通のPC「FMV」がシェアを伸ばすとともに、タッチおじさんも有名になっていった。大阪出身の48歳、機械音痴という設定で、キャラクターの声は坂田利夫が担当していた。一時期は、スリーサイズが「B98 W98 H98」という「タッチおばさん」なる奥さんも登場している(Windows98に合わせた設定?)。タッチおじさんは、2000年ごろまで富士通のPCを一生けんめい宣伝していたが、富士通がCMキャラクターとして木村拓哉を採用した時期に、静かに姿を消していった。「タッチおじさんわーるど」というホームページも2001年8月に閉鎖されてしまった――。
富士通のタッチおじさんとほぼ同時期、PCのシェアでライバル関係にあったNECでは「バザールでござーる」という販促キャンペーンのCMを流していた。そのマスコットだったのが、「バザール・デ・ゴザール」という名前のサルだ。アフリカ出身でバナナが大好物という設定で、父母兄弟だけでなく、祖父母や甥までいるという大家族だ。最近はCMに登場する機会はほとんどないが、現在も現役のマスコットであり、バザールでござーるのホームページも頻繁に更新されている。
ソフトウェアのマスコットとして有名なのは、ソニーのメールソフト「PostPet」に登場したピンクのテディベア「モモ」だろう。このソフトは、モモのほか、ウサギの「ミッピ」、カメの「スミコ」といった「ペット」がメールを配達するというユニークなものだが、製品のマスコットとして扱われているのはモモだけだ。
オープンソース系はマスコットの宝庫
IT業界のマスコットは、メーカーが設定した商業広告で活躍するものだけではない。たくさんのマスコットがいるのが、オープンソース系のソフトウェアだ。
その中でも最も有名なのが、Linuxのペンギンだろう。名前を「タックス(Tux)」という。これは、Linuxを生んだリーナス・トーバルズが提案し、ラリー・エウィングがデザインしたもの。このマスコットがメジャーになったことで、オープンソースソフトウェアのコミュニティでは、マスコットを作ることも欠かせない開発作業となっていった。また、オープンソース系のほかのOSにも影響を与え、Mac OS Xのオープンソース版であるDarwin OSには、「ヘクスレイ(Hexley)」という三つ又の槍を持つカモノハシのマスコットが作られた。また、Free BSDには、「BSDデーモン(BSD Daemon)」というマスコットがいる。かわいらしい悪魔の格好をしたマスコットだが、BSDデーモンのスペル「Daemon」は、悪魔のスペル「Demon」とはスペル違い。このデーモンは、バックグラウンドでタスクを処理するプロセスを意味するとともに、「守護神」という意味でも使われている。
サン・マイクロシステムズが発明したJavaにも「デューク(Duke)」というマスコットがいる。とんがり頭で赤い丸鼻が特徴のかわいらしいキャラクターだ。このキャラクターは、サンがJavaを発表した当初から使われているが、残念ながらコーヒーカップから湯気が出ているJavaのロゴマークに比べると知名度は落ちるようだ。
マスコットといえば、かわいらしいものが定番だが、むしろコワいくらいなのが、ネットスケープ コミュニケーションズが作ったマスコット恐竜「モジラ(Mozilla)」だ。当初はNCSAのブラウザ「Mosaic」キラーを意味するものだったという。
そのMozillaから派生したブラウザ「Firefox」では、一転して親しみやすいキツネのマスコット「フォクすけ」が作られた。名前からも想像できるように、このマスコットは日本向けのプロモーション活動の一環として2006年に生まれたもの。
マスコットは、製品のユーザー、あるいは開発者にとって、非常に愛着のあるものだ。今後もユニークなマスコットがどんどん登場してくることだろう。
関連記事
- Google Earthで「Ctrl+Alt+A」を押すと?――イースターエッグ温故知新
「イースターエッグ」といえばキリスト教の復活祭で子どもたちが隠して遊ぶ、装飾した卵のこと。それが転じて、いろいろなメディアに隠されたメッセージを指すようになった。ITの世界にはどんなものがある? - パソコンのテレビCMとタレントの関係――ジャニーズのあの人も
テレビで目にするパソコンのコマーシャル。各メーカーとも、毎年3回程度のモデルチェンジに合わせ、CMを模様替えしている。今回はそのテレビCMについて調べてみた。 - ドットインパクトからレーザーまで――最初に使ったプリンタはどれ?
今やオフィスでも家庭にも一般化しているプリンタ。周辺機器の中で最も変化が激しかったのがこの分野だ。最近20年の間にも、主役がどんどん入れ替わっている。 - さよならフロッピー――記録メディアの移り変わり
データを入れて持ち運ぶ。そんな役目を担うリムーバブルメディアの中でも、常にPCの進化とともにあったフロッピーディスク(昔は“ディスケット”とも呼んでいた)が、静かにその役目を終えようとしている。 - Vistaの壁紙、写真を撮影したのはだれ?
見た目と操作性にこだわって作られたWindows Vista。壁紙用に見本として用意されているサンプルピクチャーも、質の高い写真ばかり。そこで気になるのが、写真を撮影したカメラマンだ――。 - Office 2007をコマンドラインスイッチで起動してみる
各アプリケーションで統一されたUIを備えるOffice 2007。でもその実態は、やっぱり別モノのアプリケーションの集合体に見えてしまう。例えば起動時のコマンドラインスイッチの統一性はどうだろうか? - 松茸、WX、VJE――懐かしのFEPを思い出す
Vistaを使い始めて何に困ったか? それは、日本語入力システムがあまりにもおバカなこと。「直前の誤変換データの送信」を何度クリックしたことか……。乗り換えようとほかの日本語入力システムを調べたら、ほとんどの製品が駆逐され、お寒い状況になっていた。 - Windowsのログオンとシャットダウンにかかわる豆知識
出退勤時に毎日のように行うWindowsのログオンとシャットダウン。ここにも役に立ったり、役に立たなかったりするさまざまな話題がある。例えばどうしてログオン時のCtrl+Alt+Delにどのような意味があるかご存知だろうか。 - MosaicからChromeまで――Webブラウザ戦争の来し方行く末
Googleは、新しいWebブラウザ「Google Chrome」を発表した。長い間、マイクロソフトのInternet Explorerが独占してきた市場に風穴を開けることができるか注目される。Webブラウザ市場の歴史と展望をおさらいしよう。 - カリスマ経営者の変人ぶりと日本のヘンジン会
「変人」といえば、田中眞紀子代議士が小泉純一郎元首相を称した言葉だが、ビッグネームには多かれ少なかれ、変人ぶりや奇行のウワサがあるもの。今日のIT時代を築き上げたスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツにも数々の逸話が。もちろん日本にだって!? - 「.」の正式名称はFull Stop?――意外と知らない記号の読み方
びっくりマークといえば「!」、はてなマークといえば「?」。文章を書くときに使う記号には、「読み方」がある。結果的に通じればよいとしても、記号には決められた名称があるのだ - Web2.0時代を築く――スタンフォード大学出身の華麗なる面々
米国カリフォルニア州にあるシリコンバレーはスタンフォード大学の出身者たちがIT企業を大学近隣に設立したのが始まりだ。「Die Luft der Freiheit weht(自由の風が吹く)」を校是とする同大が輩出したITリーダーはどのような面々なのだろう? - キロキロとヘクトデカけたSI接頭語――最大単位はヨタ
メガ、ギガなど、すでに一般化した「大きさ」の桁を示す単位。特にストレージのメディア容量を示すものとして多く用いられるが、本来はコンピュータに限る用語ではない。 - アバターの由来――古代インドの神様は10のアバターを使い分けた
オンラインコミュニケーションに欠かせないアバター。インターネットサービスのユーザーの多くがアバターを持ったことがあるはず。意外なことに由来はインドの神話までさかのぼれるのだ。 - Vistaのバグ? 仕様?――無名フォルダの怪
Windows Vistaのような巨大OSにバグは付きもの。マイクロソフトのサイトでも、OSのバグ情報が頻繁に公表されている。だが、中にはバグなのか、仕様なのか、判別しがたいものもある。使いようによっては便利(?)なウラ技を紹介しよう。 - 真夏のオフィスで同僚の背筋を冷やす方法?
一日中デスクトップに向かい、忙しい仕事の毎日を送っていると、つい息抜きしたくなるもの。そんな時、たまには同僚にちょっとしたジョークを仕掛けてみませんか? でも就業時間中のイタズラは控えて。 - WiiやPS3そしてXboxに搭載されているプロセッサは?
Macな友人と世間話をして至ら、彼が一言。「そういえばPowerPCってなくなっちゃったね……」。いえいえPowerPCは健在です。組み込み用途に加え、WiiやPS3、Xboxといった家庭用ゲーム機市場では大活躍なのだ。 - Googleはスペルミスから生まれた――IT企業の社名あれこれ
見慣れてしまったYahoo!やGoogle、IBMなどの社名だが、その由来をご存知だろうか? - 読めない、書けない――漢字をどうする?
ビジネスだけでなく、個人的な手紙のやり取りでもPCを使うことが多くなったためか、「漢字の読み書き」に関する日本人の頭脳はどんどん退化しているかも。「ふいんき(なぜか変換できない)」なんて経験、ありませんか? - 顔文字の起源はいつ?――The First Smiley :-)
PCにだけでなくケータイでも当たり前に使われる顔文字。ブラウザ上で動画を見られる時代になっても、その地位は揺るぎない。そんな身近な存在の顔文字だが、日本での起源はいつだろう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.