プライベートクラウドは「クラウド」か:Weekly Memo(2/2 ページ)
企業の新たなIT基盤として注目されるプライベートクラウド。誰でも利用できるパブリッククラウドと区別されているが、どうやら「クラウド」を分かりにくくしているようだ。
ITベンダーには勝手知ったるビジネスモデル
クラウドのメリットは、コスト削減、最新技術の適用、サービス利用の短期開始や柔軟性など、さまざまな面が挙げられる。とりわけ、ITリソースを自前で持たないことから、初期投資のハードルの低さが中堅・中小企業ユーザーには大きな魅力となっている。
これに対し、プライベートクラウドはクラウド化のための最新技術やサービス利用面におけるメリットは得られるものの、ITリソースを自前で持つための初期投資はかかる。つまり、従来の自社システム構築と同じだ。この点をはっきりと認識しておく必要がある。
ただ、ある業界関係者はパブリッククラウドとプライベートクラウドのコスト比較を、タクシーと自家用車に例えて、「要は使用するボリューム。少なければタクシーのほうが有利だが、多ければ自家用車のほうが安上がりで便利」と話す。さらにプライベートクラウドを提供するベンダーの中には、パブリッククラウドに比べてより高いサービスレベルやセキュリティの確保をうたっているところもある。
クラウドビジネスを推進するITベンダー各社は、ここにきてこぞってプライベートクラウドのソリューションに力を入れている。とくにシステムベンダーにとっては、新たなシステム開発ビジネスのチャンスとばかり、データセンターの拡充と顧客獲得に全力を挙げている。ベンダーからみると、プライベートクラウドは従来のノウハウも生かせる、勝手知ったるビジネスモデルなのである。
かくして、ある中堅規模の企業経営者から「プライベートクラウドはクラウドか」と聞かれた筆者は、自身の腑に落ちないところも明らかにしようと、上記のように一生懸命、説明した。それをじっと聞いていたその経営者は、「ということは、うちはプライベートクラウドについては、とりあえず気にしなくていいな」と呟いた。なんだか、まだ説明不足のような気がしないでもなかったが……。
そしてつい先日、今度は中堅のITベンダー幹部から、こんな相談を受けた。
「うちの規模とリソースで、これからクラウドビジネスにどう打って出ていけばいいのか。そもそも経営陣がクラウドをよく理解していないのか、危機感が薄い。どうにかしなければ……」
まだまだクラウドは、根本的なことも合わせて丁寧に説いていく必要がありそうだ。
プロフィール
まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
関連記事
- プライベートクラウドの誕生と変遷
クラウドの台頭に伴い、システム構築の新たな手法として「プライベートクラウド」の可能性が浮上してきた。企業とクラウドのかかわり方はどう変化しているのかを解説する。 - NECと富士通のトップが語るクラウド事業
NECと富士通のトップが先週、相次いでクラウド事業について語った。4月下旬にそれぞれサービスの提供形態を発表した両社。トップはどんなメッセージを発したのか。 - 富士通が考えるクラウド・イノベーション
クラウドがもたらすイノベーションとは――。富士通が先週、クラウドサービスの概要を発表した際、この点について見解を示した。利用する側にも参考になりそうだ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.