鳩山さんとコンピュータ――2010年代の産業政策:伴大作の木漏れ日(3/3 ページ)
鳩山政権の施政方針を見る限りわれわれの関心が強い産業政策について言及がほとんどされていない。今回は2010年代の日本の産業政策に何が望まれているかについて僕の考えを記す。
アジア、米国、そして日本
鳩山さんはしきりに「アジア共同体構想」を強調する。確かに、現在の日本は経済面で昔ほど米国に依存しているわけではない。貿易相手国として中国を含むアジア諸国が最も大きな割合を占めている。その点で鳩山さんの嗅覚は優れている。ただし、忘れてならないことがある。それはインドを含め東アジア諸国のほとんどが欧米への輸出で経済が成り立っていることだ。また、多くのアジア諸国は中国との関係で米国の庇護の下にいるのだ。これは日本も全く同じ構図だ。
米国との関係は鳩山さんの悩みの種だろうが、米国も同じように日本に対し大きな危惧(きぐ)を抱いている。表立っていないが、日本は中国と並んで米国債を所有する「お得意様」なのだ。資本面だけでなく、米国の輸出先で4位(1位カナダ、2位メキシコ、3位中国)に位置する大市場だ。もちろん、日本は米国の防衛力の傘の下にあるが、こちらも防衛省の予算だけで4370億円と非常に大規模だ。防衛予算が5兆円と比較してもいかに巨費を投じているかがよく分かる。
米軍の基地は日本以外ではアジアにほとんどないため、日本に米国の世界戦略上も重要な拠点を置かざるを得ないという弱みがある。
一方、日本はアジア諸国、中でも韓国、台湾、米国とはさまざまな世界市場で競合関係にある。韓国や台湾とは電子機器、半導体、電化製品、韓国とは自動車、テレビ、船舶建造、建設の分野で、米国とは先端産業のさまざまな分野で競合している。しかも、これらの競合はいずれも円高で日本の競争力は近年極端に悪化している。
そのあたりを見れば、アジア経済共同体構想は的を射ているが、中国が経済だけで共同体構想に参加するとは到底考えられない。その辺をほかのアジア諸国は冷静に眺めている。もちろん共同体構想が実現すれば、日本は言うに及ばず、国内需要がそれほど大きくない台湾、韓国にとっても非常に喜ばしいことではあるのだが。さて、肝心の米国が米国抜きの共同体を許すだろうか。
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