自他の感情を知り、調整する〜『EQ こころの鍛え方』:マネジャーに贈るこの一冊(2/2 ページ)
なかなか自分ではコントロールできない“感情”。感情のクセを知り、行動することでそれを調整する――そんなEQ理論の活用法について考えてみよう。
例えば通勤の途中で嫌なことがあった朝、部下に「元気よく大きな声で」話し掛けるのは難しいことです。通勤時に起きたことは部下には何の関係もないはずですが、ネガティブな感情はいつもの行動を妨げてしまいます。本書が提案するEQ能力の開発とは、そういった瞬間に敏感になり、感情と行動のつながりを観察し、行動によって感情を調整しようと試みていくことにほかなりません。
いまの例でいえば、あたかもイチロー選手がバットを構えるまでのルーチン(決まり切った動作)のように、オフィスに入るまでのルーチンを持っていらっしゃる方もいるかもしれません。
実はわたしも、夜の講義で講師を務めるときのための小さなルーチンを持っています。講義の前までは働いているわけですから、失敗して落ち込んだり、仕事の遅れのせいで気持ちが落ち着かなかったり、そんな状態で教室に向かわざるを得ないこともあります。でもそれら一切は、当然ながら参加者には関係ないこと。気持ちを切り替え、盛り上げ、「こんにちは!」と教室に入っていくための儀式を作って、数年前から実施しています。自己評価ではありますが、うまくいっているのではないかと思います。
EQを活用してこころを鍛える
もう1つ例を挙げましょう。実は今年、著者の高山社長と一緒に研修プログラムを提供する機会がありました。対象はマネジャーです。半年にわたってEQ能力の開発に取り組みつつ、いわゆる論理的思考の研修を数日実施したのです。
論理的思考やそれにのっとった議論の研修は、冒頭で述べたように、ともするとギスギスした「論理的思考の感情的ぶつけ合い」になることがあります。しかしEQ能力の開発を経験した後の研修では議論が終始建設的で、「揚げ足取り合戦」に陥ることはありませんでした。
EQの開発を意識する前との比較データを取ったわけでも、まだ十分な数を重ねたわけでもありません。しかし、自分や相手の感情を理解しようという姿勢を持つだけで、自分の主張を一方的に押し付けたり、相手の感情を損ねて議論を台無しにするようなミスは減るように思います。
感情をうまく使うことが、より深く考えたり話し合ったりしていくための重要な要素であるというテーマについては、もう少し掘り下げたいと思います。そしてこれから、本連載の中で書評とともに皆さんに報告いたしましょう。
今週の、マネジャーに贈るこの一冊
高山 直著
東洋経済新報社
2003年12月19日
ISBN-10: 4492554998
ISBN-13: 978-4492554999
1680円(税込み)
対人関係に活用されるなど、根強い人気があるEQ。本書ではまず「EQとはどういう能力か」を解説し、自己チェックでEQを測定して自己の強み弱みを理解する。さらに「EQを伸ばす具体的な方法」「ビジネスシーンでのEQ活用法」「身近な訓練でできるEQ能力の向上法」などの、こころ鍛え方を伝授する。
著者プロフィール:堀内浩二
株式会社アーキット代表。グロービス・マネジメント・スクール講師などを兼任。
「個が立つ社会」をキーワードに、個人の意志決定力を強化する研修・教育事業に注力している。工学修士(早稲田大学理工学研究科)取得後、外資系コンサルティング企業(現アクセンチュア)入社。シリコンバレー勤務を経験。帰国後日米合弁のベンチャー企業にて技術および事業開発を担当。2002年より現職。
著書に『クリエイティブ・チョイス』『「リスト化」仕事術』(『リストのチカラ』の文庫化)がある。「起-動線」「*ListFreak」などのサイト運営も手掛けている。
ITmedia オルタナティブ・ブログにて「発想七日!」を執筆中。
マネジャーに贈るこの一冊バックナンバーも、どうぞご覧ください。
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