偽プロフvs.本物のプロフ:ネットファーザーの金言(3/3 ページ)
偽プロフでいじめを受けたサトルくんが取った対抗策は、“本物”のプロフを作ることだった。本物が本物であることを分かってもらうために、彼がとった行動とは……。
本物の意地
翌週の土曜日、サトルくんはプロフを作ったことをメールで知らせてくれた。
驚いたことに、サトルくんはアバター(自分の分身となるキャラクター)に自分の写真を貼り、名前も実名で書いた。さらに学校名、誕生日、住所(市まで)、体重、足のサイズ、お母さんの旧姓(名字のみ)などすべてが本物の情報だった。わたしは非常に危険だと感じ、連絡しようかと思った。しかし、「E:Empowerment 権限の委譲」という点を考慮してサトルくんに任せると決めたので、口出しするのは我慢した。
後で聞いたところ、サトルくんはわたしの学校裏サイトへの対応例を見て、実名、実際の写真の方がいいと思ったそうだ。“本物”としての意地だったのかもしれない。
日記には、プロフを作ってから3日分の出来事と感じたこと、そして今の気持ちが素直に書かれていた。文章の良しあしは別として、気持ちが十分に伝わってくるものだ。
偽プロフについては一切触れられていない。「相手に自主的に気が付いてもらう」「相手のプライドを傷付けずに、逃げ道を用意しておく」ためである。こうすれば、偽プロフを作った人も、偽プロフにだまされて誹謗(ひぼう)中傷コメントを書いた人も、「上げたコブシを下ろしやすい」のだ。
伝える効果
プロフを作っただけでは、誰にも存在が分からない。そこでサトルくんは、プロフのリンクを知っている限りの友達すべてにメールで送った。書いた内容は「プロフ作ったからよろしく」だけである。偽プロフについては、あえて触れない。
その効果は大きかった。「ウヘ〜! だまされた。ごめん」と素直にメールが返ってきたり、サトルくんを誹謗(ひぼう)中傷するコメントが無くなったりした。書いた人が間違いに気付いて削除したのだろう。知らない人の日記に書かれた非難も次々と消えていった。日記を残したまま、簡単な謝罪を載せているものもあった。
サトルくんが送ったメールが転送されて偽プロフに気が付いた人もいるだろう。しかし実は、誹謗(ひぼう)中傷がなくなった理由はもう1つあった。
偽プロフに関する誹謗(ひぼう)中傷や非難が書かれている掲示板やプロフのURL一覧を、わたしはお父さんに送っておいた。それを基にお父さんが、「サトルのプロフはこちらです」とコメントを書いて回っていたのだ。
サトルくんの勇気ある行動とお父さんの陰の援助の甲斐あって、偽プロフがサトルくんのものではないことが証明された。誹謗(ひぼう)中傷コメントは削除され、謝罪も返ってきたので、確認したゴールは達成されたわけだ。
偽プロフは、更新されずに残された。
ほとんどの友達が当初のプロフが偽物だと分かった今となっては、偽プロフの存在はこっけいにさえ思えた。サトルくんもそのまま残しておいても気にならないという意見だったので、特にアクションは取らないことにした。
なんともあっけない幕切れとなった。しかし、まだサトルくんのお父さんの悩みは解決していなかった。その悩みについては、今回の気付きとともに次回紹介しよう。
→ネットファーザーの金言 最終回 ネットいじめに負けない親子交流法
著者プロフィール:吉田賢治郎
日本の大手SI企業にて、業務システム販売のトップセールスマンとして活躍後、初期のインターネット構築やグループウエアシステムの企画・商品化、販売促進などでソリューション推進部のリーダーを務める。
99年、ロータス株式会社に入社し、マーケティング本部 販売促進部長などを務めた後、2003年より現在の日本アイ・ビー・エム株式会社に勤務。
ITmedia オルタナティブ・ブログ『けんじろう と コラボろう!』で、ビジネススキル、コラボレーションソフトウェア、青少年のネット問題および家族について執筆して人気を博している。
著書に、『諭座 2008年9月号:ネット規制で子どもを守れるか』(朝日新聞出版)、『日本の論点 2009年度版:裏サイトから子どもを守るには〜子どもがネットのいじめにあったら』(文藝春秋社)、『子どもをネットから守り、ネットで育てる』(翔泳社)。
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