ネットでリアルを楽しくしたい:オルタナティブな生き方 栗原進さん(2/2 ページ)
SE出身の企業広報マンでありながら、趣味は落語で憧れの人はインディ・ジョーンズとアナログ全開の栗原さんに、ブログを書く理由やネットからはじまるコミュニケーションについて伺った。
社内募集でSEから広報へ
就職は、正直あまり深く考えていなかったんです。旅行に行ってて、帰って来たらみんなスーツを着てる。「何やってんの?」と聞いたら就職活動だって。気付いたころにはもう採用が終わっている企業も多かった。
学生時代、外資系企業でアルバイトをしたことがあったんです。外資系って社員同士が同僚の年齢を知らないんですね、仕事に年齢は関係ないからって。日本の企業だと、まず相手の年齢を聞いてポジションを確認してから関係が始まるところがあるけれど、外資系は自由だなと思って。漠然と就職するなら外資系がいいと思っていたところ、ご縁があって日本アイ・ビー・エムに入社しました。あ、残念ながら「2001年宇宙の旅」の影響ではないです(笑)(編集部注:映画に登場する人工知能を備えたコンピュータ「HAL 9000」は、IBMを1文字ずつ前にずらして命名されたとする説があります)。
最初は「システムズエンジニア(SE)」でした。最初のプロジェクトは開発が佳境の時期に入っていたので、土日もない状態。お客さま先に常駐していたので、ああここでお金をもらっているんだ、ちゃんとしないといけない、仕事をこなさなければいけない、といっぱいいっぱいでした。仲間は楽しい人ばかりでしたけれど、仕事を楽しむ余裕はまだありませんでした。
広報に異動したのは偶然です。たまたまお客さま先での開発が終わって次のプロジェクトが本格稼働するまで社内で待機という時期があったんですね。時間に余裕ができたので、初めて会社のイントラネットをあちこち見たんです。そうしたら社内人材募集があって、そのなかに広報があった。広報って、ちょっと面白そうだなぁと思って。
社内公募は誰にも知られずに応募できるシステムです。受かったときだけ上司に連絡がいくので、落ちたら何食わぬ顔してそのままそれまでの仕事を続けられる。だから誰にも言わずにこっそり面接を受けに行きました。面接では、書くことが好きだとか、金融担当のSEでそれしか分からないので会社の仕組みをもっと知りたいとかアピールした覚えがあります。そうしたら受かっちゃった。
同じ会社でも部門が違うとやることが全然違う。雰囲気も違うし、違う会社に入ったようで戸惑って、慣れるまでに少し時間がかかりました。でも広報に移ってからは仕事の時間配分が自分でできるので、落語や映画に行く時間を作れるようになりました。
仕事はそれなりにきついこともありますが、自分のアイデアで企画を提案できたり、実現できるところが楽しいしやりがいもあります。オルタナティブ・ブログの「ブロガーズミーティング」も、アイティメディアの編集者と話をしているうちに、「やりたいね」「やりましょうよ」で始めた試みなんです。アメリカでブロガーに記者証を出して取材活動を認め始めた、というニュースが聞こえてきた時期です。
ネットで世の中の役に立つには
広報として社内イントラネットの構築に2度ほどかかわってきました。今はイントラネットにうまくソーシャルメディアを取り込めないか考えているところです。
現場で役立つ情報は現場の人が持っているものだと思うんです。イントラネットでは世界中の社員が情報発信して共有している。でも現場の人はみんな忙しくて、イントラネットを見る時間もなかなか取れない。だったら入り口が外にあってもいいんじゃないかと思ったんです。イントラネットまでたどり着く時間もないなら、情報をTwitterで発信して、リンク先を社外にクローズドのイントラネットに置けばいいんじゃないかと。イントラネットの記事にさりげなくつなげることで、忙しい人に振り向いてもらえるSNSの使い方を考えたいです。
ブログもTwitterも、もっと普通の社員に活用してほしいんです。役員ではなくて普通の社員が情報を発信していく。「IBMの誰かさんが書いている」ではなくて、「○○さんって楽しいこと書いてるよね、彼ってIBMに勤めてるらしいよ」というのが理想です。そういう活動が、ひいては会社のブランディングにも役立つと思うんです。
IBMは『コーポレートシチズン』という考えを持っています。簡単に言うと、世の中の役に立つことをしよう、ということです。お客様の成功を支援し、株主に利益を還元することで役に立つのはもちろんなんですけれど、ネット上でも同じことができないか、IBMで働いているからこそ知ったことや考えたことを公開することで誰かの役に立てないか、そういうことをどんどんやっていこうと、こうした活動を支援しているんです。
世の中の役に立つ情報を発信する社員がいることは会社のブランド・イメージを高めます。実際、海外のエグゼクティブはTwitterやブログで情報発信をしています。
IBMは自社でメディアを持っていなかったので、ITmediaにオルタナティブ・ブログができたのはありがたかった。自社のカラーを付けずにオピニオンを書けるのがいいところです。だから自分でブログを書くのはもちろんのこと、ブログに興味を持ってる社員にも紹介しました。僕自身は、会社のことをよく知ってもらいたいとか、ソーシャルメディアへの取り組みとか、企業の一員としての使命感みたいなものを持って書いています。でも、人脈や考え方を広げるきっかけになるのはプライベートブログと変わりない。理屈はいろいろあるけれど、ブログは楽しいから書いています。人生は楽しまないとね。
栗原進氏 プロフィール
日本IBM、広報部門勤務。
イントラネットの再構築、ニュー・メディア・コミュニケーション推進などで八面六臂の活躍中。
ITmedia オルタナティブ・ブログでは企業広報として情報発信を行う『栗坊のマロン通信』を、プライベートでは旅や映画や落語などの自身がこよなく愛する世界を綴る『栗ッピング』を執筆中。
オルタナティブ・ブロガーインタビュー『オルタナティブな生き方』バックナンバー、栗原さんのブログ『栗坊のマロン通信』
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