不測の不具合が発生――相手にどう伝えるべきか?:ビジネスマンの不死身力
不具合が起こった場合、相手にその状況をそのまま伝えていないだろうか。顧客が本当に知りたい情報は実は別にある。今回は、相手の立場に立って的確な情報を伝えるための工夫をお伝えする。
少し考え方を変えることで、仕事を楽しく充実したものに。「ビジネスマンの不死身力」では、そのノウハウをお伝えします。
トヨタ自動車のリコール問題を受けた品質改善が大きな話題となっている。読者の皆さまの中にも、開発したソフトウェアやシステムの品質において、不具合を出した当事者になってしまった経験があるかもしれない。
不具合が出た時は、それを顧客に伝えないといけない。その時の伝え方1つで、相手の信頼を得ることもあれば、失ってしまうことにもつながる。そこで今回は、不具合を知らされる相手の立場を考えた物事の伝え方をお知らせする。
不具合を知らされた時の「顧客の気持ち」を考える
不具合の状況というネガティブなメッセージを相手に伝える上で最優先すべきは、知らされた相手の立場に立ち、望んでいる情報を伝えることだ。
例えば、PCに不具合があると聞いたあなたは、どんな気持ちになるだろうか。まず、PCを使い続けていても大丈夫なのか、どの機能が使えるのかなどと考えるだろう。仕事で毎日使う大切なPCならなおさらだ。
不具合を知らされると、誰もが不安になる。だが、この場合に伝えられる情報は不具合がいかに危険かというマイナス面を強調したものが目立っている。結果、どこまで使い続けていいのか分からず、さらに不安になり、問題のない部分の品質までも疑ってしまう。
このような場合にわたしたちが知りたいのは、「あなたのPCの機種は大丈夫です」「この機能は問題なく使えます」といった不安を埋めてくれる情報だ。
もしあなたが不具合を出した当事者になった場合、まずは顧客が安心できる情報の提供に努めよう。
不具合の当事者になった経験から学んだこと
わたし自身、不具合の当事者になってしまったことがある。24時間365日稼働する大規模な生産管理のシステム開発に携わっていた時のことだ。
ある日、わたしが作ったプログラムで不具合が発生した。幸い生産には影響しない軽微な不具合だったが、一刻も早く管理者に不具合を知らせようと思い、不具合の発生と問題点を知らせる電子メールを送った。
「システムの不具合が発生しました。問題があるのは○○機能です。現在、原因を調査しています」
即座に管理者から一報が入り、こんな指摘を受けた。「竹内さんのメールはありがたいけれど、不具合の報告だけでは余計に不安になってしまいます。現場としては生産を継続したいのです。知りたいのは、何が駄目なのかではなく、どこまでが大丈夫かなのです」
この時、相手が本当に求めている情報は「システムをどこまで安心して使えるか」であると気付いた。それ以降に不具合が発生した場合は、以下のような伝え方に変えた。
「システムの不具合が発生しました。○○機能は問題なくご利用いただけます。△△機能は問題があり、原因を調査中です」
まず相手が安心できる情報を提供してから、不具合を伝える。すると相手はシステムを安心して使い続けられる。この伝え方を徹底することで、情報の伝え方で指摘を受けることはなくなった。
当事者も問題の全体像が見える
どこまでが大丈夫なのかという情報を伝えることは、不具合の当事者にもメリットをもたらす。
不具合が発生すると、気持ちが焦り、問題点ばかりに意識が向きがちだ。だができている点を冷静に考えることで、不具合のすべてが問題ではないと改めて自覚できる。
生じた問題だけでなく、今できていることを意識すると、問題の原因を網羅的に考える習慣も身に付いてくる。問題点も早急に切り分けられるようになるはずだ。
システム開発で何度テストを繰り返しても、想定外の不具合は起こりうる。相手にとって影響が大きい危険性を知らせることは重要だ。だが相手がもっとも欲しているのは、安心できる情報なのだ。
「顧客の不安を解消する」という意識は、これまでのメッセージの伝え方を大きく変える。こうした配慮の積み重ねが相手を安心させ、さらなる信頼獲得にもつながっていくだろう。
著者プロフィール:竹内義晴(たけうちよしはる)
テイクウェーブ代表。自動車メーカー、コンピュータ会社を経て、現在は、経営者・起業家・リーダー層を中心としたビジネスコーチング、人材教育に従事。システムエンジニア時代には、プロジェクトマネジメントにコーチングや神経言語学を生かし、組織活性化を実現。この経験を生かして、クライアントの夢が現実になるよう、コーチングの現場で日々奮闘している。アイティメディア「オルタナティブ・ブログ」の「竹内義晴の、しごとのみらい」で、組織作りやコミュニケーション、個人のライフワークについて執筆中。
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