明らかになった富士通の野副前社長退任劇:Weekly Memo(2/2 ページ)
2009年9月に富士通社長を辞任した野副州旦氏と富士通の間で、実は辞任ではなく事実上の解任に至った経緯や理由をめぐる激しい対立が先週来、表面化している。
食い違う野副氏側と富士通の言い分
こうした経緯から、富士通は「当該企業が当社の事業に関与すること、または当社の代表取締役社長という立場にある者が当該企業と関係することがFUJITSU Wayの観点からふさわしくないというのは、あくまで当社の事業遂行上の、また、当社取締役会による代表取締役社長選定上の判断である」としている。
さらに「野副氏が何らかの違法行為や不正行為を行っていたというわけではなく、あくまで野副氏がとられてきた行動が、当社の代表取締役社長という立場から見てどうであったか。また、仮に当該企業の風評ないし評価が真実であった場合、当社にどのようなリスクを発生させるかという観点から、当社代表取締役社長という地位にある者はいかに対処すべきかという経営問題だ」と主張。
そうした観点から「当社代表取締役社長は万が一のリスクが重大であればあるほど、一片の疑いも持たれない行動を取るべきというのが当社の判断であり、野副氏もこれを十分に理解した結果、辞任されたものと理解している」とし、「事情を総合的に勘案して、当時、野副氏自身が体調を崩していた事実もあったことから、野副氏本人合意の上、辞任理由を病気として発表した」と結んでいる。
この富士通のコメントに対し、野副氏側の弁護士は具体的なポイントを指摘しながら、真っ向から反論している。
「調査結果など存在しない。野副氏は調査結果など見たことも聞いたこともない。もしあるなら社長の野副氏に最初に見せるべきだ」「事前に取締役会メンバーの過半数の同意を得た上で、とあるが、これは何の法的効力もない」「弁明の機会を設け、とあるが、解職を討議するのは取締役会であり、そこで弁明の機会を与えなければ何の意味もない」「違法行為や不正行為を行っていないなら、何が解職理由なのか」「辞任しなければ上場廃止になる、辞任しなければ解任すると言われたから辞任を受諾した。解任理由がなければ辞任などしない」「野副氏の弁明に関する箇所は全くの虚構だ」「体調を崩していた、とあるが、病気はない。診断書も存在しない」などがその内容である。
また、相談役職の解任についても「理由が不明」「本人に告知弁明の機会を与えていない」「野副氏は取締役会での弁明の機会を求めていたのに、(3月6日の臨時取締役会に)なぜ呼ばないのか」と反論している。
野副氏側の訴えで真相が明らかになった2009年9月の突然の社長退任劇。今後も双方の代理人を通じてやりとりが続けられることになりそうだ。さらに富士通にとっては、情報開示のあり方も問われる可能性がある。
今回の騒動は、富士通にとってイメージダウンになることは免れないだろう。ただ、富士通のことをよく知る業界の重鎮がこんなふうに語っていた。
「この際、何があったのかをすべて明らかにしたほうが、不可解な社長退任劇をそのままにしておくより絶対にいい。社員も取引先もそのほうが、あらためて富士通ブランドの信頼回復を真剣に考えるようになる」
富士通にはこれまでにも増して、ステークホルダーへの丁寧な説明を期待したい。
プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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