「実名・顔出し」というフリーミアムの形(2/2 ページ)
Webにおける新たなビジネスモデルとして、「フリーミアム」が注目を集めている。ループス・コミュニーションズは全社員が「実名・顔出し」で情報を配信する専用サイトを立ち上げた。ユーザーへの貢献を軸にした情報配信で案件獲得を見越す。情報の選別による新たなフリーミアムの形が見えてきた。
限界が見えた広告
Looops Trendsの実現を後押ししたのは、広告による案件獲得に限界が見えつつあったことだ。ソーシャルメディアでは、「ユーザーへの貢献」を念頭に置いた情報配信を続けることで、成約につながる案件が舞い込んでくる。
同社は2008年まで、Google AdWordsやOvertureへの広告で新規顧客を獲得していた。「SEOやSEMの広告費用は月平均55万円。問い合わせは14件で、問い合わせ単価は3万9000円」(斉藤社長)。だがループス・コミュニケーションズの主要顧客である「ソーシャルメディアに興味のある企業の担当者は広告をクリックしてくれない」。上昇する広告単価に反比例して、問い合わせの質は低下していったという。
新規顧客の開拓が新たな経営課題となる中、斉藤社長は2009年4月にブログを始めた。開始から4カ月間は月1500人程度の訪問者だったが、最新情報を盛り込んだ記事を出し続けたことが奏功し、12月には7万人にまで膨らんだ。ブログ記事をTwitterで配信することで、斉藤社長およびループス・コミュニケーションズの認知度も、じわじわと上がっていったという。
現在、斉藤社長の元には、ブログやTwitter経由で仕事の依頼が届く。電子メールでの問い合わせの多くはブログの読者。直近ではTwitterのダイレクトメールで月に約20件の問い合わせもあった。主な内容は、案件相談、パートナー希望、セミナー・執筆講演だ。
「月間40件の問い合わせのうち約20件が案件関連。受注確率を10%と見ると成約は2件。平均案件単価は500万円程度で、ほとんどが継続顧客になっている」と斉藤社長。大企業のソーシャルメディア活用など、ユーザーに役立つ情報を地道に更新し続けたことで、Twitterのリツイートなどでブログの口コミが広がり、「質の高い(成約に結び付く)案件獲得につながった」。ブログとTwitterによる情報配信に切り替えたため、現在の広告費はほぼゼロだという。
Looops Trendsは、斉藤社長が個人で行っているこうした取り組みを全社員に拡張する場とも言い換えられる。ちなみに同サイトの構築に費やした費用は「10万円程度」。ニュースサイトやブログの情報を「Google Reader」で共有登録し、専用のデータベースに蓄積。タグの自動付与などを行い「WordPress」を基に構築したLooops Trendsに表示する。「Reader2Twitter」というTwitterクライアントを使い、データベースの情報をTwitterでも配信している。Webの技術やサービスを組み合わせることで、コストを掛けずに顧客を開拓することが可能になる。
ソーシャルメディアにおけるフリーミアムの形
海外でも、Twitterで顧客を獲得するという成功事例が出始めている。納税申告の代理サービスを提供するH&R BLOCKやオンラインで物品の修繕を受け付けるHandyman Onlineなどは、利用者サービスとしてTwitterを使い、売り上げを増やしている。利用者とダイレクトメールやツイートでやりとりをして、潜在顧客にアプローチする手法だ。
だが、安易なソーシャルメディアの活用では成功は遠のく。斉藤社長は「誠実な対話姿勢を組織内で徹底する。この企業文化がないと逆効果になる」と話す。利用者に信頼してもらうためには、自らの身元を明かし、うそをつかないこと。またソーシャルメディアでのコミュニケーションを拒否せず、常に感謝の気持ちを持ちながら、問題が起きたときは迅速に対応する――といった姿勢が必要になるという。
「Twitterだと一瞬で数万人に情報が伝わる。うそはつけない」と斉藤社長。Looops Trendsでは、ページビューや利益は気にせず、信頼のある情報を伝えて利用者のリーチを広げるという軸をぶらさない。「利用者に貢献し、信頼関係ができれば、数%はビジネスの問い合わせにつながることはブログでも実証できたし、読者が口コミで評判を広げてくれる」と考えているからだ。
ソーシャルメディアは、Webサービスの提供や情報配信のコストをゼロに近づける。「実名・顔出し」を基に質の高い情報を無料で届け、案件獲得に結び付けるループス・コミュニケーションズの取り組みからは、「ソーシャルメディアを介したユーザーへの貢献」が本業に結び付くという新たなフリーミアムモデルが見えてくる。「今後2、3年で、多くの企業はユーザーに貢献して信頼を獲得するというビジネスにシフトしていくのではないか」と斉藤社長は話す。
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