グローバル化――そこに横たわる課題解決のために:対談
企業にとってグローバル化は避けては通れない道となっているが、それに伴うさまざまな課題もある。企業はこうした課題にどう対処すべきなのか。日本マネジメント総合研究所 理事長である戸村智憲氏に、アイティメディア ITインダストリー事業部 編集統括部長 浅井英二が聞いた。
(このコンテンツは日立「Open Middleware Report vol.52」をもとに構成しています)
海外進出によって企業の活動機会は広がるものの、拠点数の増加や国ごとに異なるガバナンスの在り方などによって、これまでの「常識」と異なる対応を迫られることも多く出てくるだろう。こうした点を整理するため、ここで改めて企業のグローバル化についての課題を理解しておきたい。
「外柔内剛」で現地の実態に即して適応する
浅井 国内市場が縮小傾向にある中で、日本の企業のグローバル化は大きなトレンドになっていますが、グローバリゼーションは今に始まったことではありません。よく「真のグローバリゼーション」と言ったりしますが、何をもって「真」なのでしょうか。
戸村氏 絶対的な解はないですが、妥当な答えとしては「環境適応」するということです。経営環境が変わったときに、そこへいかに適応するか。環境適応の「変わり方」が問われています。リスク管理にしろ、会計や人事、マーケティングにしても、経営理念を軸とした変わり方を考えていく必要があります。
グローバリゼーションは、多国籍化が必要になったという環境適応の一部でしかありません。グローバリゼーションの中に環境適応があるのではなく、環境適応の中にグローバリゼーションがある。ですので、グローバリゼーションに対して、国内に留まるという選択肢もあります。あるいは注目されている中国だけではなく、伸びしろのある別地域の新興国に打って出るという手もある。環境適応にはさまざまな選択肢があります。
浅井 海外進出というグローバリゼーションには、どのような準備が必要なのでしょうか。
戸村氏 さまざまなものがありますが、まずは人と人との接点における課題を解決することです。それは、例えば異文化理解や現地商習慣への備えや言語の問題など、つまりお互いに向き合っていく中で共通する「ルール」のようなものがないとやり取りは成立しません。太極拳と空手ではルールが違って試合にならないのと同様です。共通のルール作りが必要になってくるでしょう。
例えば市場における信頼性を高めるための共通基盤として日本にはJ-SOX法があり、異文化を持つ海外投資家からの信頼獲得への環境適応をしています。会計においては財務会計全体の在り方として「IFRS」が出てきました。IFRSは原則性を重視した共通基盤です。
ITについても同様で、全世界的に使えるもの、あるいは共通に使えて信頼するに足るものが必要です。ある国では使えてもほかの国では使えなかったといった問題が起こらないよう、共通部分とは別に現地で個別にフィットさせられるような、現地の経営環境に適応できるものであることも大切です。
浅井 グローバリゼーションに成功する企業と、失敗する企業とを分けるところはどこでしょう。
戸村氏 アレキサンダー大王は統治者=ガバナーとして数多くの国を治めました。押しつけるのではなく、宗教や文化といった現地尊重で環境適応してフィットさせるガバナンスの在り方を常に考えていました。軸としてまさに「外柔内剛」の考え方があったのです。
IFRSが世界に広がったのも、原則主義で外は柔らかく芯をしっかりするという考え方だからです。IFRSの原則は揺るぎません。例外はないのです。ただし、すべての判断は「実態に即して」個別にも対応されます。日本では日本の実態に即して会計処理されるということ。ギャップが出てくる中でいかに実態にフィットさせられるかがポイントです。
「差別化の逆機能」を現場第一主義で防止せよ
浅井 商品やサービスのグローバリゼーションという観点では、どのようにお考えでしょうか。
戸村氏 いろいろなパターンがありますが、やはり現地に根付いて伸びていくことを考えると、現地にフィットさせる取り組みをしていくことがポイントでしょう。国内で成功したものが海外でも必ず良いとは限りません。日本の携帯電話は高機能すぎて、海外では敬遠される傾向もあります。日本市場で売れるよう差別化したことが、世界の市場では“差別化の逆機能”に陥っているのです。
携帯電話の「メッカフォン」(韓国LG電子)はアラブ首長国連邦(UAE)などの中東・北アフリカ地域で爆発的に売れました。GPSと電子コンパスでメッカの方角がすぐ分かる製品です。GPSは日本ではナビとして多く利用されていますが、中東の人々にとっては自分の位置よりもメッカの位置が重要。現地のニーズをつかまないと製品は売れないということです。現地の生のニーズやインフラ成熟レベルや生活実態などにより、フィットする商品はまったく異なります。現地のことをよく分かった上でR&Dを行う「現場第一主義」が、グローバリゼーションで問われています。
浅井 現地化という観点では、各国には各国の制度、商習慣があります。ITに関しても、BtoBでは業界VANのような固有の取引の仕方があるでしょう。当然、文化も人の気持ちも、会社の制度も仕事のやり方も、そしてシステムに絡む部分も国によって異なりますので、そこにどう対応するかで皆さん悩まれているのではないかと想像します。国連で働かれていたご経験もお持ちですが、国ごとの差異とITについてどうお考えですか。
戸村氏 国連では6カ国語が公用語になっており、言葉の共通プラットフォームが選べるようになっています。英語だけが公用語ではないのです。わたしはこうした国連のような選択肢があってもよいと思います。日本語は公用語ではありませんが、日本における国連広報センターでは日本語で情報発信を行っています。つまり現地に合わせた対応を行っているわけです。
ITのあり方も同じだと思います。米国や日本のやり方、あるいはそのマインドで作ったITを、現地でも絶対使わなければならないとしたら、現地では表面上は形式的にシステム利用をしても、経営の実態にひずみが生じてダブルスタンダード化が起こるでしょう。ITガバナンス整備はあっても、実態としてはおかしくなっている。まさに「ガバナンス偽装」状態です。そうならないように、現地で細かく対応してくれるサービスを選ぶべきでしょう。
浅井 そうした現地の状況を理解して、本社と拠点との間でうまくITを管理していくためのポイントはどこにあるのでしょうか。
戸村氏 まずは、日本国内のやり方を完璧と思わず、もう一度確認してみることが大切だと思います。わたしは北海道から九州まで上場各社を指導していますが、IT統制とはとても難しいものだと感じています。例えばログを取得していてもログ管理はできていない、あるいはバックアップはあるがリストアが抜けている、といった企業が少なくありませんでした。
足元がボロボロの状態で外に出ていくことに大きな危惧があるのです。この状態で「とにかく現地にITを入れればよい」と考え、突き進んでしまうと収拾がつかなくなります。
はじめに自分たちの基軸となるような、ガバナンスの土台となるものをきっちりと固める必要があります。そしてその後、現地の環境が分かり、現地でのフィット&ギャップができる人たちとともに、最適なIT導入・運用をコツコツ進めることが重要だと思います。まずはきちんとした土台をベースにして、ITガバナンスの強化をすることが、つまずかないために必要なポイントです。
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