【対談企画】ユーザーに手間が掛からない運用管理を目指せ:中小企業の活力を高めるIT活用の潮流(2/2 ページ)
中小企業のIT事情をよく知る専門家に、中小企業のセキュリティ対策やクラウドサービス活用などについて話を聞いた。
経営者が相談できる相手になれ
岩上氏 運用管理のソフトウェアベンダーにとって、年商5億〜50億円という規模のSMB市場は手付かずで何とか開拓したいという思いがあるものの、いまだ提案が進んでいないという状況にあります。必要性の有無を含めて、PCの運用管理や資産管理のツールを中小企業に浸透させるには、どうすればいいでしょうか。
廣木氏 運用管理ツールに限らず、ベンダーの営業担当者はどうしても製品を売るということだけに意識が向かいがちです。中小企業に対しては、営業目線を持つ前に、まずはITや経営など何でも相談できる相手として向き合うことが大切です。中小企業の経営者も本当はいろいろと相談したいのですが、ベンダーに話を持ちかけると身分不相応な製品を提案されるのではないかという懸念を持っている方もいます。今後ベンダーは、その点をいかに払拭していくかが問われます。
中小企業はクラウドサービスの使い勝手を重視
岩上氏 運用管理については、クラウドの活用も注目を集めています。業務システムのクラウドサービスに加えて、クライアントPCをクラウドで管理するようなサービスもあります。ユーザーに話を聞くと、システムの運用管理は大変なのだが、そうかといって管理をすべて外部業者に任せてしまうのも不安だという声があります。そのあたりをどのようにお考えでしょうか。
廣木氏 以前と比べると、クラウドサービスを使って企業情報を外部のデータセンターに預けることを気にしない企業が増えているようです。しかし一方で、クラウドサービスを利用する際の操作方法が複雑だったり、少しでも作業を手間に感じたりしてしまうと、中小企業のユーザーは途端に使ってくれなくなります。
岩上氏 やはりサービスの使い勝手は非常に重要なのですね。クラウドサービスを提供する側にとっては問題視しないことでも、ユーザーにとっては大きな障壁に感じたりするのは事実です。
ただ、そうした市場の声を受け止めて、提供側もさまざまな工夫を始めています。例えば、クラウドにつながったオンラインストレージであるにもかかわらず、見た目はLAN接続型のハードディスクであるため、ユーザーは従来と変わらない操作方法でデータのバックアップを取ることができるサービスや、複合機と連携したサービスなどさまざまなクラウドが登場しています。
ユーザーが負担にならない運用管理サービスを創出することがベンダーの新たなミッションであり、ビジネスチャンスであると言えるでしょう。
廣木氏 クラウドやSaaS(サービスとしてのソフトウェア)といえば、経済産業省が主体となって提供する中小企業向けサービス「J-SaaS」などが出てきています。これからは、国や自治体がもっとITの重要性を中小企業に啓蒙していくべきだと思います。ITの利活用により業務を効率化し、少しでも利益を出していかなければ、中小企業はどんどん縮小してしまいます。現状、私が活動している荒川区や墨田区でも廃業率が高まっています。
ベンダーにはITの啓蒙活動を地域ごとに行うなどの草の根運動を展開してもらいたいですね。せっかく中小企業を回っているのであれば、われわれのようなITコーディネータと連携したり、地方自治体や商工会議所、信用金庫などIT以外で中小企業と結び付きがある組織と協力したりすると、よりビジネスに付加価値が生まれると考えます。
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