市場を絞ると、トップシェアが見える:バリュープロポジション戦略 50の作法
市場を大きく考えるほど顧客ニーズはぼやける。徹底的に特定の顧客ニーズについて考え抜くことが、競合を圧倒するダントツのトップシェア獲得につながっていく。
連載「バリュープロポジション戦略 50の作法」について
本当の顧客中心主義満足とは何か?――。連載「バリュープロポジション戦略 50の作法」は、欧米発のバリュープロポジションというフレームワークをベースに、日本が昔から持っていた顧客本位の考え方を見直し、マーケティング戦略を構築・推進するための50の作法をまとめた書籍『バリュープロポジション戦略 50の作法』の一部を加筆・修正し、許可を得て掲載しています。
私たちは、市場を大きくすれば、ビジネスも大きくなっていくと思いがちです。しかし市場を大きく考えると、顧客ニーズはぼやけてしまいます。逆に、特定ニーズに絞って顧客に価値を提供することを考え、成功している事例はたくさんあります。
例えば、業務用ミラーという市場があります。業務用ミラーとは、コンビニエンスストアや書店の天井際でよく見かける凸面鏡、あるいは駅や工場で防犯や安全確認、作業効率向上のために使われている鏡などのことです。この市場規模は非常に小さなものです。
社員14人のコミーはこの市場で、実に8割以上の日本国内市場シェアを誇っています。さらにエアバス、ボーイングといった大手グローバル企業でも、コミーの商品は大量に採用されています。
コミーが「気くばりミラー」と呼ぶ商品群は、単なる鏡ではありません。平面なのに広い空間を確認できる「FFミラー」、天井に設置し360度見渡せる「ドームミラー」。コミーしか提供できない、顧客の細かいニーズをとらえたユニークな商品ばかりです。
「他社との競争は嫌い。顧客ニーズに集中して、商品を開発したい」という社長の小宮山栄さんは、気くばりミラーでどのようによりよい社会を作っていくか、顧客目線で常に考えています。
市場規模がそれほど大きくなく、顧客のことを熟知し、技術力を持つ圧倒的なリーダー企業がいるので、他社はこの市場に参入しません。投資に見合わないからです。
ここから学べることは、顧客ニーズが明確なニッチ市場を狙い、顧客満足度を高めることで、事業が成功する可能性も高まる、ということです。さらに競合が少ないので、ダントツのシェアを獲得することで、常に顧客ニーズに集中し、顧客に圧倒的な価値を提供できるようになるのです。
顧客ニーズが明確に見えていることが、成功のカギなのです。
バリュープロポジション戦略 50の作法
著:永井孝尚
オルタナティブ出版
2011年3月30日
1260円(税込み)
マーケティング戦略を構築・推進するための50の作法を、バリュープロポジションという切り口で、さまざまなマーケティング理論を網羅しつつ、日本の事例を中心にまとめた、マーケティング担当者必読の書。
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