最後によかったなーと思える人生を:オルタナティブな生き方 村上福之さん(3/3 ページ)
オーストラリアの永住権も取った。会社も興した。結婚も(離婚も)した。そして今、日本のためにやりたいことが村上福之さんにはある。
愛(と場所)を求めて、東京へ
「永住権ってPDFなんですよ。住んでなくてもくれるっていうので帰ってきちゃいました」。専門分野での永住権取得というと、ものすごいことのように思うのだが(実際にものすごいことであるのだが)、本人もオーストラリアもあっさりしたものである。
大阪の実家に帰った村上さんは、またヒマになってしまった。そこで会社でも作ろうかと思い立った。どうも彼はヒマになると、ドデカイことをしでかす癖があるらしい。会社を設立するためには経済産業省に申請するのだが、申請中は相変わらずヒマだったので、人材派遣会社に登録してプログラマとして働くことにした。
派遣先に行くと、どうもトラブっているようだった。先に納品したプログラムに欠陥があったらしく、修正するしないで揉めている。できるできないとやりあっている様子を見て焦れてしまった村上さんは、またコードを自分で書いてしまった。
派遣社員でありながらプロジェクトで外せない存在になってしまった。そうこうしているうちに申請が通り開発会社を設立、最初のクライアントはそのとき働いていた派遣先だった。
新会社では、PDAの電子書籍クライアントや携帯サイトなどを開発した。流行りのWeb制作にも手を出してみたが、価格のたたき合いになっているので早めに撤退した。このとき「競争が激しいところに行ってはいけない。独自のことをやらなければいけない」ということを学んだという。
そうこうするうちに、他社でボツになった動画配信システムで経済産業省のビジネスプランコンテスト「DREAM GATE GRAND PRIX 2007」に応募したところ、2位に入賞した(1位はナノ粒子の量産プラン)。そのとき審査員だったGMOインターネットの熊谷社長に誘われ、上京することになる。「金はいらないから愛が欲しい。それと場所が欲しい」と訴えたところ、社長室の横の場所(渋谷のGoolgeのビルの上の階)を貸してもらえた。
ちなみに、村上さんが“総裁”と名乗るようになったのは、このときからである。同じく審査員だったタリーズコーヒージャパンの松田公太さん(当時)が、「代表取締役社長チーフバリスタ」と名乗っていて、「ああ、役職って何を名乗ってもいいんだな」と思ったからだという。
これやってよかったねーと言える人生を
大阪で生まれ育った村上さんにとって、東京の人はだいぶ勝手が違った。二言目には「インプレッション」を口にするインターネット業界の人も不思議だった。村上さんがいたメーカーの世界では、世の中の役に立つことをしたいと言いあってきたからだ。でもブログを書くことでいろいろな人と知り合うようになった。仕事もたくさん来るようになった。
村上さんは今、日本のためにやりたいことがあるという。
「地方と都会との情報格差をどうにかできないかと、考えています。東京の仕事がちゃんと地方の人に行く仕組み――クラウド・ソーシングを作りたい。今は国外にふっている仕事を、国内に回せるようにしたいんです」(村上さん)
「自分は人生に執着がない」と村上さんは話す。「死んだときに、よかったなーと思えたらいいんです。これやってよかったねーって」。
「パソコン触ってコロコロしてることに勝るものはない」という村上さんは、根っからの技術者だ。そしてその技術の力で、IT業界を、日本を、もっと良くしていきたいと真剣に考えている。
村上福之氏 プロフィール
株式会社クレイジーワークス、代表取締役 総裁。
家電メーカー系エンジニアでプリンタやSDカード関連の開発に従事。ケータイのアプリやサイト、電子書籍のシステムなどに詳しい。最近、断食にはまっている。
オルタナティブ・ブロガーインタビュー『オルタナティブな生き方』バックナンバー、オルタナティブ・ブログ村上福之の「ネットとケータイと俺様」
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