パブリックデータを活用した新たな街づくり:クラウド ビフォア・アフター(3/3 ページ)
医療や教育などの社会問題の解決に向けて、パブリックデータの活用に注目が集まっている。われわれは多種多様かつ膨大なデータをいかに扱っていくべきだろうか。
政府が進めるICT街づくり
総務省は2013年6月28日、東日本大震災を踏まえた防災・減災対策、少子高齢化社会への対応、コミュニティの再生などの課題解決に向けて、センサーやクラウドなどのICTを活用した災害に強く成長するICTスマートタウンの実現に向けた「ICT街づくり推進会議」報告書を公表した。
総務省では、東日本大震災の経験などから、ICTを活用した災害に強い街づくりや地域コミュニティ再生のためのICTスマートタウンの実現に向けて、共通IDや地理空間情報、センサーなどのリアルタイムデータやオープンデータの活用、そして、共通プラットフォームの環境整備の重要性を示している。
総務省が推進する共通プラットフォームは、行政機関が保有する住基、税、介護などのデータ、病院、交通機関などが保有する医療、交通などのデータ、各種センサーから収集されるリアルタイムデータなどをできるだけオープンにし、民産学公官が利活用、相互連携するための情報連携基盤と位置付けている。
総務省は2013年6月7日、「平成24年度補正予算「ICT街づくり推進事業」に係る委託先候補の決定」を公表し、北海道から沖縄までの21件が採択されている。今回の採択事業で特徴的なのは、ICT街づくりにおいて、共通IDなどと連携しながら、オープンデータや公共分野のビッグデータであるパブリックデータを活用していこうという動きだ。
例えば、三重県玉城町では、住民情報関連データ、オンデマンドバスの利用データ、行政情報提供データ、住民が各種サービスを利用することで発生する行動(履歴)データなどを蓄積させ連携可能な「玉城町きずなビッグデータ」を共通プラットフォーム上に構築する。
玉城町では、民産学公官による「玉城町きずなビックデータ利活用協議会」(仮称)を設立し、利用ルール作りと応分の運営費負担、 個人情報保護などセキュリティに配慮した上での安全な運用環境の維持などの活動を行なっていくという。
玉城きずなビックデータを活用した事業では、玉城町「きずな」ポータルサイトを構築し、地域住民に対して、要援護者通信(大丈夫コール)やオンデマンドバス(元気バス)や、健診情報通信、防災情報通信(注意コール)、自治体情報通信(元気コール)などの情報提供をしていく予定だ。
新たな街づくりのためのニーズ、価値の高いデータの活用
日本経団連が2013年3月に公表した「公共データの産業利用に関する調査結果」では、公共データの種別のニーズでは、地図・地下(59件)、交通(43件)、防災・保安・安全(38件)に関するデータ、医療・介護(30件)、統計・調査(30件)が上位となっている。
また、2013年6月に英国で開催されたG8サミットにおいて、「オープンデータ憲章」への合意が発表され、G8各国が公開すべき「価値の高いデータ」として、地球観測、教育、エネルギーと環境、地理空間、健康、統計、科学と研究など14分野のデータが明記されている。
これらのニーズの高い、価値の高いデータを地域の街づくりのどのように利活用し、社会問題の解決、地域活性化や地域経済の発展、さらには新たな付加価値の創出(コトづくり)につなげていけるのか、今後の街づくりにおいて、パブリックデータ活用は重要なテーマの1つとなっていくだろう。
著者プロフィール:林雅之(はやしまさゆき)
国際大学GLOCOM客員研究員(ICT企業勤務)
ITmediaオルタナティブ・ブログ『ビジネス2.0』の視点
2007年より主に政府のクラウドコンピューティング関連のプロジェクトや情報通信政策の調査分析や中小企業のクラウド案件など担当。2011年6月よりクラウドサービスの開発企画を担当。
国際大学GLOCOM客員研究員(2011年6月〜)。クラウド社会システム論や情報通信政策全般を研究
一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) 総合アドバイザー(2011年7月〜)。
著書『「クラウド・ビジネス」入門』
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