営業が心掛けるべき 2つの「治」と3つの「則」:ITソリューション塾
優れた営業を行うためには、「治」と「則」のどちらかが欠けていてもいけない。今回はこの点について解説する。
営業の仕事には、2つの「治」と3つの「則」がある。
2つの治とは、お客様を治めることと、社内を治めることだ。
お客様を治めるとは、お客様の意思を自分たちに向けさせ、受注、契約という行動を起こさせること。さらには、お客様の意欲を高め、それを維持し、人間関係を良好に保ちながら、デリバリーの共同作業を確実に完遂することにある。
一方、社内を治めるとは、プロジェクトを受注に導き、デリバリーを成功させるために、社内、社外のリソースを引き出し、適時、適材、適所にそれらを配置することだ。
この2つの治を行う上で必要な共通の三原則がある。それが、3つの則だ。
まず1つは、「あるべき姿」を明確にすること。次に、これを合意し共有すること。最後は、自発的な行動を引き出すこと。
あるべき姿を明確にすることについては、今までにも幾度となく書いてきた。つまり、手段が何かではなく、その手段の先にある結果にどのような姿を描くかということ。手段は、あるべき姿を明らかにした後で、最適なものを考えればいい。
ここは、往々にして間違えるところである。例えば、「新製品が出たから売らなければ……」ではなく、「このお客様は、きっとこうなることを望んでいる。ならば、どういう方法があるだろうか、この新製品は使えるだろうか」という考え方だ。
次にこれをお客様とも、社内の関係者とも、あるいは、パートナーの方々とも合意することである。
どれほど素晴らしいあるべき姿を描けても、こちらの思い込みではプロジェクトは進まない。まずはその実現を目指すことを、関係者一同、合意すること。思い込みと押し付けは禁物だ。また、たとえいったん合意できても、状況は、常に変化しており、完全にそれを固定することはできない。
しかし、求める結果、つまり、あるべき姿は、そんなに大きくぶれるものではない。というより、ぶれないあるべき姿をつかめるように、早い段階でしっかりと関係者と議論し、合意することが大切だ。ここがぶれなければ、状況の変化に応じて、手段やスケジュールを変えざるを得なくても、そこに合理的な理由があれば、お互い納得できるだろう。「軸がぶれない」という言葉があるが、まさにこれだ。
あるべき姿が明確であり、それを関係者が共有できていれば、お客様、そして社内外の関係者は、到達点が明確であるから、意識を集中でき、意欲も高い。
また、途中経過や課題など、状況を正直に全て共有することも大切。「まずいこと」こそ共有する。それこそが、相手との信頼関係を築く基本と心得るべき。お互いにまずいことは避けたい。だから協力して解決を急ぐべきだし、共有が必要になる。ここを隠したり、抱え込んだりしてしまうと、まずいことはますます深刻になり、手遅れになることもある。勇気を持って共有することが、結果として、全員の幸せになる。
このような2つの原則を貫けば、自ずと仕事の意欲は高まる。それは、自発的な行動を促すことになる。また、あるべき姿が明らかであるから、その完成度を高めようと、知恵を絞り、工夫も生まれ、自ずと質は高まる。
当然、お客様の満足度も高まり、会社にも、パートナーにも利益をもたらすだろう。
何よりも、このプロジェクトで働く人は、幸せになる。自分の役割を自覚し、力を発揮できるわけで、人生において、意義ある時間を過ごせる。
営業の仕事とは、この2つの治と3つの則を管理し、確実に遂行することと意識してみてはいかがだろう。
※本記事は斎藤昌義氏のオルタナティブ ブログ「ITソリューション塾」からの転載です。
斎藤昌義
ネットコマース株式会社・代表取締役
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業を担当後、起業。現在はITベンダーやSI事業者の新規事業立ち上げ、IT部門のIT戦略策定やベンダー選定の支援にかかわる。
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