- 営業にもっと危機感を持たせたい
- 新規顧客を獲得できる営業を育てたい
- 戦略的な思考でお客様にもっと食い込める人材を育てたい
だから、是非そんな研修をお願いできないだろうかという相談をいただくことがある。仕事だから喜んでお引き受けいたします、と申し上げたいところなのだが、「本当にそれでいいのでしょうか?」と、ついつい本音を申し上げてしまい、ご期待に反することもしばしば。
研修にご参加いただければ、大いにモチベーションも上がり、「よーし、明日から頑張って実践しよう!」と気持ちを鼓舞することはできる。しかし、上司や経営者が、同じ思いを共有できていなければ、思い通りには進まない。
また何かを売ろうにも、あるいはサービスを提案するにも魅力的なものが提案できない、あるいはエンジニアが動いてくれないなど、ここにも壁がある。
営業は研修を受けて、真実の眼が開かれてしまったとしたら、今まで通りでは納得も満足できないだろう。そうなると、「だからうちは駄目なんだ」とストレスを募らせ、「仕方がない、郷に入れば郷に従え」となって意気消沈。効果どころか逆効果になりかねない。
営業力とは、決して営業職の能力ではない。営業力とは、会社の能力であり組織の能力だ。営業という仕事は、営業職だけではなく、経営者もエンジニアも一緒になって行なうべき仕事だ。しかし、現実には、「営業職の能力」=「営業力」という思い込みに支配されているのではないかと思うことがある。
経営者や管理者にしてみれば、業績が上がらないことを営業の能力の問題にした方が、自分の気持ちも楽になり、責任転嫁もでき、言い訳もできる。しかし、それでは本当の営業力強化にはならない。
営業の仕事の目的は、「お客様の価値を高め、お客様の感謝を手に入れること」だ。モノやサービスはその手段であり、突き詰めればお金をいただく手段だ。これを実現するための経営者の役割とは何か、管理者やエンジニアは、どのように役割を果たせば良いのか。それを議論しないままに営業の役割だけが先行し、プレゼンテーションやコミュニケーション、交渉術などのスキルを身に付けても営業力は強化されない。
ITが今よりもっとシンプルで、需要が供給を大きく上回っていた時代であれば、お客様も営業も必要としているものがすぐに分かった。難しい差別化は必要なく、金額と納期、あるいは、人を手配できるかできないかが差別化の手段だった。営業は、お客様との関係を大切にし、期待に応えることが業績に直結していた。言うなれば、「御用聞き」が確実、丁寧にできる「営業職の個人力」が求められていた。
しかし、ITビジネスが複雑になり解決策の選択肢が多様化し、その組合せも複雑化している。またスピード、変更や変化への柔軟性、ガバナンスやセキュリティなど、お客様の期待についての重み付けが変わってしまった。そのため、差別化の源泉も大きく変わり、また、提供するサービスや商品が簡単には決められない状況となっている。もはや営業職個人の能力に頼っていては、お客様に満足いただける提案ができない時代になっている。
売れないのは営業力がないからだと嘆く経営者や幹部がいる。しかし、それを、営業職の能力がないことを嘆くべきではない。むしろ、自分自身の「営業力」についての常識が陳腐化し、時代にそぐわないものになっていることを嘆くべきだろう。
会社としての営業力、組織としての営業力。改めて真剣に考えてみてはどうだろうか。
※本記事は斎藤昌義氏のオルタナティブ ブログ「ITソリューション塾」からの転載です。
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