“現代版ゴールドラッシュ”に沸く惑星探査ロボットビジネス:宇宙ビジネスの新潮流
人類移住や資源開発などを目的に、ロボット技術を駆使した無人惑星探査ビジネスが始まりつつある。実際に関連法案の議論が米国では進んでいるのだ。
前回は、近年加速する宇宙とITの融合について、特に地球近傍の衛星ビジネスを取り上げた。今回は惑星探査ビジネスを紹介したい。
現代のゴールドラッシュ
惑星探査というと2010年に地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」のように科学探査のイメージを持たれる読者も多いかと思うが、米国を中心に将来的な人類移住や資源開発などを目指した無人惑星探査ビジネスが始まりつつあり、昨今話題のロボット技術との融合が進んでいるのだ(なお、有人の宇宙旅行や惑星移住に関しては別項でお伝えしたいと思っている)。
例えば、米Google創業者のラリー・ペイジ氏や同会長のエリック・シュミット氏の支援を受けている資源探査ベンチャーの米Planetary Resourcesは、日本のはやぶさが先鞭をつけた小惑星での鉱物資源採掘を目標としており、こうした取り組みを「現代のゴールドラッシュ」と評している。
具体的には、小惑星に含まれるプラチナなどの希少金属や、宇宙空間でのロケットの燃料補給に活用可能な水素と酸素などが狙いだ。同じく小惑星資源を狙う米Deep Space Industriesは「我々は宇宙空間におけるオアシスやガソリンスタンドのような存在になるだろう」と言っている。
こうした動きと呼応するように、米国では資源探査の法的根拠の整備として、「American Space Technology for Exploring Resource Opportunities in Deep Space(ASTEROIDS)Act of 2014」という法案の議論が既に始まっており、民間ビジネス育成の大きな後押しになる可能性がある。
月面探査も熱を帯び始めている。昨年12月に中国の無人着陸船「嫦娥3号」が月面着陸し、搭載していた無人走行ローバー「玉兎号」を走らせて注目を集めたが、民間ビジネスの動きも活況を呈している。有力ベンチャーの1つ、米Astrobotic Technologyは月面探査のための無人着陸船と無人走行のローバー(探索車)を開発した。NASAと多様な契約を交わしており、民間顧客向けには月面までの物資輸送サービスを1キログラム当たり120万ドル(地球と月の距離は約38万km)という価格で募集している。そのサービス内容は、輸送に加えて電力供給や通信機能など各種インフラ機能も含まれる。現時点で公表されている最初のフライトは2015年で、打ち上げロケットはイーロン・マスクが率いるSpaceXだ。
今年5月に大塚製薬が発表したポカリスエットを月面まで輸送するプロジェクト「LUNAR DREAM CAPSULE PROJECT」でも、実際の物資輸送を担うのはAstroboticだ。
こうした惑星探査を行うために必要なのが、打ち上げロケットなどに加えて、惑星に降りるための着陸船や、惑星で実際に探査を行う無人走行ローバーといった多様なロボットである。しかし、開発のためにはさまざまな技術的課題がある。無人走行ローバーであれば、地球と惑星の間で通信遅延が必ず起きるため、自律走行技術や遠隔操作技術などの技術的チャレンジが求められる。
従来、技術開発の中心はNASAであった。NASAは火星探査としてソジャーナ(1997年着陸)、スピリット、オポチュニティー(2004年着陸)、キュリオシティー(2012年着陸)など無人走行ローバーの開発と実用に成功しており、特に、オポチュニティーは今年7月に累計25マイル(40km)を走行し、無人走行ローバーによる地球外の走行距離記録を41年ぶりに塗り替えた。こうしたプロジェクトの中で自律走行技術をはじめとするさまざまな技術が磨かれてきた。
地上でのロボット技術を宇宙に
このような流れに加えて、昨今は地上のロボット技術の転用も進み始めている。米DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:国防高等研究計画局)による自動走行車やロボットの開発コンテストは有名な取り組みであるが、先ほど紹介したAstroboticは、実は2004年の「グランド・チャレンジ」で準優勝、2007年「アーバン・チャレンジ」で優勝をしたカーネギーメロン大学のウィリアム・レッド・ウィタカー教授が技術開発をリードしている企業なのだ。
2004年の「グランド・チャレンジ」では、砂漠のような不整地を走行するSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれるキーテクノロジーが注目された。これは無人走行車がレーザーレンジスキャナー、カメラ、 エンコーダなどを使い、自己位置推定と環境地図作成を行う技術である。
また2007年に行われた「アーバン・チャレンジ」は、市街地を想定した環境の中で車両を自律走行させる競技で、これをきっかけに車の自律走行や安全支援技術の展開に拍車がかかった。実際、参加していたカーネギーメロン大学やスタンフォード大学をGM、VW、Bosch、Continentalなど大手自動車メーカーやサプライヤーが支援している。また、両大学の一部メンバーがGoogleに引き抜かれ、先日発表された自動運転カー「Google Car」の開発にも携わっているのだ。
Astroboticはこうした地上ロボット技術の開発コンテストを通じた技術開発を、惑星無人走行ローバーなどの自律制御などに転用しており、現在の月面輸送ビジネスへとつなげてきているのである。このように、無人惑星探査を行うための各種技術は、NASAを中心とした従来の取り組みに加えて、地上ロボット技術の転用も大きな流れとなっており、双方が高い相乗効果を生み始めている領域なのである。
こうした流れをさらに加速させる取り組みとして、連載第1回でも少し触れた、米XPrize財団が主催し、Googleがスポンサーする「Google Lunar X Prize(GLXP)」という月面無人探査レースが現在行われているのだ。次回はこの取り組みに関して具体的に紹介したい。
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