富士通が法人向けPCを積極的にアピールする理由
スマートフォンやタブレットの普及、製品の低価格化などにより、PC市場の厳しさは増す一方だ。そのような状況下で、富士通は個人向けよりも法人向けPCの訴求を強めている。その背景には、自社独自の先端技術で差別化を図りたいという狙いが見て取れる。
ここ数年、PC市場を取り巻く環境は厳しさを増している。スマートフォン、タブレットの普及やPCの低価格化により、販売台数が減少しているためだ。IDCは世界のPC出荷台数が今後減少すると予測しており、日本でもWindows XPのサポート終了以降、PCの出荷台数は前年同期比で減少傾向にある(JEITA調査より)。
こうした状況の中、比較的売り上げが安定している法人向けPCの訴求を強めるPCベンダーもある。1月20日に新製品発表会を行った富士通は、個人向けPCで新機軸の製品を投入するとともに、法人向けPCの進化を強く訴求していた。
同社は2014年に経営方針を発表しているが、その成長戦略として「ビジネスイノベーション領域の拡大」を挙げており(関連記事)、中でもクライアントの“ワークスタイル変革”に注力するという。IoT(Internet of Things=モノのインターネット)時代に合わせたワークスタイルを実現するため、新たなビジネス用デバイスやビッグデータの活用を進めていく構えだ。
「ビジネスPCはこれまでオフィスのデスクワークでのみ使われてきたが、出先の営業や現場での作業といった場所でも使われるのが一般的になり、業務効率化や業務スタイルの革新に応用されるようになった。ウェアラブルを中心とした新デバイスの開発も進めている」(同社執行役員常務 ユビキタスプロダクトビジネスグループ グループ長 斎藤邦彰氏)
セキュリティを強固にする「手のひら静脈センサー」
こうした業務効率化を実現する新技術とともに、ビジネスの現場で重要なのがセキュリティだ。情報漏えい事件が話題にのぼることが多い昨今、情報セキュリティ対策は企業にとって必須の業務となっている。斉藤氏も「ビジネスを行う上ではセキュリティは欠かせない。セキュアな運用環境を支えるソリューションとして、富士通はリモートデータ消去システム『CLEARSURE 3G/LTE』や認証ソフトウェア『SMARTACCESS』を提供している」と話す。
こうしたソフトウェア面でのサポートとともに、今回発表した新製品では、世界最小(2014年10月現在、富士通調べ)となる「手のひら静脈センサー」を搭載可能なPCやタブレットを発表している。
富士通がアピールする、手のひら静脈センサーや指紋センサーといった生体認証システムは他人の“なりすまし”によるログインを防ぐ効果が高い。特に手のひら静脈センサーについては他人受入率は0.00008%以下としており、照合時間も約0.8秒で済む。エラー率も2%程度と指静脈認証と比べて低いという。ユーザーIDとパスワードによる管理へのリスクが叫ばれている昨今、法人向けPCに強固なセキュリティを担保する生体認証は必須の技術になりつつあるようだ。
そして、こうした安全を支える技術が求められるのは法人に限った話ではない。BYODなど個人向けデバイスがビジネスの場に入ってくる昨今、個人向けデバイスにもセキュリティは求められるようになっている。
「パーソナル機器に求められる価値として、近年は法人向けと個人向けで共通する要素が出てきた。それはいつでもどこでも安心、安全に使えること。これを富士通製品共通の付加価値としている」(同社執行役員 パーソナルビジネス本部本部長 竹田弘泰氏)
製品発表会ではセキュリティ対策のほかに、法人向けタブレットでは工事現場などに求められる防水防じん設計や、医療現場や飲食店などで求められる耐アルコール性にも触れ、「ビジネスのニーズが多様化する中で“顧客がやりたいこと”をいち早く実現するのがわれわれの使命」と竹田氏は述べた。
「PC市場の活路はまだある」
顧客のビジネスに合わせた高度な先端技術を導入すること――これが富士通が他社製品と差別化を図るポイントとなりそうだ。PCやタブレットは差別化が難しいとされるだけに、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた新たな価値を提案するのが重要となる。また、デバイスを国内で生産していることも重視しているという。
「PC市場は厳しいという声もあるが、まだまだいけると思っている。個人向けでは新たなジャンルのマシンを打ち出しているし、法人向けについても見込みがある。富士通はmade in Japanで生産しているほぼ唯一のベンダーだ。今まで法人PCというのは用意したモデルを大量生産するというスタイルをとってきたが、これからは顧客の要望に応えるカスタマイズが重要になってくるだろう。国内生産から生まれる品質の高さを生かし、垂直統合型のビジネスをさらに突き詰めるなど、やれることはまだある」(斎藤氏)
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