オールジャパンで取り組む「IT農業」の潜在需要:Weekly Memo(2/2 ページ)
産官学が連携したオールジャパン体制による農業IT化の取り組みが加速している。その潜在需要は「グローバルで340兆円市場が対象」との見方も。どういうことか。
IT農業のノウハウもグローバル展開へ
政府が打ち出した農業情報創成・流通促進戦略における同コンソーシアムの役割については、まず「農業情報の相互運用性・可搬性の確保に資する標準化や情報の取り扱いに関する本戦略に基づくガイドラインなどの策定」を目的としている(下図参照)。
また、政府は同戦略を推進することによって、「関連産業の高度化」「市場開拓・販売力強化」「農業の産業競争力向上」の3つに影響を広げていきたいとしている。
それらに対して同コンソーシアムは、関連産業の高度化に向けては「流通した情報・ノウハウの利活用による農業機械や施設のソリューション展開」、市場開拓・販売力強化に向けては「付加価値情報(特別な品質や栽培方法など)の流通による農産物の評価の向上、海外市場拡大」、農業の産業競争力向上に向けては「AI(人工知能)など農業情報を活用したビジネスモデル構築・知識産業化」に注力していく構えだ。
同コンソーシアムではこのほか、ITによって農業界・産業界全体で効果を得られる社会情報インフラとしての農業IT産業デザインや、農業経営体が他県や他国に進出することに対応できる経営デザインなどからなる「農業IT産業グランドデザイン」の立案にも取り組む。こちらも1年後(2016年)の立案をめどとしている。
かなり大がかりな取り組みである。果たしてこの取り組みの潜在需要はどれくらいあるのか。この点について、来賓としてあいさつした農林水産省の針原寿朗農林水産審議官が次のような見解を示した。
「ビッグデータを活用できるようになれば、農業は生産性や品質がさらに向上することが期待できる。新しいビジネスもどんどん創出されるだろう。日本の農業生産額はおよそ8兆円だが、農業のIT化が対象とする市場はこれだけにとどまらない。国内の食のバリューチェーン全体の市場規模はおよそ100兆円に達する。ぜひ、この市場を対象にして取り組んでいただきたい」
さらに針原氏はグローバル市場にも話を広げ、「グローバルでの食の市場規模は、(2015年)現在およそ340兆円。これが10年後には680兆円に倍増するとも言われている。この巨大な市場に対して、日本は食そのものだけでなくIT農業のノウハウも展開していける可能性がある。今回の取り組みは、そんなスケールの大きな挑戦だと考えていただきたい」とも語った。
少々風呂敷を広げたような話にも聞こえるが、この見方は農業分野に限らず、ITの潜在需要の本質を突いている。なぜならば、ITは今や全ての産業を形づくる道具になりつつあるからだ。そんなことを改めて認識させられた会見だった。
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