アップルとの協業に注力するIBMの思惑:Weekly Memo(2/2 ページ)
企業向けモバイルサービスで2014年7月に業務提携を発表したAppleとIBM。その進捗について日本IBMがこのほど説明した。そこから見えてきたIBMの思惑とは――。
IBMがAppleから学ぶ「デザインへのこだわり」
今回、日本IBMが両社の提携の進捗について説明したのはMobileFirst for iOSについてのみだったが、ほかにも「企業が保有する全ての端末管理やセキュリティ、データ分析などを含めて最適化されたIBM独自のクラウドサービスの提供」や「新たなモバイルサービス&サポートの提供」、そして「IBMが企業向けにiPhone/iPadを販売する」ことが提携内容として挙げられている。
そうした内容のもと、ビッグネーム同士が手を組んだことで大きな話題を呼んでいるが、最も注目されるのは「独占的なパートナーシップ契約」を結んでいることである。
この契約はつまり、MobileFirst for iOSは両社で共同開発するものの、その維持・運用管理やサポート、そして販売については、AppleがIBMに委ねた形だ。この点について、藤森氏はIBMサイドのとらえ方として次のように語っている。
「IBMはAppleとの提携によって、モバイルアプリケーションの設計・開発から、iOSのアップデート対応の維持管理、システム運用管理、さらには端末の販売まで、企業向けモバイルソリューションをエンドツーエンドで提供できる唯一のベンダーになった」
ただ、多くの企業に受け入れられるモバイルソリューションを提供するためには、魅力のあるアプリケーションを商品化できるかどうかにかかっている。そのカギとなるのは、Appleが真骨頂とするデザインでありユーザーエクスペリエンスだ。IBMがAppleと独占契約までして提携したのは、そのノウハウをAppleから習得し、魅力のあるアプリケーションを開発し自ら販売して大きなビジネスに育て上げるという明確なビジョンがあるからだ。
藤森氏によると、実際にMobileFirst for iOSの共同開発にあたっては、IBMがつくったものに対して、Appleがデザインやユーザーエクスペリエンスの観点からレビューを行う形で作業を進めているという。
一方、Appleにとっても、これまでなかなか開拓できなかった企業向け市場に向け、IBMという強力なパートナーを得たメリットは大きい。しかも独占契約に踏み切ったのは、IBMに“本気”でビジネス展開してもらうためだと推察される。おそらくIBMはAppleに相当高い販売目標のコミットを行っているものとみられる。
こうした提携では、お互いにビジネス的なコミットを行うのは当然のことだ。ただ、今回の両社の提携における進捗の説明で、アート氏や藤森氏をはじめIBM関係者が口を揃えて語っていたのは、Appleのデザインやユーザーエクスペリエンスに対するこだわりの強さだ。デザインやユーザーエクスペリエンスは、ビジネスにとどまらず企業文化、ひいてはブランドそのものに関わるものである。それをAppleから学ぶことで、自らの企業文化に刺激を与えたいと、IBMの経営陣は考えているのではないか。ぜひとも同社の経営トップに聞いてみたいものである。
関連記事
- 松岡功「Weekly Memo」バックナンバー一覧
- WatsonとSiriは“化学反応”を起こすか
IBMが人工知能技術「Watson」を活用した分析サービスを発表した。先頃提携したAppleの音声認識技術「Siri」と組み合わせれば、新たな“化学反応”が起きるかもしれない。 - AppleとIBMが企業向けモバイルで大規模提携 IBMは専用アプリ搭載のiOS端末を販売へ
IBMはiOS専用のデータ分析などのアプリを開発し、それらのアプリをインストールしたiOS端末を顧客に販売する。 - Apple、企業向けAppleCareを立ち上げ──「IBMと協力して問題を解決します」
Appleが、7月のIBMとの提携発表の際に予告していた企業向けAppleCareのページを開設した。年中無休24時間体制の電話サポートや、IBMグローバルテクノロジーサービスの出張修理を利用できる。 - IBM、「Apple Watch」などのヘルスビッグデータ部門「Watson Health」立ち上げ
IBMが、AppleのHealthKitおよびResearchKit採用アプリがiPhoneやApple Watchユーザーから集めたヘルスケア関連データを「Health Cloud」に保存し「Watson」で解析できるようにするサービス部門「Watson Health」を立ち上げた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.