Dr.コトー「甑島」をつなぐIT、薩摩川内市×Skype for Businessが示した可能性:「自治体×IT活用」どうする?(3/3 ページ)
「甑島国定公園の誕生」を記念した式典が鹿児島県・薩摩川内市で開催された。本土と神秘の島「甑島」を結んだ式典中継システムとして活躍したのは、意外なほど身近なITシステムだった。「地域コミュニティでの活用」を積極推進する、ある地方自治体の事例を紹介する。
式典の成功を受け、全職員への展開を視野に
改めて、今回の記念式典の中継にSkype for Businessを用いたのか。鹿児島県薩摩川内市のIT担当である企画政策部情報政策課の瀬戸口良一課長と同上田雄介氏、大阪拠点にいる日本マイクロソフト コーポレート営業統括本部公共営業部の下川貴幸氏に「Skype for Business」でその意図を聞いた。
マイクロソフトの下川氏は、前述した当日の苦労もさることながら、風雨の厳しい場所で中継を行うための下準備に奔走したという。マイクロソフトは東日本震災後の石巻地区での中継システムなど、すでにSkype for Businessでの導入実績があり、ある程度の算段はあった。例えばアップルのFaceTimeは1対1の通信を主とする仕組みであるのに対し、Skype for Businessは複数の拠点間で同時中継できるよう設計したWeb会議システムであるのが強み。それが今回の式典中継にも生かされた。
過酷な環境でも式典レベルの中継をこなす高品質な配信ができた。前述した熱暴走の例のように、過去には防災訓練での埃が舞う環境でデバイスが故障したケースはある。適時環境に合わせたデバイスを選ぶ必要はあるものの、Skype for Businessはカメラ内蔵タブレットのSurfaceとデータ通信環境さえあればどこでも手軽に中継できる実力は、また別の活用にも生かせそうと薩摩川内市は高く評価する。
薩摩川内市の瀬戸口氏は「当初、インターネットを使った現地中継は考えていませんでしたが、タブレットの貸与を含めてお試し的な提案もあり、ある程度の回線さえ確保できればここまでしっかりしたことができることを知りました」という。同市は、今回の中継成功を受け、Skype for Business Onlineを含むOffice 365の全職員への導入を検討し始めたところだ。2015年4月現在、全職員1100名のうち660ユーザー分のOffice 365ライセンスがあり、適する部署や役割の職員が使用している。これを、カメラ内蔵PCやタブレットなどの職員向け端末の整備などとともに、2017年9月末を目標に予算確保と端末(700台)/ライセンスの同時購入を進め、市政および市民サービスの向上に役立てていく計画という。
例えば、消防や学校などの相互コミュニケーションも取り組み例として上がっている。これら拠点は、端から端までクルマで1時間、甑島を含むと2〜3時間以上もの物理的距離がある。この距離と時間の隔たりをITが解決する。別途テレビ会議システムを市内9地点に設置してはいるが、Skype for Businessはよりパーソナルに、手軽にコミュニケーションできるようになる敷居の低さをメリットに挙げている。タブレットの導入は市議会も興味を示しているようで、ITの利用スタイルに変化をもたらす兆候もうかがえる。
薩摩川内市が挑んだSkype for Business×甑島国定公園記念式典中継の取り組みは、地域コミュニケーションの活性化に主眼を置いた自治体×IT活用の「なるほどこうすれば」な好例だ。業務PC選定やクラウド導入を含めた社内情報共有基盤を整えるべく、スモールスタートを図る企業としても大いに参考にできる事例といえそうだ。
Lyncから「Skype for Business」へ名称を変更
Microsoftでは2015年4月より、これまで「Lync」の名称で提供が行われていた企業向けコミュニケーションツールの名称を「Skype for BusinessSkype for Business」へと変更し、コンシューマー向けブランドとしてすでに定評のある「Skype」に会社として統一する方針を固めた。4月14日には同月に行われるOffice 2013の月例アップデートでSkype for Businessのクライアントソフトウェアが正式利用可能になったほか、Office 365ユーザーへも、Skype for Business Onlineの提供開始が予告されている。後者については、5月中にはOffice 365の全ユーザーアカウントで利用が可能になる予定だ。
改めて、Skype for Business Online(旧Lync Online)は、クラウド版グループウェアサービスである「Office 365」を構成する中核サービスの1つだ。メンバーの在籍確認、テキストチャット、ビデオ会議、ホワイトボード共有による共同作業といった機能を統合したオフィス向けのコミュニケーションツールとして展開する。
PCとWebカメラがあれば使えてしまうビデオ会議機能も、ビジネスでの大きな効果が見込める。遠隔での複数拠点を同時に結んだビデオ会議の仕組みを手軽に作れる。チーム間での連携がスムーズになるだけでなく、出張旅費が削減できるメリットもある。
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