マイナンバー収集「先送り」「様子見」のワナ:税理士目線で提案する「中小企業のマイナンバー対策」(2/3 ページ)
通知カードの配達遅れを受けて、一部で「様子見」傾向が出てきているというマイナンバー対策。収集や管理について「ここで気を緩めてはいけない理由」を確認しよう。
従業員などのマイナンバーが必要となるのはいつからなのか?
確かに、従業員から収集したマイナンバーを実際に税の分野で利用することになるのは、従業員の退職がなければ、2016年の年末調整業務で源泉徴収票や給与支払報告書を作成するときになります。そう考えて、従業員などのマイナンバーも「2016年の11月くらいまでに集めれば良いじゃないか」と様子見する気持ちも分かりますが、今から1年もたつと、必ずマイナンバーの通知カードを失くす従業員や扶養親族が出てきて、収集が難しくなることは間違いありません。
また、従業員の出入りが多い企業では、2016年1月以降に従業員が退職する場合には、退職関連の手続きで退職する従業員などのマイナンバーが必要になりますので、その時点でマイナンバーを管理できる体制ができていなければいけないことになります。
従業員が退職した場合 マイナンバーが必要となる手続き
では2016年1月以降、従業員などが退職した場合はどのような手続きでマイナンバーが必要になるのでしょうか。次の表は、2016年の中途で退職する従業員などに関わる手続きでマイナンバーの記載が必要となる書類を整理したものです。
従業員の退職時にはこのほかに、退職までの給与所得についての源泉徴収票、退職手当などがある場合は退職所得の源泉徴収票を本人に交付しなければなりません。しかし、前回取り上げた通り、本人交付の源泉徴収票にはマイナンバーの記載が不要となったため、従業員の退職時にすぐ、マイナンバーを記載して作成し、提出しなければならないのは「雇用保険被保険者資格喪失届」となります。
この「雇用保険被保険者資格喪失届」は、退職する従業員本人のマイナンバーを記載すればいい書類ですが、従業員が退職する以前にマイナンバーを取得していない場合は、退職手続きを行うなかで本人にマイナンバーの提供を依頼し、取得することになります。
このとき気をつけなければならないのは、退職する従業員が給与支払報告書の提出要件を満たしている場合は、本人に加え、扶養親族のマイナンバーも必要になるという点です。この給与支払報告書の作成・提出は、2017年に行えばいいのですが、2017年の書類作成時に退職者に連絡してマイナンバーの提供を求めても、スムーズにいかない可能性もあります。そのため、本人と扶養親族のマイナンバーは、退職する時点で取得しておきたいものです。
退職者が出ても慌てずに済むように、最低限の準備としてまずは次のような従業員への案内を徹底しましょう。
- 従業員にマイナンバーの利用目的を示した上で、従業員本人と扶養親族のマイナンバーの提供を求める
- 従業員に案内するなかで、マイナンバーの提供時にマイナンバーの通知カード(個人番号カードを取得している場合は個人番号カード)が必要となること、実際に企業がマイナンバーを収集するまで通知カードは大事に保管しておくこともあわせて案内する
その上で、マイナンバーを管理するためのシステム選びと、それに応じた安全管理措置などを検討し、マイナンバーの収集に向けた準備を開始することが大事です。
なお、新たに従業員を雇用する場合も、雇用保険の被保険者資格取得届をハローワークに提出します。この書類には雇用する従業員本人のマイナンバーが必要となりますが、できれば新たに雇用する従業員については入社時点で本人と扶養親族のマイナンバーも収集して、年末調整業務に備えておきたいものです。
このように従業員の入退社のタイミングで本人と扶養親族のマイナンバーを収集することになるので、急な従業員の退職で慌てずに済むよう、早めにマイナンバー収集の準備に取り掛かることをお勧めします。
関連記事
- 特集:間に合わせる、その後も見据える「マイナンバー緊急対策 実践指南」
2016年1月に利用が始まる「マイナンバー(個人番号)制度」。全ての企業は、このマイナンバーに社として対応する必要が迫られています。「マイナンバーとは何か?」の基本解説とともに、企業のIT担当リーダーが抱える課題に特化し、実対策と実導入・導入に向けた具体策をまとめていきます。 - FinTech系クラウド会計 A-SaaSとfreeeが提携、データ連携開始
税理士向けクラウド会計「A-SaaS」と個人事業主・小規模法人向けクラウド会計「freee」が提携。freeeの仕訳データをA-SaaSで取り込めるようにし、個人事業主+中小規模法人から委託する税理士の税務・申告まで、一気通貫での税務対応を実現する。 - アカウンティング・サース、税理士+中小企業向け「クラウドマイナンバー管理サービス」開始
税理士向けクラウド会計サービス「A-SaaS」を展開するアカウンティング・サース・ジャパンが、クラウド型の「マイナンバー管理サービス」を開始。“できれば持ちたくない”税理士と税理士へ税業務を委託する中小企業に向けて展開する。 - マイナンバー、自社コスト負担に懸念 平均109万円
帝国データバンクが、企業約1万社を対象にしたマイナンバー制度に関する意識調査を発表。6割は「まだ何もしていない」、負担額は平均109万円。新たなコスト負担の懸念、効果を不安視する声が浮き彫りになった。 - 2015年秋からスタートする「番号制度(マイナンバー)」とは何ですか?
2015年10月から始まる「番号制度(マイナンバー)」。段階的な利用拡大に伴って、行政だけでなく民間企業でも様々な対応が必要となります。本連載では制度のあらましと行政の対応、民間企業が取り組むべき点について解説していきます。 - マイナンバーのセキュリティ対策 面倒な事態を避けるには?
これから社内で取り扱っていくマイナンバーという“新しい情報”ではセキュリティが重要だといわれる。システム管理者や経営者はどう向き合えばいいのかを解説しよう。 - 企業のマイナンバー対応に大幅な遅れ、ルールやシステム整備に問題
日経BPコンサルティングの調査から、マイナンバー対応作業に着手した企業は2割に満たず、2017年1月の制度施行に間に合わない企業が多発すると予想される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.