なぜSAPはPaaSの名称から「HANA」を外したのか:Weekly Memo(2/2 ページ)
SAPがクラウドプラットフォームを強化した。注目されるのは、これまで「HANA」を前面に出していたPaaSの名称を「SAP Cloud Platform」に変えたことだ。その意図とは――。
HANAだけでなく他のデータベースも選択できるPaaSに
ここまで、まずは今回の発表内容を紹介してきたが、改めて、なぜSAPはこれまでHANAを前面に出していたPaaSの名称をSAP Cloud Platformに変えたのか。シューマン氏はその意図を次のように説明した。
「これからのPaaSは、企業における既存システムのクラウドへの移行とともに、IoTやビッグデータの活用といった新たなIT環境への対応が求められる。そのためには、HANAだけでなく、さまざまなオープンソースやAI(人工知能)に関連する技術を利用できるようにして、顧客に最適なソリューションを提供できるようにすることが重要だ。顧客が望んでいるのは、オープンでアジャイルな開発が可能なPaaSである」(図3参照)
さらに、会見の質疑応答で、「HANAには先進的なイメージがあるのに、なぜ外したのか」と少々しつこく聞いたところ、同氏はこう答えた。
「SAP Cloud Platformはさまざまなデータベースを利用できるよう設計しているが、これまでのHANA Cloud Platformだと、データベースはHANAしか使えないと受け止められてしまう。HANAはもちろん、SAP Cloud Platformにおいても中核となるが、顧客にとっては選択肢が非常に重要だ。そうした考え方から、改称に踏み切った」
これは、今まで「HANAのためのPaaS」を打ち出してきたSAPが、端的にいえば「HANAも要素の1つにしたPaaS」に戦略転換したということだろう。とすると、単なる改称ではなく、SAPがクラウド事業で何を目指しているかという根幹にも関わる話だと受け止めるべきである。
今回のPaaS改称の発表を聞いて、Microsoftが2014年4月にIaaS/PaaSの「Windows Azure」を「Microsoft Azure」に改称したことを思い出した。同社の改称もWindowsをはじめとした自社のプラットフォームだけでなく、さまざまなOSや言語、ミドルウェアに対応したクラウドプラットフォームにしたいという意図があった。結果、今では例えばLinuxベースの利用が全体の3割を超えるほどになっている。
その意味でいえば、SAPの意図もMicrosoftと同じだろう。さらに、SAPはこれから巨大なERPの顧客ベースをSAP Cloud Platformに移行もしくは連携させる戦略に打って出るだろう。シューマン氏の冒頭の発言にあるように、「アプリケーションを熟知したSAPならではのプラットフォーム」がどのようなものになるのか、注目しておきたい。
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