NECから温泉旅館へ転身――元エンジニアが挑む、老舗ホテルのIT化:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(2/3 ページ)
箱根湯本にある老舗ホテル「ホテルおかだ」。このホテルでは、AIを導入するなど積極的なIT活用を進めている。その中心となって動いている原さんは、NECにも勤めた経験のあるエンジニアという異色の経歴を持っている。
現場の仕事を楽にするツールを次々と自作
最初に原さんが目を付けたのは、団体用の部屋割り印刷だった。1部屋1部屋、Wordで名前を入力して印刷している様子を見て、目を疑ったという。
「プログラムを開発していた身からすれば、信じられないことでした。5人の名前を書いて印刷して、1文字でも間違っていれば印刷し直し。でも、お客さまは名前をデータで送ってくれているケースもある。『こんなに非効率なことはない』と思い、お客さまに名前登録用のフォーマットを送り、ボタン1つで全て印刷できるようにしました」(原さん)
ツールが完成するまでの時間は約2時間。その後もフロント業務を楽にするため、手書きで書いていた朝食券やお風呂券などのチケットを、DBからデータを取り出して、自動で印刷できるツールを作ったが、当初は全く使われなかったという。その理由について、原さんは「条件を絞る」といった“ひと手間”があったからだと推測している。
「今までの考え方で、自分が使いやすいだろうと思ったものを作っても、使ってもらえませんでした。人をシステムに寄せる考え方ではダメで、業務の中に溶け込むものじゃなくちゃいけない。最初は全体最適を考えていたんですけど、それだとダメで、1つの業務の負荷をどれだけ減らすかという部分最適を選びました。とにかく分かりやすく、ボタン1つで終わる、ということを心掛けましたね」(原さん)
ボタン1つでできるようになっても、現場から抵抗されるときもあった。POSレジのシステムや売上集計を自動化するシステムも作ったが、既存の業務を大切にし、誇りを持っていた人たちからは嫌がられたという。そういう時は反対している人と積極的にコミュニケーションをとったり、IT活用に対して前向きなメンバーに声をかけたりといったことをして導入を進めてきたが、一方でボツにしたツールも多数あるそうだ。
「自己満足になっていたツールもたくさんありました。特にプロダクトから入ると、『これがいい』と信じ込んでしまう傾向があります。そういうときは、実際に使ってもらって判断しますね。動きを見て、思ったシナリオと違ったらもうボツにします。そしたら自分で改善すればいいので。費用もかかりませんし、すぐにトライ&エラーができるのはいいところですよね」(原さん)
こうして、現場を助けるさまざまなツールを作っていった原さん。旅館の改装などにも携わり、ホテルの支配人として仕事を順調にこなしていたが、ここで原さんの考え方を大きく変える事件が起こった。2011年3月11日に発生した「東日本大震災」だ。
関連記事
- 特集:Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜
- IoTが変える観光の姿――瀬戸内の離島が「電動バイクレンタル」を始めた理由
ソフトバンクと日本オラクルが、瀬戸内海の豊島で電動バイクのレンタル事業を始めた。LTE通信を行う車載機器をバイクに内蔵し、位置やバッテリー残量など、さまざまなデータを取得するという。IoTは離島の観光にどんな影響を与えるのだろうか。 - 広島市の観光情報発信でWi-Fiとカード利用促進 NTT西日本と三井住友カードが協働
西日本電信電話(NTT西日本)と三井住友カードは、広島県に来訪する外国人旅行者向けに、Webメディアでの情報発信を通じて、無料Wi-Fiサービスとクレジットカードの利用促進を図り、効果をAI分析などで見える化する。 - 観光客の言葉の壁、ITで解消へ パナソニックとJTB、自動翻訳の実証実験
観光地のホテルや案内所に自動翻訳機を設置し、便利な点と改善点を抽出。新たなサービス開発に役立てるのが狙いだ。 - 老舗温泉旅館「一の湯」、Oracle Service Cloud導入でカスタマーサービスを拡充
300年以上続く箱根温泉旅館の老舗「一の湯」が、オラクルのカスタマーサービス支援クラウド「Oracle Service Cloud」を採用。自社Webサイト経由の予約客増加とインバウンド需要に向けたサービス拡充を目指す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.