「社内に“シリコンバレー流”をつくれ!」 デンソーが挑む変革のアプローチとは:Weekly Memo(2/2 ページ)
企業は今、ビジネスの競争力強化に向けてデジタル変革によるイノベーションが求められている。だが、いったいどのようにアプローチすればよいのか。この問題について興味深い取り組みを聞いたので、今回はその話を取り上げたい。
手法や技術とともに“シリコンバレー流”のパッションも必要
では、デジタル変革によって未来のモビリティ社会を実現するためには、どのようにアプローチすればよいのか。成迫氏はまず、「現在の活動の延長線上ではなく、全く違った発想に挑む。それがイノベーションにつながる」との考え方で取り組むことが重要だと説く。
例えば、タクシー事業の場合だと、事業者視点で燃費のよい車にしたり、顧客視点で料金を安くするといった現在の延長線上での取り組みに対し、Uberのように車を保有せずにこの事業で大成功を収めているケースも出てきている。これが、まさしくイノベーションである。(図4)
とはいえ、全く違った発想を生み出すためにはどうすればよいのか。この疑問に対し、成迫氏は次のような見解を示した。
「私が大事にしているのは、マーケティングの原点に立ち返って、ユーザーが本当に欲しいものは何かを追求し、それを提供できる手だてを具現化すること。例えば、消費者が工具のドリルを購入する際に何が欲しいと思っているか。気に入ったドリルと思いがちだが、消費者が本来やりたかったのは“穴を開ける”ことだ。誰かが穴を開けてくれるのであれば、ドリルを買う必要はない。それが“サービス化”ということではないか」
ドリルの話はよく使われる比喩だが、こうして改めて聞くと説得力がある。
では、デンソーはイノベーションを実現するために、どのように動いたのか。まず、モビリティ業界におけるデジタル変革の全体像を図5のように描いた。この図のポイントは、下側のリアル世界のモビリティが、上側のサイバー世界でもシャドーのように存在していることを表している点だ。どういうことか。モビリティの実体がサイバー空間に全てデータとして記録されているということだ。Uberなどのイノベーターは、このサイバー空間で新たなビジネスを生み出したのである。
ディスラプター(創造的な破壊者)とも呼ばれるそうしたイノベーターたちは、新たなビジネスを生み出すために、具体的にどのように取り組んでいるのか。2017年4月に「デジタルイノベーション室」を設けてMaaSの実現を目指している成迫氏は、シリコンバレーなどのイノベーターの取り組みを研究したという。そこから自らの取り組みにも取り入れている内容が、図6である。
図6のポイントはご覧の通り3つ。「ゼロからイチを創る」ことについては「デザイン思考」や「サービスデザイン」といった手法を使い、「早く作る、安く作る」ために必要な技術を適用し、「作りながら考える、顧客と共に創る」うえではアジャイル開発を軸にするといった内容だ。
「これからイノベーターとなり得るシリコンバレーなどのスタートアップ企業も、有効な手法や技術を積極的に採用している。そこで、私たちも同じ土俵に立つために、同じ道具、同じ文化で同じ体制を構築した。さらに、既存の企業では失いがちな“パッション”もシリコンバレー流でないと立ち向かえない。メンバーが一丸となってイノベーションに挑みたい」
こう語る成迫の言葉には、「動く方向と方法に間違いはない」との自信が感じられた。もちろん、これからは「何を生み出し、具現化できるか」が問われるが、そこへ行くためにどうアプローチするか。同氏の見解は他の企業にとっても大いに参考にできる点がありそうだ。
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