デジタルビジネスに挑む企業の“映し鏡”に――NECの新たな取り組みは奏功するか:Weekly Memo(2/2 ページ)
NECがデジタルビジネスのさらなる促進に向けて、新しい組織やビジネスの仕組みを発表した。これから多くの企業がデジタルビジネスに挑む中で、同社の新たな取り組みはさまざまな観点で参考になりそうだ。
デジタルビジネスに向けた新たな取り組みとは
では、今回の取り組みの概要を説明しておこう。
まず、デジタルフレームワークは、全社のアセットとナレッジ(ノウハウ、知見)を最大限活用するための枠組みを生体認証・映像分析から整備。ユーザーへの価値提供を起点とし、さまざまなユースケースをビジネスフレームワークとして体系化している。また、個々のユースケースを実現するための実装モデルをシステムフレームワークとして定義。これにより、ユーザーニーズや課題に最適な提案、高度な価値創出が可能になるとしている(図2)。
デジタルHubについては、NECのデジタルビジネスにおける中心的役割を担う全社共通機能として個別案件を支援するソリューションコア機能と、事業戦略の構築、実行を支援するビジネスコア機能を整備。デジタルHubが中心となってデジタルフレームワークを活用することで、ユーザーの課題解決につながるNECのノウハウと知見を生かしたソリューションを、正確かつ迅速に提供することを目指す構えだ(図3)。
そして、生体認証・映像分析統合プラットフォームは、システムフレームワークの1つとして、生体認証・映像分析技術をユーザーのニーズや課題に適した形で自在に組み合わせて使えるように整備。これによりクラウド、ネットワーク、エッジにまたがり、生体情報や映像データをリアルタイムかつセキュアに分析することが可能になるとしている(図4)。
吉崎氏は会見での説明の最後に、「今回の取り組みは、デジタルビジネスの加速に向けた第1段階。第2段階では対象領域を人工知能(AI)やクラウド、セキュリティへと順次拡大し、第3段階では全社横断での取り組みに広げていく」と、今後の計画を語った。つまり、吉崎氏が率いる新組織はNEC全社のデジタルビジネスへの移行をリードする役目を担っているのである。
さて、このNECの新たな取り組みをどう見るか。自らもデジタルビジネスに挑んでいかなければならない企業の視点で今回のNECの動きを捉えてみると、参考になるポイントが幾つかあるのではないだろうか。筆者なりに3つ挙げてみたい。
1つ目は、デジタルビジネスを推進する「専任組織を設ける」ことである。しかもこの組織は企業にとってデジタルシフトへの改革を進める役目を担っているので、けん引役となるリーダーは既存の組織にしがらみがない方が大胆に進められるかもしれない。
2つ目は、デジタルビジネスとして「何をやるかを明確にする」ことだ。NECの取り組みでは、図1がそれを示している。だからこそ、先ほど述べたように、非常に大きな意味のある図なのである。要はデジタルビジネスのグランドデザインを明確に描くことである。
そして3つ目は、ステップアップの内容とともに「目標を明確に示す」ことだ。NECの取り組みでは、吉崎氏が「全社横断での取り組みに広げていく」ことを明言した。さらに同氏は、「デジタルシフトの加速は、社長の新野(隆)もNEC創業120年目の大改革に向けた取り組みだと言っている」と、経営トップの強い意思があることを示した。この経営トップの強い意思が最も重要だと、筆者は考える。
加えて申し上げておけば、上記の3つは並行して動かす必要がある。例えば、新組織を設けても、何をやるか、目標は何か、を明確にしないと、新組織がただ浮き出た存在になってしまいかねないということだ。
そう考えると、NECの新たな取り組みはデジタルビジネスに挑む企業にとって“映し鏡”となりそうだ。
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