AWSのパートナー施策から浮かび上がった「ユーザー企業の課題」とは DX推進を阻む“2つの課題”への処方箋:Weekly Memo(2/2 ページ)
AWSジャパンのパートナー施策には「顧客が抱える課題を解消するために何ができるか」という同社の姿勢が打ち出されている。同施策から浮かび上がってきたDX推進企業の課題と対策とは――。
ユーザーの内製化をどのように支援していくか
今回取り上げるDX推進企業にとってのもう一つの課題である内製化は、パートナー施策からいえば「ユーザーの内製化をどのように支援していくか」だ。
DX推進企業が、なぜ内製化に取り組む必要があるのか。それはDXがデジタルを活用した「ビジネス変革」であり「経営改革」だからだ。ビジネス変革や経営改革は自らの手でやるべきで、そのためのデジタル活用も自らの意思決定によって進めるべきだ。ただ、その取り組みに必要な技術スキルをカバーするためにはIT人材が不可欠だ。それをIT企業であるAWSとパートナーがどのように支援していくのか。
AWSジャパンは2021年に「内製化支援推進AWSパートナー」制度を設け、当初10社でスタートした。2022年に入って19社になり、今回のイベント(2023年)では30社まで増えた(図3)。渡邉氏は「この増加ぶりがユーザーの内製化ニーズを物語っている」との見方を示した。
内製化支援とは具体的に何をやるのか。内製化の取り組みに対する「コンサルティング」、システムやアプリケーションの「共同開発、運用保守」、ユーザー企業の「IT人材育成」などが挙げられる。そうした点とともに、渡邉氏は次のように説明した。
「お客さま(ユーザー)がDXにおいて内製化を進める上でのポイントは、(ビジネスと開発と運用の各部門が協力してIT化を進める)BizDevOpsによるアジャイルなチームをビジネスの現場に設けていくことだ。そのBizはもちろんDevOpsにおいてもお客さま自身が明確な方向性を示す必要がある。それに基づいてDevOpsを動かすのはIT企業(パートナー)をチームのメンバーとして迎え入れて大いに力を借りればいい。こうした形がこれからのDXにおけるユーザー企業とIT企業のあるべき『共創』の姿だと考えている」
「共創」はDXにおけるユーザー企業とIT企業の新たな関係を表す言葉としてよく使われる。そこにBizDevOpsの在りようを重ね合わせる発想は興味深いところだ。
内製化支援推進AWSパートナーになるためには、「AWSコンピテンシープログラム」から必要なコンピテンシーを取得する必要がある。このプログラムは業種やユースケース、ワークロード別のスキルや導入実績による認定を行うものだ(図4)。その内容をユーザーにも公開して、ユーザーが自社の要望に合うパートナーを選べるようにしている。見方によってはパートナーの「格付け」とも映るが、ユーザーにとっては分かりやすい選択肢となる。
AWSジャパンは内製化支援にあたり、同プログラムのユースケースにある「DevOps」「データ分析」「機械学習」といったコンピテンシーをパートナーに取得するように呼び掛けているという(図4)。
公共分野向けパートナー施策からも筆者が注目した取り組みを1つ紹介しよう。
政府が「クラウド・バイ・デフォルト」という方針を打ち出し、ガバメントクラウドの活用が見込まれているだけに、公共分野における顧客争奪戦は今後一層激しくなるとみられる。
図5に示したのが、公共分野におけるAWSの採用実績だ。大場氏は「公共分野でも広い範囲でAWSの利用が進んでいる。今後もパートナー企業の支援をしっかりと行いたい」と述べた。
具体的な施策としては、「AWS公共部門との営業連携」「公共調達に関する支援」「公共分野の専門人材の活用」「移行やサービス開発への支援」「マーティングプロモーション」「公共分野向けファンド」「公共コンピテンシー」などが挙げられている。
筆者が注目したのは、図6に示した公共パートナー向けの営業支援ツールのセールスキットだ。これにより、パートナー企業は公共分野のユーザーに対して均質的な営業活動ができる一方、ユーザーとしてもこのツールによってAWSの知見やノウハウを確認することができる。AWSジャパンの営業姿勢のきめ細かさを感じた。
こうしたAWSジャパンの「ユーザー視点のパートナー施策」に対し、ここにきて他のクラウドベンダーも追随する取り組みがみられるようになってきた。その動きについては、2023年3月6日掲載の本連載記事「Google Cloudのパートナー施策刷新から探る なぜ、クラウドベンダー大手は『パートナー施策』に注力するのか」を参照いただきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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